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【種牡馬辞典】Hermit系・Gallinule系・Isinglass系・Speculum系

Hermit

 <プロフィール>
1864年生、英国産、20戦8勝(異説:23戦8勝)
<主な勝ち鞍>
1867年英ダービー(T12F)
1867年St.ジェームズパレスS(T8F)
<代表産駒>
Tristan(1883年アスコットGC、1882~84年英チャンピオンS、ハードウィックS)
Shotover(1882年英2000ギニー、英ダービー)
St. Blaise(1883年英ダービー)
<特徴>
地味な牝系の出であり小柄な馬体でもあったが、1867年英ダービー馬の称号を獲得し、1880~86年英リーディングサイアーにも輝いた18世紀イギリス競馬を代表する名馬。活躍馬が牝馬に偏ったこともあり父系は発展しなかったが、5度の英リーディングブルードメアサイアーにも輝いた通り、母系に入っても絶大な影響力を誇った。

Gallinule

 <プロフィール>
1884年生、英国産、21戦3勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
Wildfowler(1898年英セントレジャー)
Pretty Polly(1904年英1000ギニー、英オークス、英セントレジャー)
Night Hawk(1913年英セントレジャー)
<特徴>
2歳時にナショナルブリーダーズプロデュースSなど3勝を挙げたが、呼吸器障害により3歳以降は未勝利のまま引退。ただ、種牡馬としては名牝Pretty Polly(1904年英1000ギニー、英オークス、英セントレジャー)を筆頭に一流馬を多数輩出し、1904、05年にはリーディングサイアーにも輝いた。配合上はBirdcatcher=Faugh A Ballaghの3×4・4などインブリードのきつい父Isonomyに対してアウトブリードの母というメリハリの利いた組み合わせであり、自身はStockwellの3×4を持つ点も特徴的。父系はさほど発展しなかったが、母系に入っての影響力は計り知れないものであった。

Isinglass

 <プロフィール>
1890年生、英国産、12戦11勝
<主な勝ち鞍>
1893年英2000ギニー(T8F)
1893年英ダービー(T12F)
1893年英セントレジャー(T14.5F)
1894年エクリプスS(T10F)
1895年アスコットGC(T20F)
<代表産駒>
Cherry Lass(1905年英1000ギニー、英オークス、St.ジェームズパレスS)
Glass Doll(1907年英オークス)
Louvois(1912年デューハーストS、1913年英2000ギニー)
<特徴>
イギリス競馬史上6頭目のクラシック三冠馬であり、4歳以降にも1894年エクリプスSや1895年アスコットGCを制したイギリス競馬史屈指の最強馬。父Isonomyは1879、80年アスコットGCを連覇するなどした名ステイヤーで、種牡馬としても英クラシック三冠馬を2頭輩出している。母は競走馬としても繁殖牝馬としても凡庸であったが、Isonomyとの間ではStockwell=Rataplanの3×4という全兄弟クロスが発生し、本馬は同血脈譲りの恵まれた馬格を有していた。現役時代の活躍と比較すると種牡馬としての活躍はやや物足りないものであったが、アメリカに輸出されたStar Shootが米リーディングサイアーに5度輝き、ドイツに輸出されたLouvierは6代連続独ダービー制覇という偉業を達成。さらに、John o'Gaunt→Swynfordのラインは一大父系を築き上げており、それらの父祖としての功績は非常に大きいものである。

