Kei Masuyama 増山 啓

現メーカー勤務 保険リスクマネージャー グローバルプログラム担当 元日系及び外資損保に…

Kei Masuyama 増山 啓

現メーカー勤務 保険リスクマネージャー グローバルプログラム担当 元日系及び外資損保にてアンダーライティング、企業保険業務に従事 CPCU https://www.linkedin.com/in/kei-masuyama-4933b776/

最近の記事

保険引受審査: アンダーライティングとは

本日の日経新聞に「三井住友海上、政策株1.7兆円を2年で解消」との記事があり、これまで企業保険分野において重要な役割を担ってきた政策株の解消前倒しする事が報じられています。この中で、アンダーライティングの強化について以下の通り触れられています。 アンダーライティングとは一般に日本語では保険引受審査などと呼ばれ、保険会社がリスクの審査を行うようなニュアンスに聞こえると思いますが、その目的は「リスクアペタイトに基づく引受ポートフォリオの健全性確保、加入者間の公平性担保を通じた保

    • 企業保険の競争入札プロセス

      企業が契約する損害保険契約についてカルテル行為についての報道、行政処分が出ています。企業保険契約者として、競争入札を行う際には単に仲介者に丸投げするのではなく、自ら主体的に全体をコントロールしていく必要があります。 ステップ1: マーケット情報を集める どのような保険条件でキャパシティをどのくらい確保するのか、スペックを決定するにあたって、最新のマーケット情報を得る必要があります。仲介者ともよく打ち合わせ、マーケット水準についても知っておくことが大切です。また入札を行う意向

      • 請負契約と賠償責任

        先月の話になりますが、2017年に埼玉県三芳町のアスクル倉庫で発生した火災事故に関して、原因となった古紙回収業者に対して94億円の賠償を命ずる判決が出されました。 発生事象は上記のとおりですが、巨大な倉庫はネット通販の浸透によりどんどん増えており、本邦建築着工統計でも2000年代後半から倉庫の平均床面積は右肩上がりに伸びています。 当該倉庫は鎮火までに12日を要しており、保管貨物も全損、大きな損害となりましたが、産総研のレポートにもある通り、大型倉庫はその構造や保管貨物の

        • 「急速な保険マーケットの変化とその対応」セミナー開催

          先週木曜日にPARIMA Japanセミナー「急速な保険マーケットの変化とその対応」を開催しました。実に2019年1月以来のフル対面イベントで、参加者、スポンサー様、メディア合わせて約100名の皆さんにご参加いただきました。会場後方には立ち見の方もいらっしゃり、テーマについての関心の高さが伺えました。セミナーでは主に、企業保険マーケットの現状について、自家保有を進める為のステップ、各企業における実務実態についてパネルディスカッションを実施しました。 企業保険マーケットは被保

        保険引受審査: アンダーライティングとは

          複数の保険会社による企業保険契約

          昨年より多くの報道の出ている企業保険カルテル問題ですが、大きなキャパシティを必要とする大規模契約者は複数の元受保険会社あるいは再保険会社を起用してプログラム組成をしなければならず、契約者はその起用方法やメリデメを承知しておかねばなりません。 まず本邦で最もポピュラーな引受方式が昨年よりニュースの出ている共同保険方式です。各保険会社の引受責任は独立ですが、日本独特のシステムにより幹事保険会社が証券発行から損害査定まで全て実施します。保険料収受、保険金支払いも幹事社が100%行

          複数の保険会社による企業保険契約

          経営者の意思決定に資するリスクマネージャーの役割

          他業界からの転職や内部異動で新たに事業会社の保険リスクマネージャーとなる方がさらに増えてきています。昨年の企業保険カルテル問題を受けて、契約者である企業側も自身の保険リスクマネジメント体制を見直そうという動きが加速しているように思います。 転職であれ、内部異動であれ、初めての役割、役職のオンボーディングは戸惑う方も多いと思います。筆者も当社創業以来初の保険リスクマネージャーでしたので、社内での認知と事業に関する知識、歴史と文化、人脈、そして何より意思決定者からの信頼の獲得に

          経営者の意思決定に資するリスクマネージャーの役割

          航空保険事故と海外直接付保について

          1月2日に羽田空港にて日航機と海保機の衝突事故が発生しました。改めて痛ましい事故であり、犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたします。本事故に関してロイターの報道では日航機の航空保険の幹事会社がAIG、ブローカーはウィリスタワーズワトソン、付保額は$130Mであることが報じられました。 事故直後にも関わらず、このような詳細情報が報じられることも驚きでしたが、多くの読者が日本航空の航空保険の元受保険会社が外資で日本でも営業免許を持つAIG損害保険と誤解されたのではないかと思い

          航空保険事故と海外直接付保について

          保険調達の難しさが再認識される時代

          本日も日経新聞に企業保険のカルテル問題に関する記事が掲載されました。国内大手損保に公正取引委員会の立ち入り検査があったとの事でした。いくつもの事例の報告があった背景として、損保の寡占化、企業保険収支悪化、過剰な営業協力、トップライン思考などの指摘があります。 本来は保険付保の意思決定は、①リスクを把握して分析する、②企業の戦略と保険マーケットのアペタイトを考慮してストラクチャーを決める、③マーケティングを行って市場から最適な保険を調達する、という大まかな流れで進められる事に

