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株式譲渡と事業譲渡の違い|M&Aスキームの解説

M&Aによって会社の経営権を第三者へ引き継がせる方法として「株式譲渡」と「事業譲渡」があります。それぞれメリットとデメリットがあり、状況に応じてどちらが適しているか判断しなければなりません。

今回は株式譲渡と事業譲渡の違いを解説します。今後M&Aを検討している経営者の皆さまはぜひ参考にしてみてください。

株式譲渡とは

株式譲渡とは、売り手企業の株式を買い手企業へ譲渡する契約です。売主は「売り手企業の株主」であり、買主は買い手企業となります。

売り手企業の経営者が全株式を保有していれば、経営者個人が売主として買い手企業と契約し、売却代金は売り手企業の経営者本人のもとに入ってきます。

株式は全部売却してもかまいませんし、一部譲渡も可能です。一部譲渡した場合、買い手企業と売り手企業のオーナーが共同で売り手企業を運営していくことになります。

株式譲渡

事業譲渡とは

事業譲渡とは、売り手企業を事業単位で買い手企業へ売却する契約です。

売主は「売り手企業(法人)」であり、売り手企業の経営者個人ではありません。売却代金も売り手企業へと入金されます。

事業の全部を譲渡してもかまいませんし、一部譲渡も可能です。不採算部門や将来性の高い事業を切り離して譲渡する利用方法もあります。

事業譲渡

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡のメリット

株式譲渡のメリットを「売り手企業側」と「買い手企業側」にわけてみてみましょう。

売り手企業側のメリット
①売り手企業のオーナーにお金が入ってくる
株式譲渡を行うと、売り手企業の経営者個人に株式の売却代金が入金されます。
高額な売却金を元手に別事業を行ってもかまいませんし、高齢の方であれば引退して余裕のある老後を送れるでしょう。
事業譲渡であれば売り手企業のオーナー本人にはお金が入ってこないので、この点は株式譲渡のメリットといえます。

②税制上のメリット
株式譲渡には税制上のメリットもあります。
まず事業譲渡と異なり「消費税」がかかりません。株式の譲渡益には一律で約20%の税金がかかる制度となっているので、事業譲渡にかかる法人税等(約30%)よりも税率が低くなります。
同じ代金で売却してもかかる税金が異なるので、事業譲渡より株式譲渡の方が前オーナーの手元に残る金額が大きくなるケースが多数です。

③権利を残せる
株式譲渡の場合、すべての株式を譲渡する必要はありません。前オーナーに一部の株式を残すことにより、会社への影響力を残せます。
たとえば前オーナーに3分の1以上の株式を残せば、M&Aの実施後も株主総会特別決議における否決権を維持できます。
交渉次第にはなりますが、前オーナーの権利を残せる点も売り手企業オーナーにとってのメリットといえるでしょう。

買い手企業側のメリット
①契約や権利関係に関する個別的な手続きが不要
株式譲渡の場合、包括的に「会社の所有権」が移転するので個別の契約や権利関係の移転手続きは不要です。
たとえば以下のような契約や権利はすべて新しい株主となった買い手企業に引き継がれますので、買い手企業にとっては手間が省けるメリットがあります。

 ■ 従業員との雇用契約
 ■ 取引先との基本契約など
 ■ オフィスや工場の賃貸借契約
 ■ 商標権、特許権、著作権などの知的財産権

②許認可を引き継げる
株式譲渡の場合、売り手企業が取得していた各種の許認可もそのまま買い手企業へ引き継がれます。
M&Aの実施後に別途許認可を申請・取得する手間や費用を省けるのも大きなメリットといえるでしょう。

株式譲渡のデメリット

売り手企業におけるデメリット
株式を買い集める必要がある
株式譲渡を成立させるには、株式の保有者が譲渡に合意しなければなりません。売り手企業の株式が経営者以外の人に散逸(例えば、親族が相続により承継している場合など)している場合、売り手企業オーナーは事前に株主の同意を得るか、株式を買い集める必要があります。

会社を離れた共同創業者が株式を保有しているケースや株式を保有している親族がM&Aに反対する場合などには、株式譲渡によるM&Aは困難となる可能性が高くなります。

買い手企業におけるデメリット
簿外債務が引き継がれるリスクがある
株式譲渡を行うと、権利だけではなく義務も包括的に移転されます。売り手企業に簿外債務があった場合、そのまま買い手企業に引き継がれるデメリットがあります。

売り手企業のオーナーに表明保証させるとともに綿密なデューデリジェンスを行い、リスクを洗い出す必要があるでしょう。

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡についても売り手企業側、買い手企業側に分けてメリットデメリットを解説します。

事業譲渡のメリット

売り手企業のメリット
①経営権を残せる
事業の一部を譲渡すると、他事業は売り手企業に残ります。これまで通り、売り手企業の経営者が完全な経営権を維持して経営を継続できるメリットがあります。

②事業の切り離しが可能
事業譲渡の場合、任意に一部の事業を切り離して譲渡できます。

 ■ 不採算部門を譲渡して赤字体質を改善
 ■ 将来性の高い事業のみ高額で譲渡

上記のような裁量をきかせられるのも事業譲渡のメリットです。

買い手企業のメリット
①ほしい事業だけを選別できる
買い手企業にとっては「ほしい事業のみ選別して譲り受けられる」メリットがあります。
売り手企業の一部の事業にのみ魅力を感じている場合、当該事業のみ価値算定して譲り受ければ目的を達成できるでしょう。

②簿外債務の引き継ぎリスクがない
事業譲渡の場合、資産や契約関係などを個別に引き継ぐため、簿外債務を引き継いでしまうリスクはありません。

事業譲渡のデメリット

売り手企業のデメリット
①税額が高くなるケースが多い
売り手企業にとって最大のデメリットは税額が高くなることです。事業譲渡には「消費税」がかかりますし、入金された譲渡代金には約30%の法人税がかかります。
売却金が売り手企業(法人)のものとなるため、売り手企業のオーナー個人が売却代金を受け取るには会社を解散させて清算手続きを経なければなりません。最終的に受け取る配当金にも税金がかかります。
税金の観点からは、圧倒的に株式譲渡のメリットが大きくなるのが一般的です。

②競業避止義務が課される
事業譲渡を行うと、売り手企業には法律上当然に「競業避止義務」が発生します。

・同一市町村内や隣接する市町村内で20年間、同一事業を行ってはならない
・特約により、30年まで期間を延長できる
・譲渡会社が不正な目的をもっている場合、エリアや期間は無制限に競業避止義務が課せられる

売り手企業がM&A後にも事業を継続したい場合には、競業避止義務の期間や範囲を限定する交渉が必要になるでしょう。

買い手企業のデメリット
①契約や権利関係の個別引き継ぎが必要
事業譲渡では包括的な権利や契約関係の移転ができません。
従業員との雇用契約、取引先との基本契約、オフィスの賃貸借契約などすべてについて、個別的な契約の巻き直しが必要となり手間がかかります。
商標権や特許権などの引き継ぎもできないので、個別に譲り受けるかライセンス契約を締結する必要があるでしょう。

②許認可の再申請が必要
事業譲渡では、買い手企業に許認可が引き継がれません。必要に応じて買い手企業が申請取得する必要があります。

③不動産取得税がかかる
事業譲渡にともなって買い手企業が売り手企業から不動産を譲り受けた場合、不動産取得税が課税されます。

株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡と事業譲渡の主な違いをまとめると、以下のとおりです。

株式譲渡と事業譲渡


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