インドの風景

目を瞑るとそこはインドだった。

保育園に上の子を送った後、立ち寄ったドトールで新発売のチャイを頼んだ。

何年ぶりかに飲むチャイ。日本のチャイは、インドのそれとはやっぱり違うような気がして、頼むことがなかった。しかし、ドトールのチャイは一口飲んであの時の懐かしいインドに連れて行ってくれた。

もう14年くらい前になるだろうか。教師になって2年目の私は、それはもう結構荒れていた学校だったので、大学から比べると8キロ近く痩せ、心も身体も疲弊していた。
同じ教師をしていた大学からの友人は、天真爛漫で破天荒で、そんな友人と夏休みを使って海外へ旅をしようということになった。行き先はインド。当時の私にはピッタリの場所だった。現実逃避はしたかったけれど、混沌とした児童の家庭環境を目の当たりにして、ハワイなんかでバカンスしたいなんて気分にはなれなかった。友人は違う学校で元気にやっていたのだが、こんなアウトローな国に快くのってくれた。さすが、私の友人だなと思った。

航空券を自分達で手配し、現地のイントレピッドのツアーに申し込んだ。ボリウッド俳優のようなDJのようなカッコいいインド人リーダーが、インドの秘境に連れて行ってくれる。インド自体が秘境のようなものなのだが、自分達では絶対に出くわさないような村や体験をさせてくれるのだ。10人ちょとで、世界中から集まった人種の違う人達と旅をした。平面な私と友人の顔が、アニメみたいだとケラケラ笑う彫りの深いスペイン人キャリアウーマン。なぜインドを選んだのか、見るとやたらに手を消毒していた用心深い南アフリカの青年。オーストラリアの大地のような懐の深い老夫婦。あの人達は、今何をしているのだろうか。
いつか息子達を連れて、またイントレピッドで世界を旅をしてみたいと思う。
あの時の素焼きのコップに膜のはった熱々のチャイ。飲み終えると、地面に叩きつけて、壊してしまう。それが、インド流。

インドの女性が、必死に子どもを守る姿を、あの懐かしい味と共に、5ヶ月の我が子を胸に抱きながら、いまに繋がっていることを懐かしく思う。