見出し画像

SF短編小説「オール・マイティなカード所有者」3️⃣

3 宇宙の中のちっぽけな人類


 どうして地球に住む人間というか、人類は進歩というものがないのだろう。地球を平気で汚すし、限界のある物を使い尽くすし、直ぐに戦争を始めるし。およそ高貴な生き方なぞ出来ないのではないか。それは自分の命が限られているからか。だから命のあるうちに夢を実現してしまおうと無理にでも現状を変更しようとしたり、自暴自棄に陥って破滅的なことをしてしまうのだろうか。僕はそう思いたくない。思いたくないけど、時々絶望的になって考えてしまう。でも結局は真剣に考えても阿呆らしくなってしまうのだけれど。そんな時には僕は夜空の星を眺めることにしている。そうすると気持ちが落ち着いてくるから不思議だ。どこかの気狂いのような大統領とか、鉄面皮のような国家主席、ロケットばかり飛ばしたがる総書記とか、そんなボスがいる国に生まれでもしたら最後自分というものを諦めなければならなくなるだろう。夢を描くなんて出来ない相談だ。僕はとにかく日本で生まれて良かったと思っている。それは可愛い彼女のせいだけではない。好きな事が自由にできるし、ハロウィーンの夜に間違って拳銃で射殺されることもないだろうから。この国は銃規制がしっかりなされている。僕はもしも自分が撃たれたとしても、宇沙子だけはしっかりと守ってやりたいと思っている。世の中にはきっと女の子をほっといて逃げ出してしまう男もいるに違いない。そんな奴は口だけはいつも上手くて自分は地上で一番賢くて勇敢な男だと吹聴しているだろう。

 例えば動物を野生に返した方がいいという議論があったとする。子供と一緒に動物を見に行くことが癒しだと思う人もいれば、それは動物にとって苦痛であるし、人間が勝手に儲けるために虐待しているという人もいるだろう。何が正解かは、それぞれの立場によって異なる。鯨を保護する人もいれば、食用にして共存を訴える人もいる。温暖化が環境破壊だからと声高に叫ぶ外国の女子高生がいたけど、一面の取り上げ方では何が真実かを見極めることが難しいだろう。

 ある朝ネット・ニュースを見ていたら、信じられないことが報じられていた。確かに現代は、たとえどんなことが起こってもおかしくはない。

 その一つが、「先ほど北朝鮮のロケットと思われる飛翔体が、日本海を超えて青森沖に落ちたということです。」それは大変だ。それなら別のニュースでもやってるはずだと、変えてみる。すると、「西シベリアのアムールトラを日本の首相に贈るからと捕獲を命じられたロシア人がトラに噛まれて死んだということです。」と全く種類の違うニュースを報じている。そして解説として、中国のパンダのように返す必要がないようです、ともっともらしく付け加えていた。溜め息を吐きながら仕方なく、別のニュースを見ると、それらの二つのニュースに加えて、「中国の武漢では、今季鳥インフルエンザと豚ウイルスが猛威をふるっており、当局も街を封鎖しています。」と報じていたが、最後まで読んでいたら、それら三つのニュースが動画で紹介され、これはもう明らかにフェイクだと信じられる類の「出来すぎた」内容だと思い始め笑ってしまった。それにしても、よく出来ていると感心して宇沙子に「一度見て」とメールしたら、フェイクだから見ないよとそっけないメールが返ってきた。

 ネット・ニュースの続きは、盛りだくさんで、「中国の宇宙への進出と月での基地建設」その下には「イスラエルのロケットが月着陸に失敗したが、その時のクマムシが大量に生息している。」その下には、UFOの動画と、「琉球大学の女性の教授が未確認飛行物体であると根拠を挙げて説明している」もの。これはフェイクではなく、確かに僕たちのこれまでの想像を超えるものなのかも知れないと思ってしまう。地球上で飛ぶ飛行機や飛翔体では説明が付かないし、ドローンとも違う。だとすれば何か?UFOとこれまで目撃されたものは、地球上の物理法則を無視したもので、地球外生命体ではないかとの推測がなされてきた。そんな面白そうなニュースを見ている僕の頭の片隅に浮かんできたのは、僕が日本で仕事をすれば何が出来るんだろう、いや日本ではないのか、だとしたらどこの国へいくのがいいんだろう。その時宇沙子の存在が思い浮かび、彼女が僕の身体にいつまでもくっついて離れないでいる姿を想像した。

 以前イギリスのブレグジットが問題になった時に、イギリスがEUから離れたら関税が新たにかけられてしまうとの懸念から日本企業のホンダとかの大企業がオランダに去っていった。 

 デモ隊は叫んでいた。「どうかイギリスから出て行かないで」と。それらの企業は大量の雇用を生んでいたから、実際に出て行って欲しくなかったのだ。でも後で反対しておけば良かったと言っても後の祭りで、ブレグジットは成功し、イギリスはヨーロッパのかつての伝統や誇りや威厳というものを回復させ、国民の大半は面子を取り戻して喜んだのだった。経済の低迷という犠牲を引き換えにして。もう今では毎日のようにデモが起きている。ひょっとして香港を助けなかった罰が当たったのかも知れない。遠すぎてピンとこなかったのかブレグジットを叫んでいる間に歴史はどんどん過ぎて行ったのか。まあその後香港人には特別ビザを出してある程度助けてはいるんだけれど。

 最近思うことは、世の中の大半の人は「自分ファースト」になってしまっているということなんだ。車を運転しているとどうしてもそう思ってしまう。自分の都合や自分しか見えないんじゃないか。だから逆に煽られたりするんだろうと思ってしまう。自分が原因作っておきながら、煽られたと声高に叫んでいる人がいる。もちろんみんなではない。宇沙子はそういった人種の人たちとの交際をいちばん望んでいないということは解る。 

