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【種牡馬辞典】Godolphin Arabian~Matchem系

Fair Play

<プロフィール>
1905年生、米国産、32戦10勝
<主な勝ち鞍>
1908年ブルックリンダービー(D12F)
1908年ジェロームH(D10.5F)
1908年ローレンスリアライゼーションS(D13F)
<代表産駒>
Man o' War(1920年プリークネスS、ベルモントS、トラヴァーズS、ジョッキークラブGC)
Mad Hatter(1921、22年メトロポリタンH、ジョッキークラブGC)
Display(1926年プリークネスS)
<特徴>
父Hastings譲りの激しい気性と距離不足から同世代のColinには一度も先着することができなかったが、同馬の引退後に距離を延ばしてからは豊富なスタミナを武器に1908年ブルックリンダービー、ジェロームH、ローレンスリアライゼーションSなどを制して同世代の中心的存在に。また、種牡馬としては1920、24、27年米リーディングサイアーに輝くなどColin以上の成功を収め、何よりも歴史的名馬Man o' War(1920年プリークネスS、ベルモントS、ジョッキークラブGC)を出した功績は計り知れない。アメリカ産馬ではあるが、血統はイギリス血脈主体の構成であり、半弟Friar Rock(1916年ベルモントS、ブルックリンH、サバーバンH)などきょうだいの活躍馬も多い。ちなみに、活躍馬のほとんどがRock Sandの血を母方が引いており、Man o' Warもそのうちの一頭だ。

-Man o' War

<プロフィール>
1917年生、米国産、21戦20勝
<主な勝ち鞍>
1920年プリークネスS(D9F)
1920年ベルモントS(D11F)
1920年トラヴァーズS(D10F)
1920年ジョッキークラブGC(D12F)
<代表産駒>
Crusader(1926年ベルモントS、ジョッキークラブGC)
Clyde van Dusen(1929年ケンタッキーダービー)
War Admiral(1937年ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントS)
Pavot(1945年ベルモントS、1946年ジョッキークラブGC)
<特徴>
米ブラッドホース誌が企画した「20世紀の名馬100選」で第1位に選ばれたアメリカ競馬史上屈指の名馬。筋骨隆々の大型馬で、ダート5〜13Fで21戦20勝を挙げた。種牡馬としても種付け頭数の制限によりリーディングサイアーこそ1926年の1度のみに終わったが、米三冠馬War Admiralを筆頭にAmerican Flag(1925年ベルモントS)やCrusader(1926年ベルモントS、ジョッキークラブGC)、Clyde van Dusen(1929年ケンタッキーダービー)、Pavot(1945年ベルモントS、1946年ジョッキークラブGC)などを輩出。後継種牡馬のWar AdmiralとWar Relicもそれぞれ父系を発展させており、現代競馬、特にアメリカ競馬には現在でも強い影響力を有している。

--War Admiral

<プロフィール>
1934年生、米国産、26戦21勝
<主な勝ち鞍>
1937年ケンタッキーダービー(D10F)
1937年プリークネスS(D9.5F)
1937年ベルモントS(D12F)
1938年ジョッキークラブGC(D16F)
<代表産駒>
Busher(1945年アーリントンH、ハリウッドダービー)
Blue Peter(1948年米ホープフルS、ベルモントフューチュリティS)
Busanda(1950年アラバマS、1951年サバーバンH)
<特徴>
アメリカ競馬史上4頭目のクラシック三冠馬。父Man o' Warほど馬格に恵まれた馬ではなかったが、豊富な筋肉量は父親譲りで、競走馬としても種牡馬としても成功を収めた。ただ、現代競馬においては繁殖牝馬の父としての貢献度の方が大きく、Never Say DieやHoist the Flag、Francis S.などの誕生に貢献。特にLa Troienne牝系の繁殖牝馬との間にBusher、Striking、Searching、Blue Eyed Momo、Busandaなどの名牝、名繁殖牝馬を多数輩出し、その一族からはBuckpasserを筆頭に多くの名馬、名種牡馬、名繁殖牝馬が誕生した。ちなみに、母の半弟War Glory(1933年ドワイヤーS、ローレンスリアライゼーションS)とは3/4同血という間柄で、種牡馬Eight Thirty(1939年トラヴァーズS、ホイットニーS、1940年サバーバンH、1941年メトロポリタンH)の母母とも血統構成が酷似している。

