身体の中の鉄板とかボルトとか(その1)
「中に入っている鉄板とかボルトはどうなりますか?」と医師に聞いた。するとこう返ってきた。「取る気はない」と。
それも私の方を見ないで、なんだか部屋の奥の方を見て言っている。
私は予測してなかった返事にしばし考えてしまった。
「取る予定ではないですよ」なら「どうして取る予定はないのですか?」と聞き返せる。
「取れないですよ」なら「どうして取れないのですか?」と聞き返せる。
しかし、「取る気はない」なら、私は取ろうとは思っていない、私はなんだか取る気にはなれない、みたいなことなので、それに対しては「はあ、そうですか」としか言いようがないではないか。
実際、この医師が今は取りたくない気分なのか、少しご機嫌斜めなために取りたくない気分なのか、来週あたりなら取ってもいいかなあって気分になるのか、そんなもんどうでもいいのだ。私の中にもう既に金属的なものが入っているのであるから、私の意向を中心に考えて欲しいのであるが、この医師は「取る気はない」とだけ答えるのであった。
そんなことで引き下がっていてはいけない。これは私の身体の問題なのだと思って、詳しく聞こうとすると、この医師はなんだかイライラしているように見えた。まるでこんなことを、心の中で言っているように見えた。
「なんでアンタはそういう質問を平然とできるんだね!馬鹿じゃないのかね!」
顔や動きからは完全に怒っているように見えた。なので自分にブレーキがかかった。事を荒立ててはいけない。ここはおとなしく従った方がよさそうだと思った。正直怖かった。
だって医師というのは患者のことを考えて手術したり診察したりしてくれているわけだから、状況のわからない素人の私なんかがあまり口出しして、ややこしい感じにしない方がいい。こじらせたりしない方がいい。
なので、かなり引っかかったのであったが、思ったことは声には出さずに、ぐっと飲み込んだ。
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