見出し画像

【映画】哀れなるものたち

こりゃー最高。っていう映画でした。
SFマガジンでも紹介されていて、これもしかしてスチームパンクではと思いましたが、期待以上にスチームパンク。
一見して『フランケンシュタイン』の変奏曲であることが誰にもわかると思いますが、あのSFの原点とされる作品は19世紀、女性作家メアリ・シェリーによるものでした。
『哀れなるものたち』も、同じぐらいの時代の設定で、肉体に電気を流せば生命が得られるとの理屈で、死んだ女性を甦らせます。
その他、医学や科学が発達途上でまだそれほど成熟してはいない時代であることが随所で表現されます。
ヒロインのヴェラを蘇生させるゴッドウィンは、行き過ぎた科学信仰の犠牲者であり継承者でもあるとの設定ものぞかせており、スチームパンクなキャラクターだなと思います。

そして蒸気機関で走っているらしい馬車のようなもの(ギブスン&スターリング『ディファレンス・エンジン』に出てくる「蒸気ガーニー」かな?)、宮崎アニメみたいな都市風景や蒸気船のデザインと、スチームパンクがしっかり映像化されています。
モノクロや、逆にキッチュなカラーなどフィルムの質感を活かした昔っぽい映像も雰囲気があって良かったです。
35mmフィルムで撮影されたようでフィルムルックのHD映像ってわけではないんですねー。
その辺、いまや贅沢という感じもあります。

映像という意味では広角レンズが多用され、ヴェラが世界を知っていく過程を一緒に体験するような撮り方になっているのも良かったです。
赤ん坊のようなヴェラが次第に世界を知り体験していき、それにつれて知性も高まっていく様子は、エマ・ストーンのすごい演技にもよっていますが、映像的にも意識されてるんだろうと思います。

141分の長い作品で、物語の向かう先がわからないので体感的にも短くありません。
『時計じかけのオレンジ』みたいな、主人公の意識も周囲の環境もどんどん変化するめくるめく展開ですが、本作はとりわけ、ヴェラが自分や他人の心身を知り、世界の美しさも残酷さも知る、という、「人生」をなぞるような物語ですから、良い意味で負荷のかかる鑑賞体験ですね。
性的な場面やグロテスクな描写が多いのでR18+となっていますが、物語的にも子供向けではないところです。
一方でパンフの中で清水崇監督が、「R18+はわかるけど若い人にも見せてみたい」というのもわかる話。
バイアスの少ない状態での世界認知って、素晴らしいなっておじさんとしては思ってしまいますが、若い人はどう感じるのか。

なお、広告のトーンではかわいくておしゃれな感じなのに、中身はかなりアレだというのは、それはそれで素晴らしいですね。
かわいくておしゃれな映画を観に来た坊ちゃん嬢ちゃんに、地獄に突き落とされる体験を味わってもらおうという趣向、いいんじゃないでしょうか。
昔だったら「オスカー女優の大胆艶技」とかそういうセンセーショナルな広告が打たれたであろう作品なのに、このマーケティングにはたまらないものがあります。

終わり方は結構複雑でした。
寓話的な印象で、昔だったらハッピーエンドとされたでしょうが、そんな単純な話じゃない。
このあたり、フランケンシュタインテーマらしいところであり、フェミニズムテーマとしても簡単にクリアには締めないぞっていう結末なのかなと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?