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日経記事解説: 保険ブローカー活用の時 カルテル疑惑再発防止の切り札

本日掲載された以下の記事は立場を問わず企業保険関連業務従事者には重要ですので、記録も兼ねて僭越ながら記事解説を書かせていただきます。

保険ブローカー活用の時 カルテル疑惑再発防止の切り札:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB05DQ50V01C23A0000000/

まず、大手企業の損保契約におけるカルテル疑惑問題に対するキープレイヤーとして、保険ブローカー(保険仲立人、以下ブローカー)が挙げられていますが、プロの仲立人を活用するためには、そのノウハウを最大限引き出すためのリスクマネージャーも必要になります。ブローカーは保険リスクマネジメントのアウトソース先ではなく、グローバルに展開する企業の複雑かつ広範なリスクヘッジの支援を行う組織です。

グループ内保険代理店「機関代理店」は日本独自の保険販売システムであるとともに、企業グループにおける保険リスクマネージャー的な役割も担ってきた歴史にあります。しかし、複数保険会社の乗合代理店だとしても法的立場は保険会社の代理人であり、その収入は領収する保険料の一部をプロラタで手数料として受領する、記事の指摘にあるような利益相反が生じ得ることは否定できません。

記事のもう一つ重要な指摘ポイントは96年の業法改正において

大手損保の元幹部は「ブローカー制度を学者のおもちゃにすることで、骨抜きを図った」

上記記事より抜粋

という点です。手数料の開示やベストアドバイス義務は勿論のこと、恐らく最も制度設計と実務がかけ離れているのは、顧客代理人たるブローカーの手数料を顧客からではなく、保険会社から受領することが、法令ではなく、保険会社向けの総合監督指針に規定されていることです(V-4-4 保険仲立人関係 顧客との関係)。

欧米のブローカー制度は、当然ながらその報酬は顧客がブローカーへ直接支払います。契約規模の大きな大企業では、保険料規模とは無関係で働き具合に見合う固定額(フィー方式)とするところが多く、ブローカーは保険会社に対して仲介者手数料を含まないネット保険料での見積もり依頼を行います。つまり、顧客は保険料と手数料は別々に領収します。

一方で日本では代理店でもブローカーでも、その手数料は保険料の一部として顧客が全体を一括で支払うグロス保険料方式が採用されています。実務上はブローカーと保険会社が手数料支払契約という代理店手数料規定類似の規定を締結し、どちらを選んでも顧客の支払う総額は同じ、ネット保険料は顧客に見せない、とした点が大きく異なります。

(ポジショントークになってしまいますが)記事は保険ブローカー活用、とありますが、同時に保険マーケットやプラクティスを理解して、ブローカーを使いこなして企業の保有と移転を最適化、意思決定とリスクマネジメントの取り組みを推進するリスクマネージャーもセットで必要だと思います。ブローカーにせよ、代理店にせよ、あくまで仲介者であり、リスクマネジメントの主体は言うまでもなく当該企業自身です。

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