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Good Sharing Kamakura・みなみなおこさんが描く、循環の先にある“今よりちょっといい”地域の未来

鎌倉を拠点に、環境課題を持つ「地域」と技術を持つ「企業」の連携でサーキュラーエコノミーを実践している「Good Sharing Kamakura」。プラスチックごみ削減を目指す取り組みとして、スチールカップのリユース利用の普及に取り組んでいます。中心となってプロジェクトを推進するみなみなおこさんに、これまでのプロセスや今後の展望についてお話を伺いました。

話者プロフィール:みなみなおこ(Good Sharing Kamakura)
株式会社naluにて、ソーシャルグッドなブランドづくりの支援を手がける。鎌倉を拠点に「つくる側」と「つかう側」が共に地域の課題を解決するプラットフォーム「Good Sharing Kamakura」では、大手スチールメーカーとの連携によりプラスチックごみ問題の解決に貢献するプロジェクトなどを実施している。

Q. みなみさんのご活動内容と、「循環」とのかかわりについて教えてください。

私が経営している株式会社naluでは、社会をよくするソーシャルグッドなライフスタイルブランドをつくるお手伝いをしています。また、技術系コンサルティングファーム・株式会社IBLCにブランディングの専門家として参画しており、IBLCと共同で展開している「Good Sharing Kamakura」という事業では、鎌倉を起点に「つくる側」と「つかう側」が一緒になって地域の課題を解決するという取り組みを行っています。

「循環」とのかかわりという点でいうと、多種多様な領域でのブランディングに携わる中で、環境や健康にやさしいもの、社会課題に取り組んでいるお客様が多くいらっしゃったんですね。そういった中で私自身も環境問題に何か取り組めないかということで、まずは自分の生活の中で変えられることがないかと考えて脱プラスチックに取り組み始め、現在のGood Sharing Kamakuraの活動につながっています。

Q. 最初はご自身の生活の中から始まったのですね。脱プラスチックというと、具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか?

いきなり完全にプラスチックをやめることは難しいので、朝だけできるだけプラスチックを使わないようにしてみる「朝だけレスプラ」生活を始めました。また、料理や洗濯、スキンケアやファッションなど、1シーンにつき1つのノープラアクションという形で、無理なくプラスチックを減らすためのヒントを動画やブログ記事にして紹介してきました。

日常のワンシーンでプラスチックを減らすヒントを紹介する「朝だけレスプラ」

「朝だけレスプラ」の発信を続けてみて思ったのが、プラスチックごみを減らすためには「作る側と使う側が一緒に取り組まないといけない」ということでした。いくら生活者が行動を変えようとしても、製品を作る側が変わらないと生活者も選べないし、作る側も、買ってくれる使い手がいなければものづくりを変えられないと思ったんです。

【参照サイト】MORNING BATON 朝だけレスプラ

「作り手と使い手が一緒になってプラスチック問題を解決する」Good Sharing Kamakuraとは?

Q. Good Sharing Kamakuraが生まれた経緯について教えてください。

朝だけレスプラの取り組みの中で「作る側と使う側の連携」の必要性を感じていた中で、IBLCに「作り手と使い手が一緒になってプラスチックの問題を解決する」という1枚の企画書をまとめて提案したのがきっかけでした。

IBLCは、すでに世の中にあるものに別の角度から可能性を見出すことを得意としている会社です。メーカーが持っている「素材」「技術」をいかに活用するかという「川上」での用途開発に長けているので、私がやってきたブランディングのような、生活者に近いいわば「川下」側でのコミュニケーションと組み合わせることで、「作り手と使い手が一緒になってプラスチック問題を解決する」という構想を一気通貫で実現できるのではないかと考えました。

さらにこの取り組みを「せっかくやるなら、地域と一緒にやりませんか?」と提案したところ、ちょうどJFEスチールさんがサステナビリティや鎌倉のために何かできないか、そしてJFEスチールが持つ薄い鋼板を何かに使えないか、と模索していた時期だったこともあり、プロジェクトが始まりました。

