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人生には「深める時期」と「広げる時期」があっていい

人生のテーマが決まらない、という悩み

私は2018年に、副業・兼業に関する情報提供を行うパラレルキャリア研究所を立ち上げました。複数の軸足を持ち自由に&自律的に働く方法についてのセミナーなどを80回ほど開催してきました。

私自身が「パラレルキャリア」を開始したのは、2013年です。新卒で出版社に就職したものの、配属されたのは希望した編集部ではない庶務の部署。

「社外で、自力で文筆業のキャリアを切り拓こう」と思い、知り合いのNPO法人代表を著者に立てて、プロボノとして編集しはじめました。

消えゆく騎馬民族(遊牧民)を旅行を通じて支援するNPOで、代表が騎馬民族とキャラバンを組んで旅した記録をまとめた旅行記でした。

1年かけて編集して「馬上の旅人 モンゴルとシルクロードを駆け抜けた十五年」という本にまとめ、Kindleで出版したところ、Amazonの海外旅行本カテゴリで紙・電子も含めて1位をとりました。

それが、2014年6月の話です。

Amazon1位という目標を達成した私は、ひとまずは達成感と安堵でゆっくり過ごしていましたが、数か月後から悩みはじめました。

「今回は友人のサポートだったけれど、次は自分で事業を立ち上げてみたい」という思いが芽生えはじめ、けれどテーマが決まらずにいたからです。

未経験なりに持てる力を出し切って1冊の本をつくった日々を経て、当時の私はこんなことを感じていました。

「顧客や市場に評価されるモノ・サービスをつくることは、大変なことだ」
「半端な気持ちではなく、自分の全てを賭けるに値することをやりたい」
「かつ、次にやることは少なくともこの先10年は全力投球できるテーマを選ばないと、自分自身が満足できない」

次は自分の事業に全力を尽くそう、と思えたのは貴重な気づきでしたが、すぐにテーマは決まりませんでした。

インプットをする「広げる時期」を数年すごす

どうしようかなぁ…と少し悩んだ私が決めた方針は、「次のテーマを探すために、とにかく色々な場所に顔を出そう」ということでした。

・何をすると喜びを感じるんだろう?
・どんな領域に使命感を持てるんだろう?
・どんな人と働きたいんだろう?

などの「自分自身の興味関心を探ること」と、

・いきいき働いている人の共通点ってなんだろう?
・成功している人は何をしているんだろう?
・新しいサービスをつくるときに大切なことはなんだろう?

などの「自分が次のステップに進むために役立つノウハウを得ること」を目的に、興味を持った場に時間があれば行きました。友達から誘われたら、断らずにどこにでも行ってみました。

セミナーやイベント、飲み会、NPOのプロボノ活動、キャンプ、お稽古の体験、旅行などなど、意識高め系もお遊び系も、とにかくなんでも顔を出しました。

一時期は飲み会は週に5~6回、海外旅行は多い時で年に6回と、自分でもよく体力が持ったなというくらい毎日どこかに出かけていました。(何かと有り余っている20代だからできたけど、もう今はできない…)

途中から、「イベントや講演のシリーズを立ち上げたいかも」と、現在の活動の原型が見えてきたので、PeatixやFacebookで探したイベントに、知り合いがいなくても行ってみました。

そんな数年間、少し焦ることもありました。

サービスを立ち上げたり、起業したり、わかりやすくアウトプットを出している人の近況報告を聞いて「私はインプットばかりでよいのだろうか」と思った日もあります。

魅力的なプロジェクトに誘われて、自分の時間をそちらに注ごうか迷ったこともあります。

でも、ひとたび「仮」の何かに夢中になると、「人生のテーマ」を見定めるのをサボってしまうだろうなという予感がありました。

人のサポートをするのは、自分で決めなくていいという意味では楽なのです。

失敗してもリスクを負わず、重大な決断をしなくても、推進力のあるリーダーについていけば、何か前に進めます。そこで満足したら、自分で何かをゼロから立ち上げるモチベーションがかすんでしまいそうでした。

「これだ」と確信を持てるテーマが決まるまでは、インプットに一番時間を使いたいと思いました。

大きな建物を建てるには、敷地の大きさ、土台の丈夫さが欠かせません。

人生の可能性を広げるために、一つでも多くのものに触れて、引き出しを増やしながらじっくりと土台づくりをしようと考えていました。

「これだ」と決める前に試してみる

そうこうして、しばらくは「広げる時期」を過ごしました。

ちょうど「馬上の旅人」を刊行したころに、希望していた編集部に異動が決まり、仕事に夢中になっていたので、最初の2年くらいはすぐに具体的にサービスを立ち上げようという決意にも至りませんでした。

編集部の仕事も一通り覚え社外の活動に力を割けるようになり、「イベントや講演に関する仕事をしたいかも」とやりたいことの輪郭が見え始めたのが、2016年の終わりから2017年にかけてでした。

輪郭が見えたものの「これだ」と確信を持てるほどではありませんでした。

そこで、私が行ったのは「試す」ことです。

イベントを自主開催して、何がハマるか確かめることにしました。

・ジャズ歌手の歌を聴きながら画家のライブペインティングを鑑賞する「お絵かきジャズライブ」を主催
・知人のベンチャー企業で、社員向け研修会の企画と運営を数ヶ月間担当
・先進的な働き方をする企業の若手社員を集めた勉強会「次世代ワークスタイルゼミ」を立ち上げシリーズ化

