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【種牡馬辞典】Nasrullah系

Nasrullah

 <プロフィール>
1940年生、英国産、10戦5勝
<主な勝ち鞍>
1943年英チャンピオンS(T10F)
<代表産駒>
Never Say Die(1954年英ダービー、英セントレジャー)
Nashua(1954年米ホープフルS、ベルモントフューチュリティS、1955年ベルモントS、プリークネスS、1955、56年ジョッキークラブGC)
Bold Ruler(1956年ベルモントフューチュリティS、1957年フラミンゴS、ウッドメモリアルS、プリークネスS)
Never Bend(1962年ベルモントフューチュリティS、米シャンペンS、1963年フラミンゴS)
<特徴>
イギリスとアメリカでリーディングサイアーに輝いた大種牡馬。現代競馬にスピード革命をもたらしたLady Josephineを3代母に持ち、同様に現代競馬のスピード面に多大なる影響を与えているThe Tetrarchとの間に産まれたのが母母Mumtaz Mahal。そして、同馬に1930年英ダービー馬Blenheimをつけたのが母Mumtaz Begumであり、さらに14戦全勝のイタリアの名馬Nearcoを父に持つのがNasrullahというわけだ。したがって、Mahmoud(父Blenheim、母母Mumtaz Mahal)やRoyal Charger(父Nearco、母母Mumtaz Begum)とは血統構成がよく似ており、それらが芝1600~2400mで見せた非凡なスピード性能は現代日本競馬における瞬発力に大きな影響を与えている。本馬自身は激しい気性がネックとなり競走馬としては大成しなかったが、Nasrullahの馬体はそれ以前のサラブレッドとは明らかに異なり、今日の日本競馬に登場しても違和感を感じないであろう筋肉量と柔軟性を有していた。上記2頭と併せて、現代日本競馬における瞬発力の源泉となっていることは間違いないだろう。

-Grey Sovereign

<プロフィール>
1948年生、英国産、22戦8勝
<主な勝ち鞍>
1950年リッチモンドS(T6F)
<代表産駒>
Sovereign Path(1960年ロッキンジS、クイーンエリザベスⅡ世S)
フオルテイノ(1962年アベイドロンシャン賞)
ゼダーン(1967年ロベールパパン賞、1968年仏2000ギニー、イスパーン賞)
<特徴>
1949年英2000ギニー、英ダービー馬ニンバスの3/4同血の弟。本馬は父親譲りの気性難がネックとなり芝短距離でのみの活躍となった。父母はPolymelus、Bromus、Swynfordなど共通点が多く、特にThe Tetrarchの4×5、Sundridgeの5×5は父のスピード源であるMumtaz Mahalを増強した形。短距離向きのスピードを伝える種牡馬である。代を経るごとに距離適性が延びており、特にトニービンが大成功を収めた日本ではイメージしづらいかもしれないが、本馬自身の特徴としては早熟気味のスプリンターだと覚えておきたい。

-Never Say Die

<プロフィール>
1951年生、米国産、12戦3勝
<主な勝ち鞍>
1954年英ダービー(T12F)
1954年英セントレジャー(T14.5F)
<代表産駒>
Never Too Late(1960年英1000ギニー、英オークス)
ラークスパー(1962年英ダービー)
エンドレスハネー(1963年ジュライS)
<特徴>
大種牡馬Nasrullahの渡米前最終年度の産駒であり、父の代表産駒の一頭。父譲りの激しい気性の持ち主で安定した成績は残せなかったが、1954年英ダービーと同年英セントレジャーを制した底力は父の産駒の中でもトップクラスであった。種牡馬としても初期からNever Too Late(1960年英1000ギニー、英オークス)やラークスパー(1962年英ダービー)を出し、1962年には英愛リーディングサイアーにも輝いたが、その後は競走馬時代と同様に安定感を欠き大成功とはいかなかった。ただ、日本にはダイハード(1961年イボアH)から実に16頭もの後継種牡馬が輸入され、特にネヴァービートは1970、72、77年リーディングサイアーに輝くなど大成功。Princely Gift系とともに日本にNasrullahの血を持ち込んだ重要父系といえるだろう。

