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【メカ】パトレイバー漫画版

新田氏は私より少し年上、というところのようで、私が大学を卒業する頃には連載が終わりましたが、パトレイバーの漫画版は、浪人生の時から大学にかけて一所懸命読んでました。

当時からすれば近未来という設定ではあるものの、実質的には現代の日本を舞台に巨大ロボットが存在する世界を構築した基本設定。
それを、台無しじゃないかっていうギャグものに仕立てたのが押井守総監督の初期ビデオシリーズ……と思わせて5話と6話で、一気に押井ワールドのカッコ良い方向が示されてました。
同時に連鎖されていたのがゆうきまさみ氏の漫画版で、『究極超人あ〜る』で、週刊連載でリアルタイム漫画(つまり、作中の1年間を現実の1年間で語る)をやる真面目さが、別の形で発揮されたのが漫画版『機動警察パトレイバー』でした。

重機を使った犯罪が現実に見られないことから、レイバー犯罪が多発して対抗する警察組織ができるという設定はリアリティがないという新田氏の話ももっとも。
一方で80年代はサイバーパンクの時代でもあり、コンピュータやネットワークが普及すればそれを使った犯罪が増えるだろうという予測がサイバーパンクの世界観の根底にありました。
そこでレイバーというものを「パソコン」と位置付け、OSがあってユーザログインが求められるという描写でリアリティを感じさせていました。
そうなれば「レイバー犯罪」も増えるだろう、というのはそれらしいような気がしました。

しかし、地球温暖化による海水面の上昇に対応するための東京湾開発プロジェクトでレイバーが激増するという背景まで用意しましたが、それは80年代の好景気が続くとの感覚からくるものでした。
パソコンとインターネットで犯罪が増えるという点は誰もが予測した通りでしたが、安上がりなデバイスとインフラが普及したからそうなった面もあって、巨大ロボットを作って大規模工事をしようなんていうコスト高のシステムに投資は行われなかったわけですね。

そんなわけで、バブル経済崩壊がなかったらこういう世界もあったかもしれないという意味では漫画版パトレイバーはかなりしっかりしていて、そこが非常に好きです。
敵のボスである内海は、80年代の「面白ければなんでもいい」という感覚を色濃く反映していて、それだけに「正義の味方」たる主人公側がどことなく時代遅れな存在になっていっているような描かれ方も良いですね。
「ヴィランはイノベイティブで常に先手を打ち、ヒーローは現状維持的で後手にまわる」との話がよく言われますが内海と警察の関係はまさにそれ。

ゆうきまさみ氏の絵柄もものすごく活かされていて、漫画的にシンプルに描かれていますが、我々は現実をこの程度の解像度で見ているのではないか? と思えるようなリアル感があります。
人の顔を見分ける時ってこのぐらいのパターン認識じゃないかなっていう感じ。
大友克洋などアート系の作家だと「現実がこう見えてる人ってスゲエ」というカッコ良さを楽しむのですが、それとの対極でしょうか。

メカとしてはレイバーというシステムについて色々考えられていて、ヘッドギアというグループで構想されたものなので漫画版特有の話ではないのですが、上記の「パソコン」というコンセプトが話を面白くしていますね。
当時から言われていた『鉄人28号』の据え直しとしてのパトレイバーや『AKIRA』という見方がありますが、鉄人のリモコンに相当するものを「OS」っていうことにしたのが良いです。
このコンセプトは2024年時点でも通用しますね。

あとは……

-操縦系はかなりしっかり考えられてた。
-乗り心地の話が何度も出てくるのが、巨大ロボット全般の弱点を突いてて良いです。
-レイバーショウという見本市。
-劇場版が出るまで、レイバーがしっかり動いていたのがビデオ版でもTV版でもなくこの漫画版だった記憶。
-「廃棄物13号」編は、人間が生み出した怪物同士の戦い、という点で結構重要なエピソードですが、そこまで掘り下げられはしなかった感じ。
-イングラムが制式採用された経緯への疑惑が描かれますが、こっちは中途半端に終わってるのが、なんとも言えない現実感があってすごく良いです。

メカについて語ろうと思ったけど漫画版パトレイバーに絞ったらメカではそんなに語ることないなって気づいちゃいました。
でも本当に好きな漫画です。
ものすごく好きな「日本映画」としての劇場版2というのもあるんですが、押井守作品のいびつな魅力とは、やはり対極と言ってよい、漫画版も非常にすぐれた作品だと思います。

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