--War Relic

<プロフィール>
1938年生、米国産、20戦9勝
<主な勝ち鞍>
1941年マサチューセッツH(D9F)
1941年ナラガンセットスペシャル(D9.5F)
<代表産駒>
Relic(1947年米ホープフルS)
Battlefield(1950年ベルモントフューチュリティS、米ホープフルS、1951年トラヴァーズS)
<特徴>
競走馬としても種牡馬としても大成することはできなかったが、Intent→Intentionally→In Realityを通じて21世紀にMan o' War父系を繋いだ立役者。Fairy Goldの3×3、Rock Sandの3×3という強いインブリードを持ち、母父である1916年米年度代表馬Friar Rock(父Rock Sand、母Fairy Gold)の影響を多分に受けた競走馬だったといえる。また、インブリードがきついだけでなく、Hastings→Fair Play系らしい極めて気性が激しい馬だったとも。In RealityはWar Relicを3×3でインブリードしており、本馬の血はIn Realityを通して後世に受け継がれている。また、種牡馬Damascusが持つSpeed Boatとは全姉弟、種牡馬Eight ThirtyやDeputy Ministerの4代母であるGood Exampleとは本血脈を増幅する関係にあり、Deputy Minister~クロフネやヘニーヒューズなど本血脈をパワー源とする北米種牡馬も少なくない。

---Relic

<プロフィール>
1945年生、米国産、7戦5勝
<主な勝ち鞍>
1947年米ホープフルS(D6.5F)
<代表産駒>
Buisson Ardent(1955年ミドルパークS、1956年仏2000ギニー、ジャックルマロワ賞)
ヴエンチア(1959年ミドルパークS、1960年St.ジェームズパレスS、サセックスS)
ミンシオ(1960年仏2000ギニー、ムーランドロンシャン賞、フォレ賞)
<特徴>
怪我によりケンタッキーダービー目前での引退となったが、馬体のアウトラインは父War Relicによく似ており、父譲りのパワーを武器に1947年米ホープフルSなどを制覇。Commandoを5×4でインブリードしており、父よりもスピードに優れた馬だったともいえるだろうか。種牡馬としてはアメリカ、フランス、イギリスで活躍し、ヨーロッパにおけるMan o' War系の発展に大きく貢献した。さらに、日本には代表産駒であるヴエンチア(1959年ミドルパークS、1960年St.ジェームズパレスS、サセックスS)とミンシオ(1960年仏2000ギニー、ムーランドロンシャン賞、フォレ賞)が輸入されており、前者はタカエノカオリ(1974年桜花賞)やクライムカイザー(1976年日本ダービー)、後者はミホライザン(1973年朝日杯3歳S)などを輩出して成功を収めた。

-----In Reality

<プロフィール>
1964年生、米国産、27戦14勝
<主な勝ち鞍>
1967年フロリダダービー(D9F)
1968年カーターH(D7F)
1968年メトロポリタンH(D8F)
<代表産駒>
Desert Vixen(1973年モンマスオークス、デラウェアオークス、アラバマS、1973、74年ベルデイムS、1974年マッチメーカーS)
Known Fact(1979年ミドルパークS、1980年英2000ギニー)
Smile(1985年アーリントンクラシックS、1986年BCスプリント)
<特徴>
競走馬としては同世代のDr.FagerやDamascusに敵わなかったが、種牡馬としては21世紀にMan o' War父系を繋いだ名種牡馬だ。母My Dear Girlは1959年フリゼットSなどに勝利して米最優秀2歳牝馬に選出された活躍馬で、本馬も小柄で仕上がりが早く2歳時からマイル前後で活躍した。さらに、War Relicの血を3×3でインブリードした配合形は父系の存在感を強めており、Fair Play→Man o' War→War Relic系らしいパワーとスピードに優れた競走馬であり、種牡馬だったといえるだろう。後継種牡馬にはRelaunch(1979年デルマーダービー)とKnown Fact(1979年ミドルパークS、1980年英2000ギニー)が挙げられ、特にKnown Factは短距離種牡馬として成功。2004年スプリンターズSの優勝馬であり、未だに破られないJRA芝1000mのレコードホルダーであるカルストンライトオは同馬の孫である。

