今日は2020年9月7日。米大統領選挙の投開票日まであと56日です。バイデン氏の明確な優勢が続いており、トランプ氏はその後を追う格好です。

前回2016年の大統領選挙では、トランプ氏が大方の予想を覆して勝利しました。この要因の一つは、トランプ陣営によるFacebookの活用(意図的な悪用)だったと言われています。

今回の選挙でトランプ陣営が力を入れているのがYouTubeです。活用の仕方は大きく二通り。動画の積極的な投稿と広告欄の活用です。

有力政治サイトPoliticoが6日に公開した記事を参考に、トランプ陣営によるYouTube活用術をまとめます。

①動画の積極的な投稿

2020年8月、トランプ陣営は自身のYouTubeチャンネルに約800本の動画を投稿しました。これは対立するバイデン陣営の約100本に対して明確に多い投稿数です。

トランプ陣営が投稿している動画は、テレビ放映されたトランプ大統領のインタビュー映像やトランプ氏のスピーチ、マクナニー報道官の記者会見（日本でいう官房長官会見のようなもの）など。
また、対立候補のバイデン氏やペロシ下院議長(民主党)の発言を批判的に取り上げた動画も投稿しています。

トランプ陣営のYouTubeチャンネルの特徴は動画の短さにあります。
例えばトランプ氏のスピーチ動画は、フルで掲載するのではなく短く分割して掲載されています。動画１本あたりの長さが15秒から70秒程度になっており、ワントピックごとにアップされていることがわかります。短い動画ではワンセンテンスだけを投稿しているケースもあり、6秒と極端に短い動画すらあります。

こうしたトランプ陣営によるYouTubeの活用について、Politicoの記事は以下の点を指摘しています。

・YouTubeのアルゴリズム上、更新頻度の高いチャンネルがフィードに表示されやすい傾向にある。トランプ陣営の「短いがたくさんの動画をアップする」という手法はアルゴリズムに沿った適切な手法だ。

同じ記事によればトランプ陣営の動画は「過去4ヶ月間で5億900万回見られた」と言います。ただ、各動画の再生回数は4000回〜1万回強などそれほど高いともいえません。

②広告欄の活用

トランプ陣営は8月に開催された民主党大会（つまり相手の大会）の期間中、96時間連続でYouTubeのトップ広告欄に自らの広告を掲載しました。

YouTubeを開いた際、一番上に掲載される広告欄を「マストヘッド」と言います。トランプ陣営が広告を掲載したのはこの「マストヘッド」です。96時間というのは民主党大会が開催された４日間全期間ということでしょう。

世間の話題が民主党大会でいっぱいになる中、トランプ陣営はYouTubeのマストヘッドを使ってトランプ陣営側のメッセージを伝えることに注力したのです。

トランプ陣営の広報担当であるティム・マートー氏は『(YouTubeのマストヘッドは)ウェブ上における最も良い土地』であると評価し、自陣営の「96時間広告」について「政治広告の中で未だかつてなかった事例だ」と自賛しています。

このマストヘッドはトランプ陣営のみが使用しているわけではなく、バイデン陣営や他の政治団体も既に活用しています。その理由は、アメリカにおいて成人の7割以上がYouTubeを見ているというプラットフォーム自体の広告価値の高さ、そしてマストヘッドの特質があるようです。

米Yahoo! financeの記事によれば、マストヘッドの広告はほとんどの人が「スルー」するものの「基盤となる支持層のエンゲージメントを確保できるという意味で重要(ボストン大学のトーベ・ベルコビッツ教授)」だといいます。

まとめ

以上見てきた通り、トランプ陣営は
①YouTubeへの動画の積極的な投稿
②広告欄の活用
を通じてYouTube上でのプレゼンスを高め、YouTubeを形勢逆転への秘策としようとしているようです。

依然としてトランプ大統領はバイデン氏に明確なリードを許しており、YouTubeを活用した選挙戦術が効果をあげるかは不透明です。

また、2020年春先にかけてのトランプ陣営の広報戦略は必ずしも効果的ではなかったのではないかとの声が高まっています。この点については以下の記事をどうぞ。

なお、民主党/バイデン陣営の広報担当者はPoliticoの取材に対し「(自分たちは)YouTubeなど特定のプラットフォームにプロモーションを集中させず、多様な媒体への露出を心がけている」旨の回答をしています。​

個人的な意見ですが、トランプ陣営によるYouTube活用の本質は
・テレビや新聞などの伝統メディアを解さず、有権者に直接「自分たちが発
　信したい」映像情報を届ける手段を確率する
ことにあるのでしょう。その目的自体は一定程度達成しているのかもしれません。