--ネヴアービート

 <プロフィール>
1960年生、英国産、10戦1勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
マーチス(1967年阪神3歳S、1968年皐月賞)
ルピナス(1968年オークス)
リキエイカン(1968年阪神3歳S、1970年天皇賞春)
インターグロリア(1977年桜花賞、エリザベス女王杯)
<特徴>
1970、72、77年リーディングサイアー。競走馬としては平凡な成績に終わったが、半兄Hethersettが1962年英セントレジャーを制すなど牝系の優秀さが目立ち、引退後は日本で種牡馬入り。Nearco、Blandford、The Tetrarch、Sundridgeなど父父Nasrullahを増幅した配合形で、日本馬にNearco→Nasrullahの血を広めたNearco系最初のリーディングサイアーだ。大物はそれほど多くないが、馬場や距離を問わず活躍馬を量産。繁殖牝馬の父としても、メジロラモーヌ(1986年桜花賞、オークス、エリザベス女王杯)を筆頭に多くのGⅠ馬の誕生に貢献した。

-Princely Gift

<プロフィール>
1951年生、英国産、23戦9勝
<主な勝ち鞍>
1954年チャレンジS(T6F)
1955年ポートランドH(T5.5F)
<代表産駒>
ソーブレスド(1968年ジュライC、ナンソープS)
Realm(1971年ジュライC)
サンプリンス(1971年ロベールパパン賞、1972年St.ジェームズパレスS)
<特徴>
Pharos=Fairwayの3×3、Blandfordの4×3、The Tetrarchの4×5、Sundridgeの5×6などクロスのうるさい父母相似配合で、早熟傾向の短距離血統といえるだろう。細身、かつ斜尻の馬体構造から時として非力さが欠点となる場合があり、それが欧州ではなく日本での成功に繋がったのかもしれない。父系としてはサクラバクシンオーの直仔が細々と繋いでいるに過ぎないが、名種牡馬ステイゴールドの母母母父として血統表には残っており、その仔ゴールドシップが5×5でインブリードして本馬の血を増幅。同馬の産駒が平坦コースを得意とすることは本馬のインブリードに起因していると推測できる。柔らかく、かつ軽いスピードは平坦や下り坂で今もなお存在感を示している。

-Nashua

<プロフィール>
1952年生、米国産、30戦22勝
<主な勝ち鞍>
1954年米ホープフルS(D6.5F)
1954年ベルモントフューチュリティS(D6.5F)
1955年プリークネスS(D9.5F)
1955年ベルモントS(D12F)
1955年ジョッキークラブGC(D16F)
1956年ジョッキークラブGC(D16F)
<代表産駒>
Bramalea(1962年CCAオークス)
Marshua(1965年CCAオークス)
Shuvee(1969年エイコーンS、マザーグースS、CCAオークス、1970、71年ジョッキークラブGC)
<特徴>
大種牡馬Nasrullahの渡米後の初年度産駒であり、Nasrullahが送り出した最強馬の一頭。母父Johnstownも1939年にケンタッキーダービーとベルモントSを制した2冠馬だが、母母がスタミナ豊富なSardanapaleを父に持つフランス産馬であり、スピード偏重のアメリカ馬の中ではスタミナに優れた歴史的名馬だったといえる。アウトブリードで自身の特徴を強く残す種牡馬ではなかったが、近年はRobertoやMr. Prospectorの母父として存在感を示しており、Nasrullah、Sir Gallahad、Flambetteが共通するNantallahとは相似な血の関係といえるだろう。

-Nantallah

<プロフィール>
1953年生、米国産、7戦4勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
Ridan(1962年フロリダダービー)
Moccasin(1965年スピナウェイS、米メイトロンS)
Tallahto(1974年ヴァニティーH、サンタバーバラH、オークトゥリー招待S)
<特徴>
新馬戦と一般戦で4勝を挙げただけの二流馬で、種牡馬としても成功したとはいえないが、名繁殖牝馬Rough Shodとの間にRidan(1962年フロリダダービー)、Lt. Stevens(1964年サラナクH)、Moccasin(1965年スピナウェイS、米メイトロンS)、そして名牝系を築くThongらを輩出。今日では、Nureyev≒Sadler's Wells=Fairy Kingを通してその名を見ることが多く、オルフェーヴルの母系にもNantallah→Lt. Stevensの血は残っている。また、NashuaとはNasrullah、Sir Gallahad、Flambetteが共通しており、米国的パワーや機動力を増幅し合う関係。ただ、本馬の方が快速馬Dominoのスピードを豊富に受け継いでいる点は留意しておきたい。