------Relaunch

<プロフィール>
1976年生、米国産、18戦5勝
<主な勝ち鞍>
1979年ラホヤマイルS(T8F)
1979年デルマーダービー(T9F)
<代表産駒>
Skywalker(1985年サンタアニタダービー、1986年BCクラシック)
Waquoit(1987、88年ブルックリンH、1988年ジョッキークラブGC)
One Dreamer(1994年BCディスタフ)
With Anticipation(2001、02年ソードダンサーH、マンノウォーS、2002年ユナイテッドネーションズH)
<特徴>
War Relicの3×3を中心としたパワーとスピードが持ち味のIn Realityの産駒でありながら、1979年デルマーダービーなどを制した芝・ダート兼用のオールラウンダー。母Foggy Noteが父にMahmoud産駒The Axe、母母父にDjeddahと欧州血脈を豊富に持つことがその要因であり、種牡馬としてもWith Anticipation(2001、02年マンノウォーS)のような芝GⅠ馬からSkywalker(1985年サンタアニタダービー、1986年BCクラシック)のようなダートチャンピオンまで幅広く活躍馬を輩出した。種牡馬であるRubianoやTapitの牝祖であるMoon Glitterとは全姉弟の関係であり、TapitやWar Front(母父Rubiano)が大成功したアメリカ競馬界において本馬の存在意義は今後さらに増しそうだ。日本で種牡馬生活を送るアメリカンペイトリオットはWar Front×Tiznowという組み合わせで、Moon Glitter=Relaunchを5×4でインブリードしている。

--------Tiznow

<プロフィール>
1997年生、米国産、15戦8勝
<主な勝ち鞍>
2000年スーパーダービー(D10F)
2000年BCクラシック(D10F)
2001年サンタアニタH(D10F)
2001年BCクラシック(D10F)
<代表産駒>
Well Armed(2008年グッドウッドS、2009年ドバイワールドC)
Da' Tara(2008年ベルモントS)
Tourist(2016年フォースターデーヴH、BCマイル)
<特徴>
2000、01年BCクラシックで史上初の2連覇を果たし、種牡馬としても数々のGⅠ馬を出して成功。体高166cmと上背があり、筋肉量も豊富。大トビのフットワークで競り合いに負けない気の強さが印象的な競走馬であった。3代父にIn Realityを持つマイナー父系ではあるが、母Cee’s SongがMumtaz Begum≒Mahmoudの7・7・9・5×5・6とMumtaz Mahal的スピードと柔軟性を継承しており、全きょうだいらも競走馬や種牡馬、繁殖牝馬として成功を収めている。父父RelaunchがTapitやWar Frontなどと刺激し合い、母父Seattle SongがUnbridled's SongやSir Ivorと刺激し合う血統構成。主流血脈との相性の良さが大きな強みで、ディープインパクト×Unbridled's Song×Tiznowのコントレイル(2019年ホープフルS、2020年皐月賞、日本ダービー、菊花賞、2021年ジャパンC)はその最たる成功例といえるだろう。

