「もしよかったら、これもらって来てください」

先週、この台詞について正しく言葉を伝えるためには敬語が足りていないという話をしました。今週はその続きです。

この台詞だけを読んで、どんなシチュエーションを想像するでしょうか。
たぶん、人によって色んな状況が想定できると思いますが、要件は大きく３つあります。

Ⅰ．どこで言われたか～場

家庭の中での台詞なのか、それともおじいちゃんのお葬式の場で言われたのか、初めて入った居酒屋の席上か、それが職場なら勤務時間中なのか昼休み中なのか。

Ⅱ．誰から言われたか～立場

相手は自分よりも目上なのか目下なのか対等なのか、親しい間柄なのかあまり親しくない間柄なのか。

Ⅲ．「これ」とは何か～「恩恵 VS. 不利益」自分が受ける恩恵の大きさ（相手に与える不利益の大きさ）

「恩恵 VS. 不利益」とは、片方が受ける恩恵の大きさと他方が受ける不利益の大きさ。「これ」が自分にとってプラスになる場合、相手にはどれほどマイナスを与えるものなのか。逆の場合や、双方ともに嬉しくはないけれど、会社にとって必要なものという場合もあり得る。

敬語は、この３要件を踏まえて選びます。これを敬度と言います。

敬度

敬度とは、漢字からも分かるように、敬意の度合いという意味です。では、この敬度をどのように決めるかというのが先の３要素であり、「場」と「立場」と「自分が受ける恩恵の大きさ（相手に与える不利益の大きさ）」によって変わります。

敬語は、この敬度を表すためのツールの一つです。敬語をいくら使ったとしても、敬度に合った敬語を選ばないと、失礼です。これは、不足している場合だけでなく、過剰であっても慇懃無礼と言われるように失礼にあたります。

おそらく前回の記事を読んでコメントをくださった方は、③から判断して、この言い方は失礼だと感じたのではないでしょうか。そこで、今回は③にフォーカスして考えたいと思います。

敬度は敬語だけではなく、言い方でも変わります。
特に人を動かす際の敬度を表す言い方を大雑把に示すと、下記の通りです。（右へ行くほど敬度が高い）

言い方の敬度

直接的　＜　肯定的　＜　否定的　＜　曖昧

右へ行くほど敬度が高いのですが、これだと分かりづらいと思うので、例を挙げます。
例えば、あなたは水が欲しいとします。相手は水を持っています。そのときの言い方です。

右へ行くほど断られる前提で話しています。最後は無視されてもよい前提で話しています。つまり、依頼をするときの敬度とは、相手の断りやすさであり、敬意とは単なる気持ちではなく、相手の主体性を尊重する行為です。

今回の事例から、「恩恵VS．不利益」を考える

表題の言葉には、前回も書いた通り最低限の敬語しか使われていません。加えて、敬語以外の言い方も敬度が高いとは言えない言い方でした。

これは、発話者が恩恵を与える側であり、聞き手が恩恵を受ける側であれば、適切だったかもしれません。
しかし実際には、恩恵を受けるのはM子さんでした。自身はイベント会場に足を運ぶこともなく、欲しかったCDを手に入れることができました。
一方で御手洗さんには、何の用もないのに混雑したイベント会場へ出向くという時間と労力の不利益しかありません。

ならば、同じ依頼するにしても、もっと高い敬度の言葉が必要でした。

なんと言えばよかったか

敬語に唯一絶対の正解はありません。なので、あくまで参考程度にご覧ください。

ご足労をおかけするお願いで申し訳ないのですが、もし○○へ行く用事がおありだったら、ついでにこのCDを受け取ってきていただくわけにはいかないでしょうか。

いかがでしょうか。
どうぞ感想をお聞かせください。

それでは、また。

実は敬語とは別に、御手洗さんの記事から触発されたことがあります。
それは、「名古屋駅に行く用事ありますか？」と聞かれた後、御手洗さんは答えることができたのだろうかという点です。もし質問しておきながら御手洗さんの反応を待たずに「これもらって来てください」と言われたとしたら……。
コールセンター時代に、質問しておいて相手の返事を待たずに話を進める人たちがいたなぁと思い出して記事にしました。よろしければご覧ください。