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恵文社一乗寺店 5月の本の話 2023

ご無沙汰しております。
前回よりだいぶ間があいてしまいましたが、久々の書籍売上ランキングのご紹介と、気になる本の話を少し。

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1位 土門蘭『死ぬまで生きる日記』(生きのびるブックス)

なぜ自分は毎日のように「死にたい」と思ってしまうんだろう、という問いは、裏を返せば、なぜ自分はそれでも生きているんだろう、という問いでもある。(中略)自然な死が訪れるまで、死なずに生き続けること。このことがいかに難しいかは、自分の身をもって知っている。だから、そうしたいと願っているすべての人に、この本を捧げたいと思う。

「はじめに」より引用

文筆家・土門蘭さんによる、生きのびるブックスさんでのウェブ連載を書籍化した『死ぬまで生きる日記』がこのたび1位にランクイン。
カウンセラーさんや周囲と重ねる会話、交わされる言葉の中で顕になる自分への問い。ままならない自身と向き合い、掘り下げてきた日々の記録をあるがままに収録しています。

つい先日終了いたしましたが、書籍フロアで行われておりました刊行記念フェアも、大変ご好評いただいておりました。


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2位 上林暁『孤独先生』(夏葉社)

夏葉社から刊行された二冊目の傑作小説集『孤独先生』。著者は昭和を代表する私小説作家・上林暁。選者は京都・銀閣寺の近くで古本屋を営む山本善行さん。上林暁の書籍を編むのは本書で4冊目とのこと。
ベストテンを並べるような編み方ではなく、心の片鱗に姿をみせる小説に、しぜんと集まったで作品で構成したという、文脈に精通した選定と美学の詰まった一冊。

現在書籍フロアでは、今回装画を担当された阿部海太さんの油絵展示を開催中。こちらも併せてご覧ください。


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3位 カシワイ『ゆめのふち 夢的邊縁』

森、海、空、石、時計…。イラストレーター・カシワイさんが2023年5月、台湾・mangasickにて開催した個展「ゆめのふち」に合わせて制作された、最新の作品集。風に乗って自由に飛び回るように、心地よい深淵にとっぷりと浸かっていくように、夢の世界をじっくりと味わいたい一冊です。


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4位 rekko『やぶる うまれる 絵本』(さりげなく)

本をやぶる!?なんて、なんだか悪いことをしてしまうみたい…と少しの後ろめたさを感じつつも、ちょっとどきどきしてしまいます。
京都の出版社・さりげなくさんより届いた独創的な絵本。やぶってつくる絵本なら、正解も不正解も、絵の得意不得意も関係ありません。お子様と一緒にでも、もちろん大人同士でも。贈り物にも大変おすすめです。

(恵文社スタッフも、びりびりとやぶって楽しみました)


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5位  島田潤一郎『電車のなかで本を読む』(青春出版社)

「文学」ってなんだろう?
本は地図に似ている、言葉の本当の意味、海の向こうの出来事を知る…。
親しみやすくも硬派で美しい本を手がける出版社「夏葉社」の社主・島田潤一郎さんの読書日記のような単著。ひとり出版社として自身の原点である『さよならのあとで』、夏目漱石の弟子であり物理学者であった寺田寅彦の随筆集、早逝した将棋棋士・村山聖を主題としたノンフィクション『聖の青春』、水水しく描かれる果物が美しく読み継がれる絵本『くだもの』などなど、読書と日々を書き結びます。


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6月に入ったものの、本当に梅雨入りしたのかな、と思うほど涼しくて過ごしやすい日がつづきますね。
お出かけも億劫になりがちですが、雨の日の本屋は良いものです。

雨といえば、最近入荷した本で、特に気になっているのがこちらの一冊。

新百姓 1号「水をのむ」(一般社団法人新百姓)

効率性や規模の拡大を最優先とする経済の在り方と、巨大な社会のシステムに疑問を持ち、新しい生き方を探求する人々の問いと実践の物語を紹介する雑誌『新百姓』。創刊号のときから気になっていましたが、そうきたか!という議題の取り上げ方と見つめ方。
3日摂らずにいると、命を落としてしまう「飲み水」。そういえば、いつから人はお金を払って飲み水を確保するようになったのか、いざというときに自分は自らの手で水を確保できるのか、しみじみ考えさせられます(家では水道水を浄水器に通し飲んでいるのですが、それも結局お金を払って手に入れていることだよな…と気づきやや落ち込んだりも)。

「だれもが自分の欲しい水を、欲しいときにつくれるように」という想いのもと研究をつづけられ、排水の98%(!)以上を再利用できる水循環システムを開発した北川力さんのお話、鈍っている部分をほぐされるような気持ちになり大変おもしろいです。当たり前になりすぎていてついつい見過ごしてしまう事象の根源を掘り下げる。ただただその熱量と探究心に感服…。

次号はなんと「米をたく」特集だそう。
これからの刊行が楽しみになる雑誌です。


それでは、来月のお話もどうぞお楽しみに。


(担当:韓)


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