--Swynford

 <プロフィール>
1907年生、英国産、12戦8勝
<主な勝ち鞍>
1910年英セントレジャー(T14.5F)
1911年エクリプスS(T10F)
<代表産駒>
Keysoe(1919年英セントレジャー)
Tranquil(1923年英1000ギニー、英セントレジャー)
Sansovino(1924年英ダービー)
Saucy Sue(1925年英1000ギニー、英オークス)
<特徴>
1896年英オークス馬Canterbury Pilgrimの7番仔であり、ブルードメアサイアーとして数多くの一流馬を輩出したChaucer(1902年ジムクラックS)の半弟。母母Pilgrimageも1878年の英2000ギニーと英1000ギニーを制した名牝で、母の兄弟には1898年英ダービー馬Jeddahなどがいる。さらに、父John o'Gauntは英クラシック三冠馬Isinglassと英牝馬三冠馬La Flecheの間に生まれた超良血馬であり、したがって本馬は当時のイギリス競馬における最高峰の良血馬であったといえるだろう。Stockwell=Rataplan≒King Tomという名繁殖牝馬Pocahontasの仔を5・6・5×4でインブリードした配合形が特徴的。胸が深く、胴の長い長距離馬体型で、種牡馬としても1923年英愛リーディングサイアーに輝くなど成功。さらに後継種牡馬であるBlandfordがイギリス・アイルランドとフランスでリーディングサイアーに輝き、一大父系を築き上げた。

---Blandford

<プロフィール>
1919年生、愛国産、4戦3勝
<主な勝ち鞍>
1922年プリンセスオブウェールズS(T12F)
<代表産駒>
Trigo(1929年英ダービー、英セントレジャー、愛セントレジャー)
Blenheim(1930年英ダービー)
Windsor Lad(1934年英ダービー、英セントレジャー、1935年エクリプスS)
Brantome(1934年仏2000ギニー、凱旋門賞)
Bahram(1935年英2000ギニー、英ダービー、英セントレジャー)
<特徴>
脚元に爆弾を抱えていたため僅か4戦のキャリアで引退したが、種牡馬としては4頭の英ダービー馬を輩出するなどして大成功。1934、35、38年の英愛リーディングサイアーに輝き、1935年には仏リーディングサイアーの称号も獲得した。母母Black Cherryは名種牡馬Bay Ronaldの半姉であり、母BlancheはCherry Lass(1905年英1000ギニー、英オークス、St.ジェームズパレスS)やBlack Arrow(1906年St.ジェームズパレスS)の半妹。さらに、超良血馬Swynfordを父に配したのが本馬であり、血筋の良さは折り紙つきだ。父祖であるIsonomyを4×4・5、大種牡馬Galopinを5×4・5でインブリードしたスタミナ豊富な配合形であるが、2~3歳時から活躍できる仕上がりの早さも兼備していた点は種牡馬としての大きな強みであった。父Swynfordは大柄な馬であったが、本馬は小柄で、産駒にも小さい馬が多かったという。

----Blenheim

<プロフィール>
1927年生、英国産、10戦5勝
<主な勝ち鞍>
1930年英ダービー(T12F)
<代表産駒>
Mahmoud(1936年英ダービー)
Whirlaway(1941年ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントS、トラヴァーズS、1942年ジョッキークラブGC)
Jet Pilot(1947年ケンタッキーダービー)
<特徴>
1930年英ダービー馬。種牡馬としても英ダービー馬Mahmoud、ケンタッキーダービー馬Whirlaway、Jet Pilotとイギリスとアメリカでダービー馬を輩出。1941年には米リーディングサイアーにも輝き、MahmoudとDonatelloが後継種牡馬としても成功した。母母Wild ArumがRose of Lancaster=Bend Orの3×3、Galopinの4×3を持ち、母MalvaはGalopinを4×5・4で継続。また、父BlandfordはIsonomyの4×4・5、Galopinの5×4・5を持ち、本馬自身はIsinglassの4×4、St. Simonの5×4などIsonomy→IsinglassとGalopin→St. Simonを累進交配。これはDonatello→Alycidonでも継続されており、本父系の無尽蔵のスタミナはこの仕掛けに由来すると考えられる。父同様に小柄な馬であったが、胴は長めで柔らかいフットワークで走った。