Q. Good Sharing Kamakuraの取り組みとスキームについて教えてください。

Good Sharing Kamakuraは、「地域が抱える課題を、大企業が持つ技術で解決する」ことを目指す地域共創型ソリューション事業です。地域には「地域の課題をローカルのプレイヤーが解決しようにも、経済的・技術的なリソースが足りない」という問題があるのに対し、企業側も、技術やリソースや地域との連携への関心はありつつ、事業化のアイデアや地域のニーズを把握することが難しいという実情があります。

そこで、多様な知識や経験を持つIBLCと企業とが連携し、地域の専門家と企業の専門家が協力して社会実装を進めていく座組になっています。その第一弾として、IBLC、JFEスチール、地域メディアの湘南スタイルが協力し、「おかえりカップ」と名付けられた薄型鋼板製のドリンクカップ(以下、おかえりカップ)を普及させることで地域のプラスチックごみ削減につなげようというプロジェクトを行っています。「Good Sharing+地域名」という名前からわかるように、他の地域への横展開も見据えた構想になっているんです。

出典:Good Sharing Kamakura

「おかえりカップ」を起点に、地域で「まわす」カルチャーを生み出す

Q. 「おかえりカップ」を使った取り組みについて詳しく教えてください。

おかえりカップは、主に地域のカフェなどの飲食店で使っていただいています。飲んだ後にはお店に返却してもらい、お店側で洗っていただいてリユースします。鉄なので使っているうちに錆びてしまうのですが、資源として循環させることができます。

Q. なぜ「鉄」を使うのでしょうか?

これまでに色々なリユース容器を調査してきたのですが、回収や再資源化のしやすさを考えると、鉄はリサイクル率が高く循環させやすいんですね。要はスチール缶を資源回収に出すのと同じなので、既存のリサイクルルートを活用できます。これが鉄の良いところだと思います。また、回収・再資源化は地元の事業者が行う仕組みになっているので、地域での経済循環が生まれ、ごみは出ないというのもポイントです。

それから、スチール製のカップは冷たい飲み物を飲むのに最適ですね。夏はこのカップでキンキンに冷えたビールを飲むのが最高ですよ。

出典:Good Sharing Kamakura

Q. 実際に取り組んでみて、地域の方の反応はどうでしたか?

「これ何?」と興味を持ってくださる方は多かったですね。おかえりカップの見た目もかっこいいので、写真を撮ってインスタに上げてくれる方もたくさんいるんです。若い人たちにも評判がよく、20代の子たちが「何か関わりたい」と言ってサウナイベントで使ってくれたんですよ。サウナ後に飲むドリンクを作るのにカップを使ってくれたり、かっこいい動画まで作ったりしてプロモーションをしてくれました。

なみまち NAMIMATI on Instagram: "先日のサウナイベントではオロポの容器にスチールカップを使用しました!!✨ キンキンに冷やせてスタッキングできて使い捨てなのに環境に良いこのカップ、五感で自然を感じられるテントサウナと相性抜群でした🌱🌍 video by @takecyanman510 #ビーチクリーン #sdgs #ビーチクリーン活動 #湘南#湘南ライフ #湘南スタイル #shonan #beach #beachcleanup #sdgs2030 #japan#sea #fashion #海 #環境問題 #地球に優しい #地球に優しい暮らし #なみまち #学生団体 #環境活動団体 #サウナ #テントサウナ #逗子海岸 #逗子 #逗子カフェ #camp" 193 likes, 1 comments - namimati134 on February 25, 2023: "先日 www.instagram.com

鎌倉のコミュニティマーケット・鎌人いち場(かまんどいちば)でカフェを出している方がこの活動に共感してくださり、マーケットの時に実験したところ、(容器代を上乗せして払い、返却時に返金される)デポジットがなくてもカップの返却率が9割だった、という例もありました。

