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#1「準備された音」武満徹

木村敏と武満徹の対談を読んだ。

武満がドレミファソラシドを「あらかじめ準備された音」と言うときの

その「準備」という言葉に込められた虚しさ、怒り、葛藤たるや。

(うむ。たしかにそうだ。僕は誰かにこのドレミファソラシドを「準備」しておいてくれなんて言った覚えはないぞ!気付いたら「準備」されていたのだ。)

武満の正直な葛藤が心に沁みる。

正直に言って、僕はどんなにしてでもベートーヴェンのような音楽を一生のうちに一曲でいいから書きたいという強い希望をもってやっているわけです。でも、実際に自分が音楽する時に、ヨーロッパ的な音楽語法だけではどうしても語れない。自分としては極めて分裂した状態にあるわけです。

『木村敏対談集1 臨床哲学対話 いのちの臨床』、青土社、2017年、p.162

音楽に限らず、だれしも自分が生まれるよりも前に作られていた世界に後から参加せざるを得ない。

(5分前行動どころか、大遅刻。かつ自主的な参加ですらない。強いていうなら、バトルロワイアルの殺し合いへ遅れて参加させられた感じだろうか。さらば青春の光のコントにありそうな設定だ。)

なぜか自分より前から存在している音。

ただあったからとも言えるはずなのに、武満はそれを「準備された音」と言う。

この「準備」という語に潜む、深く苦い眼差し。

(「準備」してくれてありがとう。ヨーロッパの人間!)

Triggered and Inspired by
『木村敏対談集1 臨床哲学対話 いのちの臨床』、青土社、2017年。

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