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The Cure:Album12(ブラッドフラワーズ:Bloodflowers)& The Cure: Trilogy Live

最初なんでキュアーを好きになったのだろうか。
私の場合は、もちろん音楽と映像もあるが、どこか生きていることに自信なさげで居心地がわるそうなロバート・スミスの姿を見て好きになったのだ。
だから、成功して浮かれているような姿は見ててつらかったし、「生きてるって素晴らしい」みたいな明るい曲もそんな好きじゃなかった。
なにしろ『Disintegration』の思わぬ大成功からのキュアーからは『キュアーらしさ』が感じられなかった。

じゃあ『キュアーらしさ』ってのは何?となるが、
・太陽の光というより深夜のチカチカした蛍光灯の灯りが似合う
死という正体不明なものへの不安や恐怖なんかが根底にあったりする
・音的にはダークで混沌としていたり、明るくてもどこか奇妙な雰囲気

そういう『キュアーらしさ』がこのアルバム『ブラッドフラワーズ:Bloodflowers』には久々にちゃんとあった。
私がこのアルバムをはじめて聴いた時、もう二度と会えないかと思っていた友人が約束も予告もなくフラリと現れたような気がした。不意打ちをくらったような感覚で、少しうろたえてしまった。
「いい」か「わるい」かで言うと、泣いてしまうほど「いい」のであった。

1999年5月に完成していながら、「ミレニアルの喧騒が過ぎるのを待つというレコード会社の思惑」(スミス談)によって発売が延期された『Bloodflowers』は、『Wild Mood Swings』とは趣の異なるアルバムだ。それはむしろ、『Faith』、『Pornography』、そして『Disintegration』の大部分のように、曲単位ではなくアルバム全体をひとつの叙事詩として聴かせるような一貫したムードを宿している。

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/30010/12/1/1

そう言えばキュアーにはアルバムを聴くというより、アルバムの世界に入り込むように『何度も何度も聴き込む』というのがあった。そうして徐々にその世界が見えてくる。はじめには見えなかったものが、だんだん細部まで見えてくるのである。
このアルバム『Bloodflowers』もなにかひとつの世界を曲ごとに断片的に見ているようであり、何度も聴くとより見えてくる。

●アウト・オブ・ジス・ワールド:Out Of This World

私たちが振り返るとき、きっとそうなるのだろう
君と僕は目を見開いて
私は思う...

私たちは本当に生きていることを 感じることができるのだろうか?
そして、私たちは行かなければならないことを知っています
私たちはそんなに長く滞在することしかできないことに気づきました
必ず現実の生活に戻らなければならない
私たちの居場所
元の世界へ
元の場所に戻るんだ

https://www.thecure.com/lyrics/out-of-this-world/

ロバート・スミス:
1曲目の「Out of This World」も6分30秒から4分45秒まで削ってみたけど、ラジオでかけるにはイントロがまだ長すぎると言われた。でも僕はそのゆっくりとした展開が気に入っていたし、くだらない3分30秒ルールみたいなのを強要されたくなかった。デモを作ってる段階では、僕らなりのポップソングみたいなのも幾つか作ったんだけど、どれも浅はかで安っぽく聞こえたんだ。

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/30010/12/1/1

実際ロバート・スミス自身がシングル曲3分30秒ルールをやっていたし、せっせと浅はかなポップソングを作っていたと思うのだが、今回のアプローチはそうではないらしい。

●メイビー・サムデイ:Maybe Someday

いやだ、もう二度としたくないし演じたくない
前のようになれないなら終わらせなきゃ
私は自分なっていたものを望んでいませんでした、
そして私は頭は変わりました

でもいつかきっと… そう、
いつかきっと 私はそれを手放し、
それを手放さなければなりません

https://www.thecure.com/lyrics/maybe-someday/

歌手のロバート・スミスは、レコード会社の意向に反して、このアルバムからのシングルをリリースしないことを選択した。しかし、「Maybe Someday」と「Out of This World」はプロモーション用シングルとしてイギリス、アメリカ、カナダ、ヨーロッパの多くの地域でラジオ向けにリリースされた。

https://en.wikipedia.org/wiki/Bloodflowers

私らファンだって、二度とらしくないことして欲しくないし、無理に演じ続けて欲しくないのだから、もうそんなこと続けることないのである。
自分たちにしか出せない音で、自分たちのアルバムを作ってくれたらいいと思う。

▼『トリロジー・ライヴ:The Cure: Trilogy』

『The Cure: Trilogy』は2002年にドイツのベルリンで収録した、The Cureのライブアルバムビデオです。
『ポルノグラフィティ』(1982年)、『ディスインテグレーション』(1989年)、『ブラッドフラワーズ』(2000年)の3枚のアルバムを、毎晩順番に全曲演奏し、アルバムに収録された曲順でライブを行った「トリロジー・コンサート」を記録している

