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複数の保険会社による企業保険契約

昨年より多くの報道の出ている企業保険カルテル問題ですが、大きなキャパシティを必要とする大規模契約者は複数の元受保険会社あるいは再保険会社を起用してプログラム組成をしなければならず、契約者はその起用方法やメリデメを承知しておかねばなりません。

まず本邦で最もポピュラーな引受方式が昨年よりニュースの出ている共同保険方式です。各保険会社の引受責任は独立ですが、日本独特のシステムにより幹事保険会社が証券発行から損害査定まで全て実施します。保険料収受、保険金支払いも幹事社が100%行い、引受非幹事社との決済も幹事社が全て行います。

幹事、非幹事で引受条件も同じ、損害査定、保険金支払いも一本化されているので、ユーザーたる被保険者は複数社による保険引受である事を意識することすらないかもしれません。各社独立責任でありながら、幹事社が100%代行してくれるという点では契約者にとってもメリットがあります。

通常共同保険契約に関する入札を実施する場合は、予め入札条件を定めた上で各社のNet&Treatyと呼ばれる自社の保有+特約再保険の範囲内でのキャパシティでのシェア、保険料を回答してもらいます。任意再保険はあくまで元受保険会社の契約行為ですが、再保険会社も数が限られるため、入札時に各社がバラバラに再保険キャパシティを確保しにいくと再保険マーケットが混乱するため、任意再保険無しベース、つまりNet&Treatyでの回答を求めることが通常です。

入札結果により、まず幹事社を選定し、幹事社の引受条件、保険料水準にフォローできるか非幹事会社に確認していきます。もし交渉しても条件、保険料水準に合意出来ない非幹事会社がいる場合は、他の元受保険会社(あるいは再保険)でキャパシティを確保するか、条件、保険料水準を緩和して当該社を起用するか、または自家保有とするかを判断しながら、プログラムを組成していきます。

再保険会社は国内にも存在しますが、メインのマーケットはロンドン、ニューヨーク(バミューダ)、シンガポールと海外社がメインとなります。本邦で営業免許を持たない再保険会社を起用する場合には、通常国内の元受会社、フロンティング会社が必要となり、フロンティング会社に対する手数料、再保険ブローカー手数料が上乗せされますので、通常は元受と比べるとコスト高になります。

なお、海外保険会社との直接契約とすればこれらのコストを削減できますが、海外直接付保となるため、保険業法に基づく申請が必要となるとともに、保険申し込みや保険料支払い、さらには事故の際の保険求償は国内共同保険とは別々に行う必要があり、被保険者としては著しく使い勝手が悪くなるため通常は行われていません。

このように国内共同保険は契約者から見ると、コスト面、実務面双方からメリットのある方式であり、国内元受社の共同保険で必要なキャパシティを確保できる事が望ましいですが、昨今企業リスクに対しては国内キャパシティが減少傾向にあり、コスト高となっても任意再保険を使うか、自家保有するかの決断を迫られる企業が増えてきているように思います。

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