こんなことを試すうちに、徐々に自分の興味関心が見えてきました。

「イベントを自主開催するの、楽しい!」
「ジャズやアートは好きだけど、音楽や絵のスキルがないから私ががやるアドバンテージはあまりないな…。プレイヤーとプロデューサーどちらもできる人はいるから、プロデュースしかできないのは弱いかも」
「私がやる必然性があるとしたら、プロボノ活動を何年も続けてきたし“社外でのスキルアップ”がいいかな」
「ゲスト講師を呼ぶのは楽しいけれど、自分も話す機会を増やしたいな。複数人のトークショーがいいかも」

そんな感じま自分自身でイベント開催を試して方向性を見定めつつ、よそのセミナーにも顔を出して市場調査をしていました。

インプットとアウトプットを同時並行にやっていたということです。

そして、「働き方に関するトークイベントをやろうかな」という方向性が定まりはじめ、パラキャリ酒場vol.0にあたる「何からはじめる?パラレルキャリア」というイベントを日本橋で開催しました。

この時点では、まだパラレルキャリアに関する活動を継続しようという意思があった訳ではありません。2年ほど続けてきた「お試し」の一環でした。

けれど、パネルディスカッションが終わると、予想以上の反応が返ってきたのです。

「今日、話を聞けて本当によかったです!」
「ふらっときたけど、人生が変わりました!」
「パラレルキャリアという考え方に今日であえて、目から鱗が落ちました!」

会場全体が、これまで参加したどのセミナーや交流会よりも、前向きな興奮に包まれていました。普通の交流会の様子が“盛り上がり”だとすれば、明らかな“熱狂”が生まれていて、正直驚きました。

4-5年ほどプロボノを続けてきた私にとっては当たり前だったパラレルキャリアが、多くの人にとってかなり新鮮なんだ!とはじめて気づけた日でした。

パラレルキャリアという働き方を世の中に広めることには大きな意義がある、と確信した私は「この先10年は、パラレルキャリアの推進に人生を捧げてみたい!」と思い、パラレルキャリア研究所を立ち上げて、現在に至ります。

振り返ると、「広げる時期」で多くの可能性を探すこと、「どれを深めるか探るお試し期間」を設けたことの、どちらも有意義だったと感じています。

どこにでも顔を出したから自分にハマるものに巡り会えたし、お試しをして確信を持てたから迷いなく事業を育ててこれました。


「深める時期」に身を投じてみた

それから2年半、私は会社員は続けながら、会社以外のほとんどの時間をパラレルキャリア研究所につっこみました。

飲み会も激減したし、セミナーやパーティーに行くのは登壇や司会などの役割がある時だけにしています。

今は、持っている時間や気力体力はすべてパラレルキャリア研究所に投資したいと感じています。

立ち上げ時は、数年間の「広げる時期」に得てきた新しい出会いや新鮮な刺激が減ってしまうのでは、と少し怖い気もしました。

何かを探している時期は、楽しいものです。

「たくさんある可能性の中のどれでも選べる」という状態は、実際にはまだ何もしていなくても、根拠のない万能感をもたらしてくれます。

けれど、楽しい一方で「両手にチャンスがいっぱいのように思えても、実は何も掴んでいない」という不安も感じていたので、「広げる時期」にテーマを決めたら、次は集中して「深める時期」を過ごせたらいいなと思っていました。

今、どこに向かって歩けばいいかわからない不安から解放されたこともあり、意外と「広げる時期」のことが恋しくありません。

せっかく人生のテーマに出会えたのだから、フラフラせず全力で深めてみようと考えています。


タイミングも期間も、人それぞれ

私の場合は、20代後半で2年強の「広げる時期」、1年強の「お試し期間」を経てから、「深める時期」がやってきました。

このタイミングや期間に、“適正”なものはないと思います。

私も、今は深める時期ですが、また何かのきっかけで広げる時期もやってくるはずです。

「広げる」と「深める」は必ず二分されるものでもなく、深めながらも「ちょっと視野が狭くなったかな」「新しい可能性を探したいな」と思ったら、アウトプットの手は止めずに広げてみることもできます。

私たちの人生には、さまざまなフェーズがあります。

育児や介護で忙しい時、会社員の仕事が忙しい時は、「何かはじめたい」と思っても、一つのことに集中してコンスタントにアウトプットを出すのが難しいこともあるでしょう。

そんな時は、まずは「広げる時期」を過ごしてみてはいかがでしょうか。

私は人とたくさん会いましたが、情報収集なら書籍やネットもあります。今ならオンラインイベントも盛況です。

次に一つのことに精力を注げる時期が来た時に備え、「広げる」機会を意識して増やしていれば、急に時間ができたタイミングで「自分のことなんてしばらく考えてこなかったから、何をしたいかわからなくなっちゃった」という事態になりにくいと思います。

テーマが決まらず立ち止まってしまうとき、何かの事情でアウトプットを出せないとき、具体的に前に進んでいる人と比べて焦ることもあると思います。

でも、「広げる時期」も立派な準備期間です。

広げて深めて、少し立ち止まって、また広げて深めて。

そんな繰り返しで、自分のキャリアを耕していけばよいのだと思います。

パラレルキャリア研究所代表 慶野英里名

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