見出し画像

【種牡馬辞典】Danzig系

Danzig

<プロフィール>
1977年生、米国産、3戦3勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
Chief's Crown(1984年ホープフルS、カウディンS、ノーフォークS、BCジュベナイル、1985年フラミンゴS、ブルーグラスS、トラヴァーズS、マールボロC招待H)
Danzig Connection(1986年ピーターパンS、ベルモントS)
Dayjur(1990年ナンソープS、スプリントC、アベイドロンシャン賞)
Dance Smartly(1991年シリーンS、BCディスタフ)
Lure(1992、93年BCマイル、1994年シーザーズインターナショナルH)
<特徴>
楽勝ばかりで3戦3勝を挙げたが、怪我により競走馬としてはタイトルを獲得できず。ただ、種牡馬としては1991〜93年の北米リーディングサイアーに輝き、その父系は世界中で大繁栄した。父Northern Dancerの豊富な筋肉量を受け継ぎつつ、さらに胴を詰めたようなスプリンター体型。産駒にも1600m以下のGⅠ馬が多く、非凡なスピードは子孫にも強く継承されている。ただ、3代母は英オークス馬で、母母はSon-in-Lawの4×5というスタミナ豊富な配合形。代を経るごとに活躍の幅を広げていったことは牝系の欧州血脈に由来し、また、自身がアウトブリードであることから繁殖牝馬の良さを引き出す能力にも長けていたと考えられる。

-Chief’s Crown

<プロフィール>
1982年生、米国産、21戦12勝
<主な勝ち鞍>
1984年米ホープフルS(D6.5F)
1984年カウディンS(D8F)
1984年ノーフォークS(D8.5)
1984年BCジュベナイル(D8F)
1985年フラミンゴS(D9F)
1985年ブルーグラスS(D9F)
1985年トラヴァーズS(D10F)
1985年マールボロC招待H(D10F)
<代表産駒>
Grand Lodge(1993年デューハーストS、1994年St.ジェームズパレスS)
エルハーブ(1994年英ダービー)
チーフベアハート(1997年カナディアンインターナショナルS、BCターフ、1998年マンハッタンH、ナイアガラBCH)
<特徴>
母母Chris EvertはSir Gallahad=Bull Dog譲りのパワーを武器に1974年エイコーンS、マザーグースS、CCAオークスを制した名牝。ただ、父Danzigと母父Secretariatは同血脈が薄く、本馬自身はMahmoud≒Mumtaz Begumの5×5・7に由来する柔軟性とスピード、さらにはHyperionの5・7×7・8から受け継ぐ豊富なスタミナが持ち味の競走馬であり、種牡馬であった。距離適性の短いDanzigにとって初年度産駒から本馬のような中距離馬が出たことには非常に大きな価値があり、2009年天皇賞春を制したマイネルキッツも本父系の活躍馬である。

--Grand Lodge

<プロフィール>
1991年生、米国産、13戦4勝
<主な勝ち鞍>
1993年デューハーストS(T7F)
1994年St.ジェームズパレスS(T8F)
<代表産駒>
Indian Lodge(2000年ムーランドロンシャン賞、フォレ賞)
Sinndar(2000年英ダービー、愛ダービー、凱旋門賞)
グランデラ(2002年シンガポール航空国際C、プリンスオブウェールズS、愛チャンピオンS)
<特徴>
父Chief’s CrownはDanzig産駒でありながら、Mahmoud≒Mumtaz Begumの5×5・7に由来する柔軟性とスピード、さらにはHyperionの5・7×7・8から受け継ぐ豊富なスタミナが持ち味の中距離馬。そして、本馬はSecretariat≒Sir Gaylordの3×3によりさらに柔らかくバネのあるフットワークで走り、1994年St.ジェームズパレスSを制するなどヨーロッパのトップマイラーとして活躍した。種牡馬としてもSinndar(2000年英ダービー、愛ダービー、凱旋門賞)を筆頭にヨーロッパで数多くの活躍馬を出し、シャトル種牡馬としてオーストラリアでも多くのGⅠ馬を輩出。日本ではシンボリグランが2005年CBC賞を制している。