-----Mahmoud

<プロフィール>
1933年生、仏国産、11戦4勝
<主な勝ち鞍>
1935年リッチモンドS(T6F)
1935年英シャンペンS(T6F)
1936年英ダービー(T12F)
<代表産駒>
Majideh(1942年愛1000ギニー、愛オークス)
Oil Capitol(1950年フラミンゴS、1953年ワイドナーH)
The Axe(1963年マンノウォーS)
<特徴>
1936年英ダービーを2.33.8という1995年にラムタラが更新するまで59年間破られなかった驚異的なレースレコードタイムで制した快速馬。現代競馬にスピード革命をもたらしたLady Josephineを3代母に持ち、同様に現代競馬のスピード面に多大なる影響を与えているThe Tetrarchとの間に産まれたのが母母Mumtaz Mahal。そこに、1918年英ダービー馬Gainsborough、1930年英ダービー馬Blenheimと掛け合わせたのが本馬であるが、柔らかくバネの利いた走りはやはり牝系譲りのものであり、本質はマイルから中距離向きのスピード馬であっただろう。大種牡馬Nasrullahの母Mumtaz Begum(Blenheim、Mumtaz Mahalが共通)やRoyal Chargerの母Sun Princess(Blenheim、Gainsborough、Mumtaz Mahalが共通)とは相似な血の関係にあり、上記の2頭とともに現代競馬における瞬発力の源泉となっている。そしてその最たる例がSun Princess≒Mahmoudの5・4×5を持つサンデーサイレンスだ。

-----Donatello

<プロフィール>
1934年生、仏国産、9戦8勝
<主な勝ち鞍>
1936年伊グランクリテリウム(T1600m)
1937年伊ダービー(T2400m)
1937年ミラノ大賞(T3000m)
<代表産駒>
Picture Play(1944年英1000ギニー)
Alycidon(1949年アスコットGC、グッドウッドC、ドンカスターC)
Crepello(1956年デューハーストS、1957年英2000ギニー、英ダービー)
<特徴>
4代母に名牝であり名繁殖牝馬でもあるPretty Pollyを持ち、母母がSt. Simonの3×3、母がSt. Simonの4×4・4、本馬がSt. Simonの5・4×5・5・5と代々St. Simon血脈を掛け合わせてきた配合形。さらに、父BlenheimはIsinglassの4×4などIsonomy→Isinglassを増幅した血統で、本馬自身もGalopin→St. SimonとIsonomy→Isinglass/Gallinuleを継続交配したスタミナ豊富な長距離馬であった。同じくBlenheimの後継種牡馬であるMahmoudとの比較では同馬がLady Josephine牝系であることから本馬の方が距離適性が長く、Blandford→Blenheim父系らしい長距離向きのスタミナを後世に伝えている。

------Alycidon

 <プロフィール>
1945年生、英国産、17戦11勝
<主な勝ち鞍>
1949年アスコットGC(T20F)
1949年グッドウッドC(T21F)
1949年ドンカスターC(T18F)
<代表産駒>
Meld(1955年英1000ギニー、英オークス、英セントレジャー)
Alcide(1958年英セントレジャー、1959年キングジョージⅥ&QEDS)
Twilight Alley(1963年アスコットGC)
Homeward Bound(1964年英オークス、ヨークシャーオークス)
<特徴>
父祖Isonomy以来70年ぶり史上2頭目となるアスコットGC、グッドウッドC、ドンカスターCというイギリスの長距離三冠を同一年に制覇した最強ステイヤー。母Auroraは1939年英1000ギニーの2着馬で、繁殖牝馬としても本馬以外にBorealis(1945年コロネーションC)やAcropolis(1955年グレートヴォルティジュールS)など活躍馬を多数輩出。Chaucer≒Swynfordを3×2でインブリードしており、産駒の多くはChaucer≒Swynfordを継続する配合で成功した。本馬もSwynford≒Chaucerを4×4・3で継続交配しており、さらにSt. Frusquinの5×5などGalopin→St. Simon血脈についても累進交配。この流れはBlandford~Donatelloから続くものであり、本父系がスタミナの頂点を極めたというに相応しい配合形である。胴や手足の長い大型馬で、気性も穏やか。3歳前半まで勝ち負けを繰り返した実績の通り、晩成型長距離馬の代表例といえる競走馬であった。同じくステイヤー種牡馬として活躍したAureoleはDonatello×Hyperionを裏返しにした組み合わせで、母母がIsonomyやGalopin→St. Simonを増幅している点も共通する。