 だって仮に彼女が大人になって子供が出来て、保育所に子供を預けたりすると、繋がりが出来るから自分とはどうしても異質な人たちと会話することになる。人いちばんオシャレでよく喋る女性は、子供も同じタイプだから始末におけないと分かってしまう。そのような人とは上手く合わすことは下手だと気にしていたから、そんなに気にする必要なんかないよと言っておいた。

 宇沙子のことで知らないことの方がいっぱいあると思う。知っているのは僅かで、知ってることと言えば、例えば幼少期に姉とのことである種の疎外感が生まれたこと(おそらくそれで自分だけ構って欲しいというような我が儘なこだわり感が生まれたのじゃないかな)。今に至るまでお母さんの言うことが絶対的な権威であると信じていて、自分の意見を自信を持って言えないところがあった。そしてある時自分がいちばんしたい夢があるということを親しい友達に話したら「そんなこと出来る分けないじゃない」と否定されて、とても悲しく悔しい思いをしたことがあったらしい。その時は友達と一緒になって笑ってはみたけど、その友達とはそれから次第に疎遠になってしまったという。

 あ、そうだそんなことを言いたかったのじゃなかったんだ本当は。あのカードは持っているだけで何だか使わなくても満足していたし、宇沙子がいるからかも知れないけど、僕は宇沙子の魔法にかかっている間は安心でいられるような気がしていた。

 宇沙子は大国の裸の王様のような人たちとは違って、自分がどんな所にいて、何が大事なことなのかをちゃんと見極めることが出来る人だと思う。それが一番大事なのだ。みんなからチヤホヤされて自分が何なのか分からなくても、桜の木の下で持ち上げられたりするだけで喜んでいる人とは違う。世の中はそんな人たちは大抵政治家になっていたり、或はにわか社長になって自分が認められたと思い込んでしまうんだ。でも政治家だと票が足りないといけないから、何がなんでも恥ずかしいなんて言ってられなくてどんな事でもしてしまうんだろう。

  僕は今宇沙子に内緒にしていることが一つある。それは宇沙子が知らない間に、一人で天王寺の「and」という所(ロフトがある)に行った時に買ったスウェーデン製のグレイのリュックのことだ。

 表側には青いミッフィーといううさぎのキャラクターをぶら下げているし、もう一匹は首に青いマフラーを巻いた白い犬のぬいぐるみをぶら下げてある。そのぬいぐるみは以前宇沙子が好んで自分の白い布製の手提げバッグにくっ付けていたNICIの物と同じもので、リュックの中身は買ってから一つずつ増えている。それはJRの鉄道開業150周年の記念切符だったり、離婚した元アイドルの女性歌手が選んだシュシュだったり、セカンドストリートで手に入れた、小銭入れにでもなる緑色の割と小さめのキーケースだったり、小さなサイズのスタバのカードだったりする。本人が喜ぶかどうか知れない。彼女が今まで一番お気に入りの物は、付き合う前から身に付けていたネックレスということは知っているけど、そういうものは本人が合わせてから買わなくちゃいけないからまだ買ってやっていない。でもそれらを詰めたリュックを渡した時にどんな反応を示すか知りたいから、誕生日まで自宅で保管してあるし、見られたら困るからこれも秘密の場所に隠してあるのだ。きっと内容物はこれからも増えつつあるから、手渡しの時にはそのスウェーデン製のリュックはパンパンになっているはずだ。

 宇沙子の特技を話したことがあるけど、彼女は今いる園芸関係の会社の海外事業部というところで働いているのだけれど、それは彼女が中国語を話せるという別の特技を持っているためだ。一度上海に留学経験がある。僕も英語を学んだことがあるけどそう上手く話せないでいる。そういう特技を彼女はいとも簡単に習得してしまうんだから頭が上がらない、今でも。その事業部で鉱石を扱う商社の話を聞かせてもらい興味を持ったことがある。

 興味があるのは、古銭。清の時代の貨幣とかヨーロッパの古い硬貨だとか。ローマ時代のものもあったりする。それらは時代で値打ちが異なるし、残存数にも依っても異なる。 貨幣っていうとどうしても手に取って重さとか手触りとか見てみたくなるものだ。ただ国際的にマニアの中で値打ちがあるとされるのは、二つの信用ある機関が「封印」したマニア・コインだ。僕はでもそういう物には異論を唱えたくなる。もうそうなると貨幣じゃなくなるからだ。それは、もう貨幣ではなくて、マニアのための売り買いの対象でしかないからだ。そんな貨幣に興味はない。それをまことしやかに売買しているコイン商を僕はいくつか知っている。そういうコインを保有していたって何になるんだろう。もうお分かりだと思うけど、僕はそういうコインではなく手触りとか確かめられるコインが欲しいのだ。

 以前から鉱石というか原石にも興味があって、出来れば世界中の原石を集めてみたいと思っている。いくつかは僕も持っているけど、そのいくつかはメキシコ産であったり、カリフォルニア辺りだったり。アフリカで採れたダイヤモンドも現代では少なくなり、大手企業はオーストラリアに採掘場所を求めるようにもなった。だけど加工したものには僕は興味がない。僕は原石を入手するために、あの鉱山資源の孫と思われる人にアポを取った。きっと僕と彼は共通したものがあるに違いないと踏んだから、ひょっとして上手くいけば話はとんとん拍子で運んで行くことだろう。僕は期待感でいっぱいになっていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?