-Bold Ruler

<プロフィール>
1954年生、米国産、33戦23勝
<主な勝ち鞍>
1956年ベルモントフューチュリティS(D6.5)
1957年フラミンゴS(D9F)
1957年ウッドメモリアルS(D9F)
1957年プリークネスS(D9.5F)
<代表産駒>
ボールドラッド(1964年米ホープフルS、ベルモントフューチュリティS、1966年メトロポリタンH)
Secretariat(1972年米ホープフルS、ベルモントフューチュリティS、1973年ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントS、マンノウォーS)
Wajima(1975年モンマス招待H、トラヴァーズS、ガヴァナーS、マールボロC招待H)
<特徴>
大種牡馬Nasrullahの渡米後3年目の産駒であり、Nasrullahが送り出した最強馬の一頭。さらに、種牡馬としては北米リーディングサイアーに8度輝くなど、競走馬としても種牡馬としても輝かしい記録を残したアメリカ競馬を代表する名馬である。快速馬Dominoの4×4を持つ3代母にPompey、Discoveryと北米血脈が掛け合わされたのが母Miss Disco。一流とはいえない種牡馬を経由しているが、4代母から母までの4頭はいずれもステークス勝ち馬であり、牝系由来のスピードは本馬にも大きな影響を与えた。早熟型で2~4歳時に23勝を挙げた反面、強情で気難しい気性からも長距離は得意としていない。子孫にも主にワンペースなスピードを伝え、本馬自身はトモが薄く前輪駆動で走ったため直線平坦コースの方が得意ともいえる。近年の種牡馬ではロイヤルスキーやジヤツジアンジエルーチが近い適性を伝えているか。ロイヤルスキーの3×4を持つキャプテントゥーレが2008年皐月賞を逃げ切り、母父ジヤツジアンジエルーチのオレハマッテルゼが小回り直線平坦時代の高松宮記念を制している。

-Red God

<プロフィール>
1954年生、米国産、14戦5勝
<主な勝ち鞍>
1956リッチモンドS(T6F)
<代表産駒>
Jacinth(1972年チェヴァリーパークS、1973年コロネーションS)
Red Lord(1976年仏2000ギニー)
Blushing Groom(1976年ロベールパパン賞、モルニ賞、サラマンドル賞、仏グランクリテリウム、1977年仏2000ギニー)
<特徴>
Bold Rulerなどと同じNasrullahの渡米後3年目の産駒だが、2歳時にイギリスに送られて1956年リッチモンドSを制す。3歳時にはアメリカに帰郷して4勝を挙げたが、競走馬としては大成することができなかった。引退後はアイルランドで種牡馬生活を送り、早熟気味の短距離馬を多数輩出。本馬が伝えるスピードは当然父Nasrullahの影響もあるが、Menow産駒である母の影響も強く、Bull DogとPeter Panを併せ持つ点も大種牡馬Tom Foolと共通する。そのため、非常に俊敏でスピードがあり、代表産駒Blushing Groomが1977年仏2000ギニーで見せたラチ沿いから一瞬で抜け出す末脚はまさにRed God産駒の美点であった。相似な血としてはHaloやSir Ivor、Droneなどが挙げられるが、Sir IvorやDroneにおいては母との親和性が非常に高いためTom Fool的な俊敏さや機動力が強調されやすく、Haloにおいては主張の強さやインブリードする血脈などからMahmoud、Nasrullah、Royal Charger的な瞬発力が強調されやすいと考えられる。

-Never Bend

<プロフィール>
1960年生、米国産、23戦13勝
<主な勝ち鞍>
1962年ベルモントフューチュリティS(D6.5F)
1962年米シャンペンS(D8F)
1963年フラミンゴS(D9F)
<代表産駒>
Mill Reef(1971年英ダービー、エクリプスS、キングジョージⅥ&QEDS、凱旋門賞、1972年ガネー賞、コロネーションC)
Riverman(1972年仏2000ギニー、イスパーン賞)
J.O. Tobin(1977年スワップスS、1978年カリフォルニアンS)
<特徴>
Nasrullah産駒の最終世代の一頭。母Lalunは1955年ケンタッキーオークス馬であり、半弟にはBold Reason(1971年ハリウッドダービー、アメリカンダービー、トラヴァーズS)がいる良血馬。Sadler's Wells(母父Bold Reason)との相性の良さはNever Bend≒Bold Reasonの兄弟クロスが根拠といえるだろう。母系由来の立ち肩と父のスピードを伝え、子孫には非凡なパワースピードを持ち味とする馬が多い。Never Bendの6×4を持つエスポワールシチーの圧倒的なスピードとパワーは本馬の影響を多分に受けた証であり、カーネギー(Bold Reason≒Never Bendの3×3)を母父に持つモーリスもその一頭といえるだろう。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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