その後、2023年の夏には鎌倉の12店舗のカフェと提携して、飲み物を購入した店舗とは別の店舗でもおかえりカップを返却できるような形で「夏の循環カップ」として展開しました。カフェ巡りをしている方が「ここでもあっちでもこのカップを見たけどこれ何?」と認識してくれたり、この取り組みに参加している店舗のマップを配ることでカフェ好きの人が新しいお店を開拓できたりと、相乗効果が生まれていたのではないかと思います。

「夏の循環カップ」(出典:Good Sharing Kamakura)

Q. 鎌倉のカルチャーは、資源循環との親和性があると思いますか?

鎌倉でこの事業を展開する上で、2つ良い点があると思います。一つは、現場(店舗)が柔軟性を持ってこの取り組みに対応してくださることです。カップを導入して、洗ってリユースしてくれるだけでありがたいのですが、「あとは適当に(いい感じに)やるからいいよ」と言って、SNSでの発信などもしてくださいます。現場の方がプロジェクトの意図を汲んで循環を促進してくれるというのは、鎌倉ならではかもしれません。

二つ目は、使い手であるお客さんもこれを広めてくれるということです。お店同士で紹介していただいて導入していただくことがあるのですが、お客さんからお店に対しても「これ使わないの?」とおすすめして広めてくれることがあります。実はこのおかえりカップ、お客さんからの提案がきっかけで導入した店舗が2軒あるんですよ。

Q. やはり鎌倉には「環境意識が高い」人が多いのでしょうか?

サーフィンのように海を中心としたカルチャーがあって、フレンドリーな人が多かったり、海を自分の庭のように思っていたりと、いいことはどんどんやろうという仲間意識やいい意味での田舎っぽさが環境意識の浸透を助けてくれていると思います。現に、ビーチクリーンが日常的に行われていますし、部活のような取り組みが生まれやすいので、こういう取り組みはカルチャーとして広まりやすいのかもしれません。

出典:Good Sharing Kamakura

Q. Good Sharing Kamakuraの課題と、今後の目標について教えてください。

まず、おかえりカップを普及させるための一番の課題はコストですね。「いい取り組みだね」と言って使ってくださるお店もたくさんあるのですが、どうしてもローカルで小規模にやっていると導入できる数が少なくコストも高いのが現状です。カップのデザインを工夫することでコストを下げるということも検討しています。

さらにこれから目指すところについては、「リジェネラティブなスチールカップ」を作りたいと思っています。鉄はイオン化すると海藻の栄養になるということが分かっていて、この仕組みを活用して海の磯焼けなどの問題解決につなげられないかと考えているところです。このおかえりカップではまだ実現に至っていないのですが、ただリサイクルをして終わりではなく、おかえりカップから経済の好循環や環境の再生まで実現できたら素敵ですよね。

資源循環のその先へ。地域をよくするために「知恵」も循環させる

Q. 最後に、みなみさんにとって、「循環」とは何でしょうか?

リサイクルも大事なことですが、ただ資源が循環するだけでなく、その先で地域がよくなるところまで含めて「循環」と捉えることが大切なのかなと思います。鎌倉でおかえりカップの取り組みをしている中で、地元の方々が周りの人々へ広めようと活発にコミュニケーションをしてくださっています。作る側と使う側がみんなで地域の課題解決に参加できる仕掛けにしていくことで、課題解決のためのみんなの知恵が集まる。そしてその知恵が巡りめぐって地域をよくする。この輪が鎌倉だけでなく、新しい普通となってどんどん広がっていくといいなと考えています。

Text/Photo by Hirohisa Kojima

※本記事は、JST・共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」における中都市研究の一環として行ったインタビューをもとに、ハーチ株式会社が制作しました。

【参照サイト】Good Sharing Kamakura
【参照サイト】イベントにはおかえりカップ | Instagram

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