------Crepello

 <プロフィール>
1954年生、英国産、5戦3勝
<主な勝ち鞍>
1956年デューハーストS(T7F)
1957年英2000ギニー(T8F)
1957年英ダービー(T12F)
<代表産駒>
Busted(1967年エクリプスS、キングジョージⅥ&QEDS)
Caergwrle(1968年英1000ギニー)
Celina(1968年愛オークス)
Crepellana(1969年仏オークス)
Mysterious(1973年英1000ギニー、英オークス、ヨークシャーオークス)
<特徴>
デビュー前から脚元に爆弾を抱えながらも1957年英2000ギニー、英ダービーを制した二冠馬。母Crepusculeは競走馬としては平凡だったが、繁殖牝馬としては本馬以外にも半姉Honeylight(1956年英1000ギニー)や半弟Twilight Alley(1963年アスコットGC)などの活躍馬を複数出している。父DonatelloがGalopin→St. SimonとIsonomy→Isinglass/Gallinuleを継続交配したスタミナ豊富な長距離馬であったのに対して、母はSt. Frusquinの5×5などGalopin→St. Simon血脈については薄く継続しているもののIsonomy血脈はほとんど持っておらず、本馬自身は5代アウトブリード。柔らかく俊敏な末脚は、重厚で無尽蔵のスタミナが持ち味であったIsonomy系のイメージからはかけ離れたものであった。その特徴の影響もあってか、種牡馬としてはCaergwrle(1968年英1000ギニー)やCelina(1968年愛オークス)、Crepellana(1969年仏オークス)、Mysterious(1973年英1000ギニー、英オークス、ヨークシャーオークス)など牝馬の活躍馬を多数輩出。ただ、牡馬からもBusted(1967年エクリプスS、キングジョージⅥ&QEDS)が誕生し、後継種牡馬としても父系を発展させた。

-------Busted

<プロフィール>
1963年生、英国産、13戦5勝
<主な勝ち鞍>
1967年エクリプスS(T10F)
1967年キングジョージⅥ&QEDS(T12F)
<代表産駒>
Weavers' Hall(1973年愛ダービー)
Bustino(1974年英セントレジャー、1975年コロネーションC)
Mtoto(1987、88年エクリプスS、1988年キングジョージⅥ&QEDS)
<特徴>
2~3歳時にはアイルランドで1勝を挙げたのみだったが、父Crepelloと同じイギリスのノエル・マーレス厩舎に転厩すると素質が開花。4歳時には1967年エクリプスS、キングジョージⅥ&QEDSなど4戦4勝を挙げて英年度代表馬に輝いた遅咲きの中長距離馬だ。種牡馬としては牝馬に活躍馬が偏った父と比べれば牡馬の活躍馬も出したが、母方に入っての影響力は父同様に強く、Burghclere≒Height of FashionやMuch Too Riskyなどの優秀な繁殖牝馬を父あるいは後継種牡馬Bustinoを通じて輩出している。Much Too Riskyを母母に持ち、父ネオユニヴァースでBustedを増幅したヴィクトワールピサ(2010年皐月賞、有馬記念、2011年ドバイワールドC)は馬体のつくりが本馬によく似ており、本血脈のスタミナにHaloの3×4などで早熟性とスピードを補った成功例といえるだろう。

--------Bustino

<プロフィール>
1971年生、英国産、9戦5勝
<主な勝ち鞍>
1974年英セントレジャー(T14.5F)
1975年コロネーションC(T12F)
<代表産駒>
Easter Sun(1982年コロネーションC)
Paean(1987年アスコットGC)
Terimon(1991年英インターナショナルS)
<特徴>
4代母Rose Redに遡るイギリス競馬固有の名牝系であり、父Bustedの代表産駒の一頭。Donatello父系らしい豊富なスタミナを武器に1974年英セントレジャーなどを制し、種牡馬としてもPaean(1987年アスコットGC)など中長距離路線の活躍馬を多く出した。Crepello→Busted系らしく繁殖牝馬の父としても優秀で、日本でもヴィクトワールピサやホエールキャプチャなど本馬を母方に持つ活躍馬は少なくない。

