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舐めてもらっちゃ困ります

私はよく舐められる。
舐められた瞬間に舐められているのが分かれば「舐めんなよコラッ!」とか言い返せるのであるが、舐められている瞬間はだいたい、頑張ってその状況をなんとかしようとしているので、後から落ち着いてみて「あの時私は、舐められていたな」と気が付く。
基本的には人を威圧するつもりはないので、舐められやすい方だと思う。

舐めてくる奴とはお近づきになりたくないので、それ以上親しくなることはない。しかし、そいつが私の親しい人と親しい場合は困る。親しい人と会うのを何度かチャレンジした結果、同時に舐めてくる奴にも会うことになり、私は私の親しい人と会わなくなっていったりする。私にとって舐めてくる人と会うのは、親しい人に会う楽しさを余裕で越えてしまうのである。

私の父親はよく「人に舐めた態度をする人」であった。一度舐めるとそれは撤回されることはなく、いつまで経っても当然のように舐め続ける。
この人の場合の舐める人と舐めない人ってのは、自分がその人を認める人か認めない人かってところに線があるように思った。それと自分がその人を理解できるか理解できないかとか、自分が好ましく思うか好ましく思わないとか。要するに自分の価値観で人を切り捨てているのである。

あと、舐めるってのは「コイツってかんにさわる」「コイツって目障り」ってのもあるだろう。「やることがトロ過ぎて、見てるとイラつくので蹴り飛ばしてやった」みたいなことだろうか。これだって要するに自分の価値観で人を分けているのだろう、いじめる奴っていうのもこういう部分が大きいような気がする。

舐められるとあまりに悔しいので「もしも舐めてた奴が殿様なんかであったならば、お前なんて打首だぞ」とか、「汚い格好しているからって邪険に扱ってた人が立派なお坊さんだったら、一生後悔するぞ」とか言ってみたところで、全然相手にすらされないのである。

私は舐められると少し落ち込む。
自分が情けないとか相手が情けないってことではなく「ああ、私って今だにこんな人と関わらないといけないものを、自分の中に持っているのね」とか「ああ、いつまでこんな人の存在する星(場所ってこと)に、私は居続けているのか」とかの落ち込みである。
だってこの世界は、自分の状態にぴったりなものが自分の周りに集まってきて、自分にぴったりなことが自分に起きる世界なのだと思うのである。だから、もしも私が人をダマそうとする人なら、周りには同じように人をダマす人が集まってきて、しまいには私がダマされるとか、そういう動きをするんだと思う。

しかし、学校のクラスとか職場って場合はかなり困ることになる。
私も結構な年齢になってから夜のスーパーのガードマンしていた時に、これでもかってくらい完全に、私のことだけ舐めきっている若者(十歳以上彼が若かったと思う)がいた。私の言ったことは必ずバカにするように言い返してくるし、こちらが話しても目を見るようなこともない。
あまりにその態度がひどかったので怒ったこともあるが、相手はこちらを見てニヤニヤしていただけだった。そのうち私の姿勢は「失礼な態度の観察」に切り替えた。基本1人で勤務する職場だったのでなんとかなったが、舐めてくる若者は私がその仕事を辞めるまで、ずっと私のことを舐め続けていた。
観察してたら「なんだか私の父親に似ている気がする」とか思った。

私の父親は生涯私のことを舐め続けた。もう私を前にした最初の目つきからして「まだそんな生き方をしてるんか」みたいに、奇妙なものを上から覗き込むようで気持ちが悪かった。
私が何を言ったところで、その舐めた態度は変わらなかったので、晩年の5年ほどは親の家には入らなかったし、父親と顔を合わせることも会話することもなかった。
「オヤノコトヲ、コドモハソンケイシナケレバイケナイ」などと思い込み、頑張ってコミュニケーションを取ろうとしていたが、ニヤニヤしてバカにするように説教しているような父親の姿を見た時にフト「親だからってなんやねん!人として失礼だろ!」と、心底バカらしく思ったのであった。

舐められたら「舐めてもらっちゃあ困るんですけど!」と凄む気もない。二度と舐められないように、いかつい部分(なぜか、昇り龍とか菩薩とか)をファッションに取り入れる気もないし、髪をゴールドに染める気もない。舐めてる奴には「ああ、この人は私にことを舐めているのだな」と私が認識すればいいだけである。
そういう人は「人間舐められたら終いですから」とか「舐めるようなやつには何倍にもして返してやりますから」みたいな修羅な世界に、すみやかに行ってもらえばいい。そこで同じような「舐められたくない」という人と過ごしていただいたらよいかと思う。

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