-Green Desert

<プロフィール>
1983年生、米国産、14戦5勝
<主な勝ち鞍>
1986年ジュライC(T6F)
<代表産駒>
Sheikh Albadou(1991年ナンソープS、BCスプリント、1992年スプリントC)
シンコウフォレスト(1998年高松宮記念)
Desert Prince(1998年愛2000ギニー、ムーランドロンシャン賞、クイーンエリザベスⅡ世S)
Oasis Dream(2002年ミドルパークS、2003年ジュライC、ナンソープS)
<特徴>
父Danzigはアメリカ生まれアメリカ育ちではあるが、欧州でも多くの活躍馬を輩出し、本馬はその草分け的存在。母は名繁殖牝馬Courtly Deeの6番仔で、きょうだいにはGⅠ馬Ali OopやAlthea、Ketoh、種牡馬トワイニングなどがいる。Sir Ivor×Never BendというMumtaz Mahal的スピードを強く伝える繁殖牝馬で、本馬自身は父母から非凡なスピード性能を受け継いだスプリンターとして1986年ジュライCなどを制した。名繁殖牝馬ビールジャントの伝える短距離資質は父である本馬の影響であり、そのスピードは仔Lucky Nine≒サドンストーム=ティーハーフに確実に伝わっている。

--Cape Cross

<プロフィール>
1994年生、愛国産、19戦5勝
<主な勝ち鞍>
1998年ロッキンジS(T8F)
<代表産駒>
Ouija Board(2004年英オークス、愛オークス、2004、06年BCフィリ―&メアターフ、2005年香港ヴァーズ、2006年プリンスオブウェールズS、ナッソーS)
Sea the Stars(2009年英2000ギニー、英ダービー、エクリプスS、英インターナショナルS、愛チャンピオンS、凱旋門賞)
Golden Horn(2015年英ダービー、エクリプスS、愛チャンピオンS、凱旋門賞)
<特徴>
母Park Appeal(1984年モイグレアスタッドS、チェヴァリーパークS)はイギリスとアイルランドで最優秀2歳牝馬に選出された名牝。その母Balidaressも優秀な繁殖牝馬で、Park AppealのほかにDesirable(1983年チェヴァリーパークS)やAlydaress(1989年愛オークス)など活躍馬を多数輩出した。さらに遡れば、名牝Pretty Pollyに辿り着く名牝系でもあり、本馬自身はNearctic≒The Veilの4×5も配合のキーとなっている。競走馬としては1998年ロッキンジSを制した程度だが、種牡馬としてはOuija Board(2004年英オークス、愛オークス、2004、06年BCフィリ―&メアターフ、2005年香港ヴァーズ、2006年プリンスオブウェールズS、ナッソーS)、Sea the Stars(2009年英2000ギニー、英ダービー、エクリプスS、英インターナショナルS、愛チャンピオンS、凱旋門賞)、Golden Horn(2015年英ダービー、エクリプスS、愛チャンピオンS、凱旋門賞)という3頭の欧州年度代表馬を輩出。2009年には仏リーディングサイアーにも輝き、ヨーロッパを中心に大成功を収めている。

---Sea The Stars

<プロフィール>
2006年生、愛国産、9戦8勝
<主な勝ち鞍>
2009年英2000ギニー(T8F)
2009年英ダービー(T12F)
2009年エクリプスS(T10F)
2009年英インターナショナルS(T10.5F)
2009年愛チャンピオンS(T10F)
2009年凱旋門賞(T2400m)
<代表産駒>
Taghrooda(2014年英オークス、キングジョージⅥ&QEDS)
Harzand(2016年英ダービー、愛ダービー)
Stradivarius(2017~20年グッドウッドC、2018~20年アスコットGC)
Star Catcher(2019年愛オークス、ヴェルメイユ賞、英チャンピオンフィリーズ&メアズS)
<特徴>
3歳時に2009年英2000ギニー、英ダービー、エクリプスS、英インターナショナルS、愛チャンピオンS、凱旋門賞の6つのGⅠタイトルを手にして欧州年度代表馬に輝いた欧州競馬史を代表する名馬。母母Allegrettaは本馬の母Urban Sea(1993年凱旋門賞)とキングズベスト(2000年英2000ギニー)の2頭のGⅠ馬を出し、両馬ともに繁殖牝馬・種牡馬として成功。特に、Urban SeaはGalileo(2001年英ダービー、愛ダービー、キングジョージⅥ&QEDS)、Black Sam Bellamy(2002年伊ジョッキークラブ大賞、2003年タタソールズGC)、My Typhoon(2007年ダイアナS)、本馬という4頭のGⅠ馬を輩出し、その他にもMelikah(2000年英オークス3着、愛オークス2着)やAll Too Beautiful(2004年英オークス2着)、Born To Sea(2012年愛ダービー2着)なども一線級で活躍した。Allegrettaがドイツ血脈主体の血統で、Urban Seaの産駒は1/4異系の形が容易に作れることも成功の一因といえるだろう。さらに、本馬は父にCape Crossを配して、Foreign Courier≒Hopespringseternal(Royal Charger≒Nasrullah、Princequillo、Attica≒Tom Fool、War Admiralなどが共通)の3×3を形成。Green Desert系でありながら雄大なフットワークで走る姿はここに起因すると考えられる。

