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隠者と飲む酒は?--『山中にて幽人と対酌す』

季節は春爛漫、自然界は自由に輝いているようです。

さて、今日ご紹介する漢詩は、李白の『山中与幽人対酌』です。

「幽人」とは「世を逃れて静かに暮らしている人」のこと。お酒好きで知られる李白の、まさに酒を飲む詩です。

これはもちろん有名な詩なのですが、第一句と第二句の中国語音が何故か耳について離れません。不思議だな? と思いながら、調べてみると・・・

それなりの年代(!?)の方ならご記憶にあるかもしれませんが、実はサントリーローヤルのコマーシャルに使われていました。1988年のCMで、作家の開高健氏が、黄山で酒を酌み交わす…という場面設定でした。気になる方は検索してみてくださいね。

このCMの中で、第一句と第二句が中国語で発音されていたため、頭の中でリフレインしていたのでしょうね。謎が解けて(!?)スッキリしました。

山中与幽人対酌  Shānzhōng yǔ yōurén duìzhuó      

     李白     Lǐ Bái

両人対酌山花開   Liǎng rén duìzhuó shān huā kāi

一杯一杯復一杯    Yìbēi yìbēi fù yìbēi

我酔欲眠卿且去    Wǒ zuì yù mián qīng qiě qù

明朝有意抱琴来    Míngzhāo  yǒuyì bào qín lái

【書き下し文】

   山中にて幽人と対酌す    

両人対酌して 山花開く

一杯 一杯 復(ま)た一杯

我酔うて眠らんと欲す  卿(きみ)且(しばら)く去れ

明朝 意有らば 琴を抱いて来たれ

【桂花私訳】

  山深く世捨て人と酒を酌み交わす

二人して差し向かいの酒 山は花盛り

一杯 一杯 さぁもう一杯どうだ?

わしは酔っ払って眠たくなったんだが、お前さん、ちょっと帰ってくれないか

朝になって 気が向けば 琴を抱えてまた来ておくれ

【詩の形式】 七言絶句   押韻は開・杯・来

作者:李白(701~762)20代半ばで故郷の蜀を離れ、結婚して、安陸(湖北省)に定住した後も、李白は各地に足を伸ばしている。この詩は、隠者や道士たちと交流した30歳前後に作られたようである。(②)

ところで、第一句「山花」は何の花なのでしょうか?

『漢詩を読む 李白一〇〇選』には「つつじ」か「こぶし」か「桐の花」かと紹介されていますが、開花の時期や色もそれぞれ異なるようですね。

白いこぶしの花、色とりどりのつつじ、薄紫の桐の花・・・皆さんはどの花だと思われますか?

第三句「我酔欲眠卿且去」は、田園詩人として名高い、陶淵明(365~427)のエピソード(『宋書』陶淵明伝)を踏まえているとのこと。「眠くなったから帰ってくれ」と言い放つ(!?)その自由な在り方が羨ましいですね。

人里離れた山の中で、酔い潰れるまで酒を酌み交わす・・・おおらかな気持ちになれる詩です。

【参考書籍】

①『漢詩一日一首(春)』一海知義著  平凡社ライブラリー

②『漢詩を読む 李白一〇〇選』石川忠久著 NHKライブラリー

③『新国語総合ガイド(四訂版)』 井筒雅風・樺島忠夫・中西進共著                  京都書房            

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