------Known Fact

 <プロフィール>
1977年生、米国産、11戦6勝
<主な勝ち鞍>
1979年ミドルパークS(T6F)
1980年英2000ギニー(T8F)
<代表産駒>
ウォーニング(1988年サセックスS、クイーンエリザベスⅡ世S)
マークオブディスティンクション(1990年クイーンエリザベスⅡ世S)
So Factual(1995年ナンソープS)
<特徴>
5代母Aloeに遡るイギリスの伝統的な牝系で、母Tamerettは種牡馬エタンの半妹。母の仔には本馬以外にもTentam(1973年メトロポリタンH、ガヴァナーS、ユナイテッドネーションズH)やGone Westの母Secrettameなどがおり、本馬自身も競走馬としてだけでなく種牡馬としてもウォーニング(1988年サセックスS、クイーンエリザベスⅡ世S)などを出して成功を収めた。母母Mixed Marriageの重厚なイギリス血脈を土台に、In Reality×Tim Tamの北米血脈から優れたスピードを継承。硬めのフットワークではあるが、絶対的なスピード能力を武器に1980年英2000ギニーなど芝のマイル路線で活躍して見せた。

------ウォーニング

<プロフィール>
1985年生、英国産、14戦8勝
<主な勝ち鞍>
1988年サセックスS(T8F)
1988年クイーンエリザベスⅡ世S(T8F)
<代表産駒>
Piccolo(1994年ナンソープS)
ディクタット(1999年モーリスドギース賞、スプリントC)
カルストンライトオ(2004年スプリンターズS)
サニングデール(2004年高松宮記念)
<特徴>
1988年サセックスS、クイーンエリザベスⅡ世Sなどを制し、種牡馬としてもヨーロッパと日本でGⅠ馬を輩出した父Known Factの代表産駒。母Slightly Dangerousは競走馬としても1982年英オークス2着などの実績を残したが、繁殖牝馬としては本馬のほかにコマンダーインチーフ(1993年英ダービー、愛ダービー)やYashmak(1997年フラワーボール招待H)、Deploy(Dubawiの母父)など数多くの活躍馬を輩出。3代母Noblesse(1963年英オークス)、母母Where You Lead(1973年英オークス2着)、母Slightly Dangerousとスタミナ豊富な牝系に生まれたが、本馬は父の影響が強い筋肉質なスピード馬としてヨーロッパの芝マイル路線を牽引した。種牡馬としてもマイル以下で活躍する快速馬を多数輩出し、芝1000mのレコードタイム保持馬であるカルストンライトオ(2004年スプリンターズS)がその代表といえるだろう。

チヤペルブラムプトン

<プロフィール>
1912年生、英国産、-戦-勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
-
<特徴>
17頭もの帝室御賞典優勝馬を出した名種牡馬。後継種牡馬には恵まれなかったが、繁殖牝馬の父としてクリフジ(1943年日本ダービー、オークス、菊花賞)などの誕生に貢献し、名繁殖牝馬アストラルを通じてカブトヤマ(1933年日本ダービー)やガヴァナー(1935年日本ダービー)などの母父にもその名を残している。牝系は6代母Pocahontasに遡る名門。本馬自身はSt. Simonを4×4でインブリードした配合形で、マイナー父系ではあるものの、ヨーロッパの主流血脈を日本馬に豊富に伝えた名種牡馬だったといえるだろう。

Hurry On

<プロフィール>
1913年生、英国産、6戦6勝
<主な勝ち鞍>
1916年セプテンバーS(T14F)
1916年ジョッキークラブC(T18F)
<代表産駒>
Captain Cuttle(1922年英ダービー、St.ジェームズパレスS)
Coronach(1926年英ダービー、St.ジェームズパレスS、エクリプスS、英セントレジャー)
Call Boy(1926年ミドルパークS、1927年英ダービー)
Precipitation(1937年アスコットGC)
<特徴>
大戦の影響により英セントレジャーの代替競走として行われた1916年セプテンバーSの優勝馬。父同様の大柄な馬で、成熟期の体高は17ハンド(約172.7cm)を超えたという。母がStockwell=Rataplanの4・5・4×5・4、父がStockwell=Rataplanの5×5・4やHermitの3×3など豊富なスタミナ血脈を掛け合わせており、本馬も仕上がりに時間はかかったものの超長距離戦を中心に6戦6勝の実績を残した。種牡馬としても1926年英愛リーディングサイアーに輝くなど大成功。Man o' WarとともにMatchem系を復活させた立役者といえるだろう。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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