--Invincible Spirit

<プロフィール>
1997年生、愛国産、17戦7勝
<主な勝ち鞍>
2002年スプリントC(T6F)
<代表産駒>
Lawman(2007年仏ダービー、ジャンプラ賞)
フリーティングスピリット(2009年ジュライC)
Moonlight Cloud(2011~13年モーリスドゲスト賞、2012年ムーランドロンシャン賞、2013年ジャックルマロワ賞、フォレ賞)
Kingman(2014年愛2000ギニー、St.ジェームズパレスS、サセックスS、ジャックルマロワ賞)
Magna Grecia(2018年ヴァーテムフューチュリティTS、2019年英2000ギニー)
<特徴>
競走馬としてのGⅠタイトルは引退レースで手にした2002年スプリントCのみだが、種牡馬としては数多くの短距離GⅠ馬を輩出したDanzig系種牡馬。3/4同血の弟Kodiacも短距離種牡馬として成功を収めているが、両馬の母Rafhaは1990年仏オークス馬であり、Invincible Spiritは2007年仏ダービー馬Lawman、Kodiacは芝2400mGⅠ3勝馬Best Solutionを出すなど配合次第では中長距離を得意とする馬も出している。とはいえ、筋肉量豊富、かつ寸詰まりの馬体は典型的なスプリンターのそれであり、Danzig→Green Desert系らしい卓越したスピードを子孫に伝えている。

--Oasis Dream

<プロフィール>
2000年生、英国産、9戦4勝
<主な勝ち鞍>
2002年ミドルパークS(T6F)
2003年ジュライC(T6F)
2003年ナンソープS(T5F)
<代表産駒>
Midday(2009~11年ナッソーS、2009年BCフィリー&メアターフ、2010年ヨークシャーオークス、ヴェルメイユ賞)
Muhaarar(2015年コモンウェルスC、ジュライC、モーリスドゲスト賞、英チャンピオンズスプリントS)
Native Trail(2021年愛ナショナルS、デューハーストS、2022年愛2000ギニー)
<特徴>
2003年ジュライC、ナンソープSを制し、同年欧州最優秀スプリンターに輝いたGreen Desert直仔の快速馬。Northern Dancerの3×4、Sir Gaylordの4×5、Never Bendの4×4などを持つ父母相似配合で、Danzig→Green Desert系らしい卓越したスピードを子孫にも伝えている。半姉Zendaも2002年仏1000ギニーを制し、母として2014年欧州年度代表馬Kingmanを輩出。さらに、同馬は父父がGreen Desertであるため、Kingmanの父父と母母がOasis Dreamの父と母と共通する相似な血の関係にある。Kingmanは日本でも2021年NHKマイルC勝ち馬シュネルマイスターを出すなど成功を収めており、それに併せて本馬の血統価値が再評価される日もそう遠くはないだろう。

-デインヒル

<プロフィール>
1986年生、米国産、9戦4勝
<主な勝ち鞍>
1989年スプリントC(T6F)
<代表産駒>
デザートキング(1996年愛ナショナルS、1997年愛2000ギニー、愛ダービー)
ロックオブジブラルタル(2001年仏グランクリテリウム、デューハーストS、2002年英2000ギニー、愛2000ギニー、St.ジェームズパレスS、サセックスS、ムーランドロンシャン賞)
ファインモーション(2002年秋華賞、エリザベス女王杯)
North Light(2004年英ダービー)
Dylan Thomas(2006年愛ダービー、2006、07年愛チャンピオンS、2007年ガネー賞、キングジョージⅥ&QEDS、凱旋門賞)
<特徴>
ヨーロッパとオセアニアを中心に大成功を収めたDanzig系を代表する名種牡馬。競走馬としてはDanzig産駒らしいスピードの勝った短距離馬であり、特にトモの強靭さは快速馬揃いのDanzig系でも最上級の血筋。その中でもオセアニアで発展した父系は格別なスピードを有している。これはNorthen Dancer~Danzigから受け継いだものであり、さらには名繁殖Natalmaを3×3でインブリードした賜物といえるだろう。仕上がりが早く、ダッシュ力に優れ、急坂も苦にしない非常にパワフルな種牡馬だ。ただ、母父His Majestyの母Flower BowlはHyperion系×Son-in-Law系の中長距離馬で、これは父Danzigのスタミナ因子を刺激するもの。そのため、ヨーロッパではHyperionやSon-in-Lawが強調されてNorth Light(2004年英ダービー)やDylan Thomas(2006年愛ダービー、2006、07年愛チャンピオンS、2007年ガネー賞、キングジョージⅥ&QEDS、凱旋門賞)など多くの中長距離馬も誕生した。デインヒルらしさは今後もオセアニアを中心に受け継がれ、ヨーロッパや日本では補強的役割が多くなっていくのではないだろうか。

