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身は滅ぶのかしらどうかしら

あんた、よう聞きなぁよ。
旅芸人にはぁ、ぜったいについていったりしちゃぁいかんのよ。
身を滅ぼすんだからね。

菜っ葉を採りながら、ようやく幼稚園になじんだわたしに、
なぜ祖母はそんなことを言ったのか……。

ただその時の祖母のこわい顔と、返事もできずにじっと立っていた
小さかった自分をとてもおぼえています。

還暦も前になって、旅芸人の一座が好きになりました。

人と人とのつながりの中で芸が受け継がれていく、そのところに惹かれました。
舞台と客席がとても近くて、役者さんと客が一緒に笑ったり、
しんと静まった緊張や悲しみを一緒に感じられるところに惹かれました。

お芝居も踊りも終わったあとに、役者さん方々が客をお見送りしてくださる「おくりだし」たるものにも惹かれました。

「おくりだし」では役者さんと一緒に写真なども撮ってもらえます。

あるとき。

一人の役者さんと友だち3人、並んで写真を撮ってもらいました。
役者さんは友だちの肩など抱いて、みんなで和やか。
わたしは端っこで緊張しつつ笑っていたのが、背中かすかに何かがあたる。気づくとそれは、一生懸命のばした役者さんの指でした。


律儀だなぁ。

そのかすかな指の先に、人のやさしさや情のようなものを感じました。

ありがたくてうまく言葉にできなくて、このことは友だちにも話せずにいます。

おばあちゃん……。
わたしついていってもかまわんかしら?
いやもうついて行ってるのだけれど。

55年も前から言って聞かされたのに言うこと聞かずにごめんなさい。

身は滅ぶのかしらどうかしら。
いやもう滅びかかっているのかしら。

いつかわたしが其方へ行くときはどんななりになっているのか。
どうか…楽しみにしていてください。












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