--------Mtoto

<プロフィール>
1983年生、英国産、17戦8勝
<主な勝ち鞍>
1987年エクリプスS(T10F)
1988年エクリプスS(T10F)
1988年キングジョージⅥ&QEDS(T12F)
<代表産駒>
Shaamit(1996年英ダービー)
Celeric(1997年アスコットGC)
シリアスアティテュード(2008年チェヴァリーパークS、2010年ニアークティックS)
<特徴>
4歳以降に1987、88年エクリプスSや1988年キングジョージⅥ&QEDSなどを制した父Busted似の遅咲きの中長距離馬。母母AlzaraがBlandfordを4×4でインブリードしたAlycidon産駒の長距離馬で、本馬もDonatelloの3×4を中心に父祖Blandfordを増幅した配合形。スタミナ豊富な血統構成であり、種牡馬としてもShaamit(1996年英ダービー)やCeleric(1997年アスコットGC)など多くの中長距離馬を出している。日本では牝馬シリアスアティテュード(2008年チェヴァリーパークS、2010年ニアークティックS)が輸入され、その仔スティッフェリオ(2019年オールカマー)は2020年天皇賞春2着など芝中長距離で活躍した。ただ、本馬の魅力は母父ミンシオ(1960年仏2000ギニー、ムーランドロンシャン賞)が異系血脈の仏マイラーである点にもあり、1988年凱旋門賞でトニービンにクビ差まで迫った末脚はミンシオの美点が表現された走りだったいえるだろう。

----プリメロ

 <プロフィール>
1931年生、英国産、15戦3勝
<主な勝ち鞍>
1934年愛ダービー(T12F)
1934年愛セントレジャー(T14F)
<代表産駒>
ミナミホマレ(1942年日本ダービー)
タチカゼ(1949年日本ダービー)
クモノハナ(1950年皐月賞、日本ダービー)
クリノハナ(1952年皐月賞、日本ダービー)
<特徴>
1934年愛ダービー、愛セントレジャーを制し、種牡馬としても日本でクラシックホースを量産した名種牡馬。母母Athgreanyは1913年愛オークス馬で、母Athasiは肌馬として本馬以外にTrigo(1929年英ダービー、英セントレジャー、愛セントレジャー)、Harinero(1933年愛ダービー、愛セントレジャー)などを出した名繁殖牝馬である。特に、St. Simonを3×4でインブリードする母に対して、St. Simonを4代前に1本しか持たない名種牡馬Blandfordとの組み合わせが良く、上記3頭はいずれもBlandford産駒の全兄弟だ。その他にも、Gallinuleの4×5などを通して重厚なIsonomy父系を刺激しており、種牡馬としても豊富なスタミナを産駒に伝えた。また、父と同じく仕上がりが早い点も大きな強みで、皐月賞馬5頭、日本ダービー馬4頭、菊花賞馬3頭を輩出するなど牡馬クラシックでは圧倒的な強さを見せている。

---------Monsun

<プロフィール>
1990年生、独国産、23戦12勝
<主な勝ち鞍>
1993年アラルポカル(T2400m)
1993年オイロパ賞(T2400m)
1994年オイロパ賞(T2400m)
<代表産駒>
Shirocco(2004年独ダービー、伊ジョッキークラブ大賞、2005年BCターフ、2006年コロネーションC)
Manduro(2007年イスパーン賞、プリンスオブウェールズS、ジャックルマロワ賞)
スタセリタ(2009年サンタラリ賞、仏オークス、ヴェルメイユ賞、2010年ジャンロマネ賞、2011年ビヴァリーDS、フラワーボウルS)
ノヴェリスト(2012年伊ジョッキークラブ大賞、2013年サンクルー大賞、キングジョージⅥ&QEDS、バーデン大賞)
<特徴>
1993年独年度代表馬に輝き、種牡馬としても独リーディングサイアーに4度輝いたドイツ発の世界的名種牡馬。Kaiserkrone=Kaiserradlerの全姉弟の血を4×4でインブリードしており、ドイツ血脈が凝縮された重厚なスタミナと成長力を子孫に伝えている。近年はオーストラリアの芝3200mGⅠメルボルンCで毎年のように本血脈が活躍。日本でもソウルスターリング(2016年阪神JF、2017年オークス)やヴェロックス(2019年皐月賞2着、ダービー3着、菊花賞3着)の母父としてそのスタミナ面を支えている。さらに、ノヴェリストが輸入されたことで日本競馬におけるMonsunの存在感は今後も増していきそうだ。