          保険調達の難しさが再認識される時代

          リスクマネジャーの時代

          昨日日経のオンラインメディア日経フィナンシャルにリスクマネジャーの時代と題したインタビュー記事が掲載されました。 記事は有料会員向けですが、リレー記事となっており日本企業にとっては比較的新しいリスクマネジャーという職種にスポットを当てて、各社がどのような取り組みをしているかを紹介しているものです。 こちらの記事はnoteに書き溜めたものをまとめて頂いたような形ですが、やはり「保険料コスト削減」が表題となるのだな、というところですが、それは技術論で本質論ではなく、保険リスク

          リスクマネジャーの時代

          国内契約者の海外源泉契約とリスクマネージャーの役割について

          先週国内大手損保の第二四半期決算が発表されました。一言で言えば諸問題はあったものの、総じて良好な決算、特に買収して傘下に収めた海外保険事業が利益を牽引しているが、旧来の国内保険事業は苦戦といった内容に見えます。 こちらは東京海上の国内損保事業ですが、本業の保険引受では赤字、資産運用で大きく黒字で経常利益を確保しています。赤字の要因として発生保険金の増加、特にハワイ山火事など「海外源泉」の悪化をトップに持ってきています。 次に国内損保事業の種目別発生保険金を見てみます。国内

          国内契約者の海外源泉契約とリスクマネージャーの役割について

          保険事故データのにおけるプロセス可視化の重要性

          グローバル保険プログラム導入の目的はリスクマネジメントの高度化、トータルコストオブリスクの最小化になりますが、副次的な効果として事故データの一括管理収集が可能となり、特に日本的な低免責あるいはゼロ免責プログラムストラクチャーにおいては、これがガバナンス強化の観点で大きな力を発揮します。 保険事故データいわゆるロスランデータの活用、特にロスプリベンションに活かすことは古くから行われてきましたが、事故原因、発生場所、損害額などの保険事故情報サマリーであるロスランデータよりも、個

          保険事故データのにおけるプロセス可視化の重要性

          PARIMA Tokyo Conference 開催

          去る10/19(木)に赤坂インターシティカンファレンスにて、2018年以来のPARIMA Tokyo Conferenceが開催されました! PARIMAについてはこれまでもnoteを書いていますが、シンガポール発のアジアパシフィックエリアの被保険者団体であり、保険会社やブローカー、鑑定会社やアシスタンス会社など、保険関連業界のみなさまのスポンサーにより成り立つ組織です。 毎年アジア各地でカンファレンスが行われますが、前回はコロナ前の2018年に開催して以来の東京開催とな

          PARIMA Tokyo Conference 開催

          日経記事解説: 保険ブローカー活用の時 カルテル疑惑再発防止の切り札

          本日掲載された以下の記事は立場を問わず企業保険関連業務従事者には重要ですので、記録も兼ねて僭越ながら記事解説を書かせていただきます。 まず、大手企業の損保契約におけるカルテル疑惑問題に対するキープレイヤーとして、保険ブローカー(保険仲立人、以下ブローカー)が挙げられていますが、プロの仲立人を活用するためには、そのノウハウを最大限引き出すためのリスクマネージャーも必要になります。ブローカーは保険リスクマネジメントのアウトソース先ではなく、グローバルに展開する企業の複雑かつ広範

          日経記事解説: 保険ブローカー活用の時 カルテル疑惑再発防止の切り札

          日系損保と海外損保のアンダーライティングの違い

          一部日系大企業や官公庁にて、損保のカルテル問題が報じられており、監督官庁から各社に報告徴求命令が出されその報告から、100社以上の不適切事案が確認、契約者が「不当に高い保険料」を負担しているとの報道が出されています。勿論、法に触れる行為は許されませんが、各種報道では日系損保と海外損保の引受方針の違いなど、これまで日本の契約者が受けてきた恩恵について触れられていません。 大企業の契約は巨額なキャパシティを求められる事があるため、複数社が共同でキャパシティを拠出する、あるいは再

          日系損保と海外損保のアンダーライティングの違い

          賠償責任保険と付保証明について

          昨日少しツイートしましたが、大事な事なのでnoteに纏めておこうと思います。企業にとって最後の砦である賠償責任保険の重要性はこれまでにも書いてきました。ここでは、賠償責任保険にまつわる海外の実務とリスクマネジメントの進展について書きます。 言うまでもなく、賠償環境が世界一厳しいのは北米です。過去には賠償責任保険危機と呼ばれる保険会社が引受が出来ず、マーケットから保険調達が出来なくなり、企業の自家保有、キャプティブ設立を後押しした事もありました。現在も北米ではインフレ等を背景

          賠償責任保険と付保証明について

          Product Itself免責について

          企業損保を取り扱われる方以外にはマニアックなトピックですが、企業賠責の世界では極めて重要な概念であり、実務においてもしばしば議論の起きるポイントでもあります。 そもそもProduct Itself(あるいは完成作業危険であればYour Work)免責とは、製品あるいはサービスを顧客に引き渡した後に、製品あるいはサービスの欠陥を原因として生ずる第三者事故に伴う法律上の賠償責任、いわゆる製造物責任(Product Liability)をカバーする賠責に含まれる免責条項で、被保険

          Product Itself免責について