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ウサギをひいた夜

車の運転は好きだが動物をひくのはイヤだというのは、車を運転するほぼ全ての人がそうであろう。バイクでも転ぶ寸前まで避けたりして、今まで踏んづけることはしなかったし(記憶にないだけかもしれないが)、車では「60キロなら意地でも止まれる」みたいに思い込んで、呑気なタヌキもはねずに生きてきた。
今回完全に「ああ、なんか踏んだ」と思ったというか、タイヤがパンクしたのかと思って車を止めた。時刻は夜の11時くらいで、真っ暗な中街灯の光と車のライトだけを頼りに、私の車だけが単独で走っていた。道は数十メートル下を川が流れていて、その川沿いのクネクネ道路である。

私は「ガンッ!」と大きな石に当たったと思った。石の大きさはレンガの半分くらいの大きさの感覚があったし、タイヤのゴム部分だけでなく「きっと金属の輪っかも曲がっているだろう」と思って、すぐさま車を少し広いところに停めた。それでタイヤを見た。
しかし、タイヤはパンクもしていないし、全く損傷もしていないではないか。となると生き物しかない。
もし生き物であれば、きっとネコとかイタチの大きさであろう。タヌキやイヌまではいかないと推測した。
そこから少しターンして、路上を注意して見ながら戻った。すると車線の真ん中に小さな生き物が横たわっていた。それは耳の長いウサギであった。

見落としたのかもしれないではあるが、おそらく真正面にいたのではないと思う。ひいた感覚は確実に左側だけであって、しかも後ろのタイヤだけな感じがしてた(本人の思い込みもあるかも)。
なので、ちょうど走りすぎる瞬間にピョンと出てきたのかもしれない。でも前も後ろもタイヤ周辺には全く跡がないので、本当にわからない。夜で暗く見えにくいではあるので、そこに居たのに見落としてひいたのかもしれない。

次に「ここにこのまま横たえていると、またひかれるぞ」というのが気になり、なにかダンボール的なものでひかれない場所に移動させたいと思った。と思ったのではあるが、車には今日はなにも積んでいないし、懐中電灯で辺りを探してみたが、使えそうなものがなにもなかった。そうこうしているうちにも車はたまに通るし、今のところ横たわったちょうどウザギは真ん中に位置しているし、ここまで少し直線なので、さらにひかれることはまだないようだ。

やっと見つけたのは手の長さくらいの木の枝だけで、それでなんとか道路脇に移動させれたらと思った。
しかし、横たわったウザギは思ったより重たくて、木の枝をうまいこと下に差し込んでも、簡単には持ち上げることができない。
やっとのこと2本をバランスよく下に差し込んで、やっと十センチほど浮かすことに成功して、逆の車線側の山の斜面側に持っていくことにした。
二、三歩歩き出して「このままいけるか?」と思ったら、なにかがボタッと落ちた。見ると袋的なものやクネクネしているものが目に入り「内臓だ!」とわかった。
ひいた瞬間に破裂したようになって、潰れてはいなくて、薄っすら明かりの下ではなんだか変ではあるが、てかって美しくも見えた。

しかしここで気を抜いて降ろしてはならない。なんとか山の斜面に近づいているのだから。やっと道路の端に辿り着き、下から斜面の上を目掛けてウサギを投げようとしたが、無念にも木の枝がバキッと折れた。折れてウサギの外側は側溝に落ちた。「ああ、もうこれ以上は無理だっ」と思った。側溝の下から上に上げる気力は、もう自分の中にはないと思った。
次に落とした内臓である。
半分折れた木の枝でなんとかひっかけて、また斜面に上げようとしたが、これも側溝に落ちた。申し訳ありませんウサギ。

ヒドい話で、これが人間であれば決して許されないことになるのに、ウサギだからということで「申し訳ないがここまでしかできない」で済ませてしまう。

横たわっていた路上はほとんど跡がないほどで、ボトッと内臓を落としたところも、薄っすらシミがあるくらいで、ほとんど見ても気がつく人はいないのではなかろうか。

それでまた車に乗って家まで帰ってきたのであるが、帰ってきて気がついたのは、「とんでもなく心臓がイタイ」ということであった。針で刺されているような痛みで、ちょうど心臓の上の骨を押さえると激痛が走る。
車に乗ってた時には気がつかなかったから、おそらくウサギをひいてからだと思う。

一瞬で「バン!」と破裂したウサギの無念を、私がもらってしまったような気がした。もちろん気がしただけで何の根拠もない。根拠もないのに確実に痛みはあるのであるから、困ったものである。
もうこの日から3、4日は経つが、今も心臓の上の骨を押さえると激痛である。数日経ったら戻るかと思ってそのまま生活してきたが、少し痛みが弱くなりはしたが、痛いことには変わりがない。

しかしウサギに申し訳ない。このウサギの帰りを待っていた親ウサギが居たりしたのではなかろうか。または、お腹を空かせた子供ウサギたちがいたのではなかろうか。私はそんなウサギたちに対して、これからどう償っていったらよいのであろうか。

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