----------Samum

<プロフィール>
1997年生、独国産、14戦6勝
<主な勝ち鞍>
2000年独ダービー(T2400m)
2000年バーデン大賞(T2400m)
<代表産駒>
Baila Me(2008年オイロパ賞)
Kamsin(2008年独ダービー、ラインラントポカル、バーデン大賞)
Be Fabulous(2011年ロワイヤルオーク賞)
<特徴>
2000年独ダービー、バーデン大賞を制し、種牡馬として2008年独リーディングサイアーにも輝いた良血馬。3代母BravourII(1966年独1000ギニー)はAlchimist≒Arjamanの3/4同血クロスを2×3で持つが、その後はRidan、オールドヴィックと欧米の主流血脈を注入。母SacarinaはThong=Ridanの5×2を持ち、その母母であるBravourIIだけがドイツ血統の1/4異系血脈として牝系の底を支えた。ただ、本馬はAditi≒Arjaman≒Alchimistの7・6・5・7×5・7・7を持つ大種牡馬Monsunを父に配して再度ドイツ血脈を刺激。全きょうだいにはSalve Regina(2002年独オークス)、Schiaparelli(2006年独ダービー、2007年ドイツ賞、オイロパ賞、2007、09年伊ジョッキークラブ大賞)などもおり、ドイツ競馬固有の血脈を強く受け継いだ父Monsunの正統後継種牡馬といえるだろう。

----------Shirocco

 <プロフィール>
2001年生、独国産、13戦7勝
<主な勝ち鞍>
2004年独ダービー(T2400m)
2004年伊ジョッキークラブ大賞(T2400m)
2005年BCターフ(T12F)
2006年コロネーションC(T12F)
<代表産駒>
Brown Panther(2014年愛セントレジャー)
パテオドバテール(2017年OSAF大賞)
Windstoss(2017年独ダービー、オイロパ賞)
<特徴>
ドイツ産馬として初のブリーダーズC制覇を果たした父Monsunの代表産駒。母So SedulousはThe Minstrel産駒のアメリカ産馬で、Nearctic≒Mossboroughの3×4など北米と英愛の混血血統。本馬は父にドイツ競馬を代表する大種牡馬Monsunを配し、ドイツで育まれたアウトサイダー血脈に異系の活力を与えた配合形といえる。全兄Subiaco(2020年独ダービー2着)、Storm Trooper(2003年独ダービー3着、ドイツ賞2着)の活躍も同様の理屈であり、父の産駒はこのような配合形で成功した産駒が多いのも特徴だ。父と比べるとコンパクトで筋肉量も豊富。母のスピード血脈が利いており、そのスピードがドイツ産馬として初のブリーダーズC制覇を可能にしたといえるだろう。

Speculum

<プロフィール>
1865年生、英国産、28戦16勝
<主な勝ち鞍>
1868年グッドウッドC(T20F)
<代表産駒>
Sefton(1878年英ダービー)
<特徴>
大種牡馬Galopinに次ぐVedetteの代表産駒であり後継種牡馬。1868年グッドウッドCなどに優勝し、種牡馬としては1878年英ダービー馬Seftonを輩出。その年はリーディングサイアーにも輝いている。直仔で種牡馬として成功したものはいないが、快速種牡馬Sundridgeの父祖であり、The Tetrarchも本馬を4×4でインブリード。すなわち、MahmoudやNasrullah、Royal Chargerの牝祖Mumtaz MahalはSpeculumを5・5×5でインブリードしており、現代競馬においても欠かせない種牡馬であったといえるだろう。