ロバート・スミス:
"アルバムPornography, Disintegration, Bloodflowersは多くの点で表裏一体であり、この三部作のショーの実現は、私がThe Cureで過ごした時間の中でもハイライトの一つだ。"

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Cure:_Trilogy

できたら『Faith』も入れて欲しかったが、もうそんな贅沢は言いません。あの頃のダークでカメラに向かって笑いもしなかった(カメラの方を見もしなかった)『Pornography』のキュアーが見られるだけで私は幸せです。『Disintegration』も全曲だなんて夢のようです。

●39

だから、火はほとんど消え、燃やすものは何も残っていない
もう考えも言葉も尽きてしまった
私はそれらを使い果たした、
私はそれらを使い果たしました

そう、火はほとんど冷え切っていて、燃えるものは何も残っていない
私は感情を使い果たし、世界を使い果たした
約束したことも 試したことも
すべて私がやったことだ

私は火に油を注いだ
しかし、もう火はほとんど消えている

https://www.thecure.com/lyrics/39/

ロバート・スミス:
正直に言うと、若い頃のような情熱や心意気はもうないんです。でも、『39』で「火が消えそうだ」と言ったのは、決して諦めているわけではないと思うんです。過去に自分を表現する原動力になっていたものが、今はもうないんだということを率直に言っているだけなんです。

https://www.songfacts.com/facts/the-cure/39

燃え尽きたなら「私は燃え尽きた」と唄えばいいじゃないか。そうやって今の自分をそのまま出すのは素晴らしいことではないだろうか。そのままの自分をさらけ出すのも『キュアーらしさ』と思う。

●ブラッドフラワーズ:Bloodflowers

この『Bloodflowers』はアルバムの最後の曲。

キュアーの活動は最初のアルバムから21年、スタジオアルバムは今回の『Bloodflowers』で11枚目である。
ほとんど出し切ってネタ切れしていてもおかしくないのに、まだこんなしっかり世界観のあるアルバムを出してくるところに驚いた。

時代はサブスク(サブスクリプション=定額聴き放題)になって、CDの売り上げではどれだけそのアルバムが聴かれているのかがわからなくなった。今では順番にさかのぼってCDを買っていくようなこともしない。

私はヒットしているからキュアーを聴きはじめたわけではない。「なんだこの音楽は!」「なんだこの映像は!」「なんだこのユラユラ踊る男は!」という驚きから聴きはじめた。

初期から聴き続けているキュアーファンはこの『Bloodflowers』は好きだと思う。何度も聴いたりしていると思う。これからも何度も引っ張り出しては聴いたりすると思う。
これが『キュアーらしさ』が出てる音楽だと堂々とお勧めできるアルバムを、ここにきて出してきたというのが嬉しい。

ここに2022年NME Awardsでのロバート・スミスのインタビュー記事がある。

「ザ・キュアーの2枚のアルバムに取り組んできたんだけど、そのうちの1枚は完成したんだ」とロバート・スミスは語っている。「でも、残念ながら完成したのは2枚目のアルバムなんだ。もう一方はまだ4曲ヴォーカルをレコーディングしなくちゃいけないんだよ。それぞれのアルバムには10曲が収録される。来月の4月1日にはミキシングをやるから、まだ3週間残っているよね」

彼は次のように続けている。「タイトルも決まっているんだ。『ソングス・オブ・ア・ロスト・ワールド』と言うんだ。アートワークもあって、曲順も決まっている。だから、ほとんどできているんだ。でも、アナログ盤があるから、ゆっくりになるんだ。9月には出せるかもしれないし、そうできたらいいよね。楽しみでしょうがないんだよ」

アルバムのサウンドについて訊かれると、ロバート・スミスは次のように答えている。「1枚目のザ・キュアーのアルバムは容赦なく暗いんだ。これまででも最も暗いね。2枚目はアップビートで、ソロ・アルバムは来年以降になると思う」
「再検討しなきゃいけないからね。長年やりたかったもので、やるとしたら一度限りだから、今は本物の楽器、アコースティックの楽器を足し始めているところなんだ。2年前は文字通りフィードバックだけだったんだ。でも幻滅してね。3度聴いてみて、これじゃダメだと思ったんだ」

https://nme-jp.com/news/113217/

そのままでいいから自分たちのペースでやっていって欲しい。
待ってます、待ってます。
私は生きてる限り楽しみに待ってます。

            <キュアーのアルバム紹介 了>

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