-Anabaa

<プロフィール>
1992年生、米国産、13戦8勝
<主な勝ち鞍>
1996年ジュライC(T6F)
1996年モーリスドギース賞(T1300m)
<代表産駒>
Anabaa Blue(2001年仏ダービー)
Goldikova(2008年ムーランドロンシャン賞、2008~10年BCマイル、2008~11年ロートシルト賞、2009年ファルマスS、ジャックルマロワ賞、2010年クイーンアンS、フォレ賞、2010、11年イスパーン賞)
Style Vendome(2013年仏2000ギニー)
<特徴>
1996年ジュライC、モーリスドギース賞を制し、同年欧州最優秀スプリンターに輝いたDanzig直仔。母Balbonellaは1986年ロベールパパン賞などを制したスピード馬で、繁殖牝馬としては本馬以外にKey of Luck(1996年ドバイデューティーフリー)やAlways Loyal(1997年仏1000ギニー)などを出している。母はNearcoの4・6×5・7やHyperionの5・6×7・7・6を持ち、本馬は父にDanzigを配して同血脈を薄く継続。父母譲りのスピードを持ち味としつつも、牝系譲りの底力を秘めたトップスプリンターだったといえるだろう。種牡馬としても2010年欧州年度代表馬Goldikova(2008年ムーランドロンシャン賞、2008~10年BCマイル、2008~11年ロートシルト賞、2009年ファルマスS、ジャックルマロワ賞、2010年クイーンアンS、フォレ賞、2010、11年イスパーン賞)を筆頭に数多くのGⅠ馬を輩出。代表産駒の多くはマイラーであり、2001年仏ダービー馬Anabaa Blueなど中距離路線で活躍した産駒も少なくない。

-Langfuhr

<プロフィール>
1992年生、加国産、23戦9勝
<主な勝ち鞍>
1996年ヴォスバーグS(D7F)
1997年カーターH(D7F)
1997年メトロポリタンH(D8F)
<代表産駒>
Jambalaya(2007年ガルフストリームパークBCターフS、アーリントンミリオンS)
Lawyer Ron(2007年ホイットニーH、ウッドワードS)
アポロケンタッキー(2016年東京大賞典)
<特徴>
1997年メトロポリタンHなどダートの7~8FでGⅠ3勝を挙げたパワーマイラー。父Danzig、さらにはNearcticの3×3から受け継ぐスピードは素晴らしく、筋骨隆々の馬体からも強靭なパワーが感じられる。ただ、欧州発の牝系、かつ北米血脈の量が少ないため、種牡馬としては芝のGⅠ馬も出しており、中長距離での活躍馬も少なくない。表面的な字面の印象よりも引き出しの多い種牡馬だったといえるだろう。

-ハードスパン

<プロフィール>
2004年生、米国産、13戦7勝
<主な勝ち鞍>
2007年キングズビショップS(D7F)
<代表産駒>
Questing(2012年CCAオークス、アラバマS)
Spun to Run(2019年BCダートマイル)
Aloha West(2021年BCスプリント)
<特徴>
2007年キングズビショップSを制すほか、クラシック戦線でも堅実に走ったDanzig産駒。種牡馬としてもコンスタントにGⅠ馬を出し、日本でも2012年全日本2歳優駿優勝馬サマリーズを輩出した。母母DarbyvailはLittle Current(1974年プリークネスS、ベルモントS)やPrayers'n Promises(1980年スピナウェイS、米メイトロンS)の半妹。Roberto産駒のDarbyvailはTurn-to≒Perfumeの3×3などを持つ欧米混血馬で、母Turkish Trystは芝のGⅡで3着と競走馬としても結果を残した。本馬もDanzig産駒としてはスラリと手足が伸び、距離にも融通の利くタイプ。種牡馬としても芝とダートを問わず、短距離から中距離までGⅠ馬を出しており、万能性に優れた種牡馬だったといえるだろう。また、母父TurkomanはBull Leaの5・5×5を持ち、本馬も同血脈譲りの曲飛節に出ている。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
YouTube ・Twitter


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?