---Sundridge

<プロフィール>
1898年生、英国産、35戦17勝
<主な勝ち鞍>
1902年ジュライC(T6F)
1903年キングズスタンドS(T5F)
1903年ジュライC(T6F)
1904年キングズスタンドS(T5F)
1904年ジュライC(T6F)
<代表産駒>
Sunstar(1911年英2000ギニー、英ダービー)
Jest(1913年英1000ギニー、英オークス)
Argos(1915年ミドルパークS)
<特徴>
ジュライC3連覇など芝短距離で活躍したイギリスの名スプリンター。母母がRataplan=Stockwellの3×2という野心的なインブリードを持ち、母もStockwell=Rataplanを3×4・3で継続。さらに、本馬はRataplan=Stockwellの4×4・5・4、かつNewminsterの4・4×5など非常にインブリードのきつい配合形である。父Amphionは1890年ハードウィックS、英チャンピオンSなどを制した中距離馬、母Sierraは1890年英ダービー馬Sainfoinの全妹であるが、母父はジュライC連覇など19世紀英国最強スプリンターの座に君臨したSpringfieldであり、本馬の非凡なスピードはSpringfield譲りとみるべきだろう。種牡馬としても卓越したスピードを子孫に伝え、1911年にはリーディングサイアーの栄冠を獲得。さらに、名繁殖牝馬Lady Josephineを出した功績は非常に大きく、本馬のスピードは現代のサラブレッドにも多大なる影響を与えている。同時代に種牡馬として活躍したRock SandとはSainfoin=Sierra、Vedette、Hermit、Stockwell=Rataplan≒King Tomなどが共通しており、両血脈を併せ持った活躍馬も多数誕生した。

------シアンモア

<プロフィール>
1924年生、英国産、14戦4勝
<主な勝ち鞍>
1926年モールコームS(T5F)
<代表産駒>
カブトヤマ(1933年日本ダービー)
フレーモア(1934年日本ダービー)
カヴァナー(1935年日本ダービー)
<特徴>
1934年全日本リーディングサイアー。1927年英ダービーで3着に好走するなど競走馬としても活躍したが、引退後は日本で種牡馬入りして現役時代以上の成功を収めた。1933~35年日本ダービーではカブトヤマ、フレーモア、カヴァナーという3頭の産駒が3連覇を果たし、好敵手トウルヌソルとともに昭和初期の日本競馬を牽引した名種牡馬である。母OrlassはAngelica=St. Simonを3×3でインブリード。繁殖牝馬としては大きな成功を収められなかったが、牝祖としてAngelica=St. Simonの名血を子孫に伝え、日本でもダービー馬ウィナーズサークルや名種牡馬ネヴアービートなどが活躍した。

------Count Fleet

<プロフィール>
1940年生、米国産、21戦16勝
<主な勝ち鞍>
1943年ケンタッキーダービー(D10F)
1943年プリークネスS(D9.5F)
1943年ベルモントS(D12F)
<代表産駒>
Count Turf(1951年ケンタッキーダービー)
Counterpoint(1951年ベルモントS、ジョッキークラブGC)
One Count(1952年ベルモントS、トラヴァーズS、ジョッキークラブGC)
<特徴>
アメリカ競馬史上6頭目のクラシック三冠馬。激しい気性としなやかなスピードを武器にベルモントSでは25馬身差の圧勝劇を見せた。短距離指向の強いSundridge系であるが、父Reigh CountはSt. Simon産駒St. Frusquinの3×3からスタミナを補強して1928年ケンタッキーダービーを制覇。さらに、母母StephanieもSt. Simonを4・5×4でインブリードしており、本馬がベルモントSをレースレコードで圧勝したことや産駒からジョッキークラブGC優勝馬が2頭出たことは同血脈の支えがあったからこそといえるだろう。ただ、現代の競走馬においては4代前に快速馬The Tetrarchを持つ点が重要である。同馬はMahmoudやNasrullah、Royal Chargerの牝祖であるMumtaz Mahalの父として有名だが、他方ではMr. Prospector(母母父Count Fleet)などを通しても継承されており、Mill ReefやRiverman、Cozzeneのように両血脈を併せ持つ馬も多い。柔らかく速いThe Tetrarchの血を現代まで繋いだ非常に重要な名種牡馬である。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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