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『キレイに使っていただき、ありがとうございます。』~気になる敬語#36

今回のお題は我らがのぼる大師から頂戴しました。

最近、親孝行をされ、一層徳を積んだ大師から頂戴したコメント。いつもありがとうございます。
こういうやつですよね。

大師がくださったコメントの意図に合致しているかどうかは分かりませんが、実はこの言葉、私も前から気になっていました。

アメリカ英語の翻訳ではないか

まず、この文章を読んで連想するのが"Thank you for your cooperation."です。表題に挙げたトイレの貼り紙とは異なりますが、日本語で注意事項や禁止事項がアナウンスされた後、英語や中国語でアナウンスが続くことがあります。その英語バージョンの最後に、このフレーズが流れるのをよく聞きます。私は英語に詳しくないので、単なる個人的な印象にすぎませんが、「〇〇ていただき、ありがとうございます。」は、このフレーズを直訳した「ご協力ありがとうございます。」を具体的に、そしてより柔らかく言い換えた(つもりの)ものではないかという気がするのです。
加えて、この見出しをなぜ「アメリカ英語」と限定したかといえば、英語圏なら普通の言い方であるかといえば、そうとも限らないらしいからです。
この辺り、外資系ビジネスウーマンでいらっしゃるサザヱさんにご意見を伺ってみたいところです。ひとまずサザヱさんの記事では"Thank you for your cooperation."は見当たりませんでした。そして、近いフレーズとしてあったのが"Thank you in advance."です。依頼する段階でお礼を伝えるときに使うから
 >"in advance"(「前もって」)という句を付けて使う
わけです。
もう、この記事を読んでいただければ私の言葉は不要だと思うのですが、それではあまりに手抜きなので、サザヱさんの言葉を引用しながら補足していきたいと思います。

サザヱさんの記事を参照してみましょう

サザヱさんは、このフレーズを
 >日本語にはない発想だと思う。
として、
 >強いて言うならば、日本語の「よろしくお願い致します」という表現に近いと思う。
と補足しています。

たしかに、表題のフレーズを書き換えて、以下の貼り紙であれば、不自然さはありませんよね。

きれいにご使用ください。よろしくお願いいたします。

一応、表題のフレーズを並べて書いてみましょう。

キレイに使っていただき、ありがとうございます。

後者がトイレに入ったとたんに目に入ったなら、なんとも押し付けがましい印象になることは間違いありません。


<休憩コーナー>
ミニチュア・クリエーター 工房てるとさんより頂戴したミニチュア花器に、
枯れ葉を2枚挿してみました。
名付けて「光背」です✨
え!?仏がいない? それは心眼でご覧くださいW

プレッシャーを与える

なぜ押し付けがましい印象になるのか、実はその理由もサザヱさんが説明してくれています。

 >こちらが依頼することに対し、相手がそれを行うことに対して感謝の意を表現しているということは、その相手に対し、間接的に、それを必ず行ってくれるものだというこちらの期待が表明されるわけで、それが、相手に対しては、プレッシャーを与えることにもなりかねない

言葉を加える必要のない、完璧な説明です。
「ご使用ください」は命令です。
一方の「使っていただき、ありがとうございます」には命令が含まれていないように見えますが、果たして、そうでしょうか。

このフレーズの使い方

サザヱさんはの使い方も記事に書いていらっしゃいます。

 >① 既に信頼関係が十分構築されている相手に対して、その相手が快くこちらの依頼をやってくれると確信できる場合に、相手がこれから労力を割いてくれることに、素直に、前もって感謝を表したい場合。

 >② 上記①とは逆で、相手に対して多少プレッシャーを与える必要があるときで、相手から失礼だと思われる可能性があることは承知の上で、相手にきちんと依頼を履行してほしいというニュアンスを意図的に含める場合。

問題のフレーズが使われる状況は、たまたまコンビニでトイレを利用しただけの客が目の前の貼り紙を読まざるを得ない状況です。上記①ではありえません。つまり②です。

だからサザヱさんは、
 >自分よりも目上の人や、顧客や取引先など丁寧な対応が求められる人や、初めてやり取りをする人には、使わないようにしている。
のです。

"Thank you for your cooperation."であろうと推測するところの「〇〇ていただきありがとうございます」は、"in advance"と添えるべき状況で使われながらその言葉自体も隠している分だけ、余計にプレッシャー度が高いと言えるでしょう。

このように、言葉だけ見れば丁寧かもしれないけれど、状況に合っていないためにかえって失礼になる言葉をなんというか。
嫌味、もしくは慇懃無礼です。

それでは、また。

不適切な敬語は、文法を知らないで使っていることが原因です。知らなくては、正しい敬語を使いようがありません。そして、誰かに聞こうにも教えてくれる人が周りにいないのが、多くの人が置かれている現状です。
私も周りに聞ける人がいなくて敬語を身につけるのに苦労しました。そこで、こんな記事を書いております。ご自身の敬語が気になる方は、どうぞ参考になさってください。

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『キレイに使っていただき、ありがとうございます。』はナッジなのか >


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国語がすき

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。