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粉飾決算という麻薬

日本で起こった巨額の粉飾決算の事例を基に、その典型手法を紹介します。

2つの事件から「決算書だけで取引先を信用しない」と知っておきましょう。


粉飾決算とは

粉飾決算とは不正な会計処理によって財務諸表をごまかして利益や損失について虚偽の報告をすることです。

粉飾決算は主に3つのパターンがあります。

一つは、損益計算書の損益を意図的に操作して業績を隠蔽し経営実態を良く見せる手法です。

また、貸借対照表の資産を過大に計上したり、負債を簿外計上することによって、財務内容を実態より良い内容に見せるパターンです。

あと、黒字を赤字に見せて税金の支払いをごまかすパターンも粉飾決算の一つと言われています。

粉飾決算のメリット

なぜ粉飾決算をするかといえば、単純に以下のメリットがあるからです。

■信用不安を払拭できる
■申告する納税額をごまかせる

赤字は、対外的な信用不安を招きます。
信用不安は営業上不利になることが多く、商品などの仕入条件や銀行からの借入金などに影響します。
また官公庁などの発注する工事への入札参加資格を失う可能性もあります。

黒字を赤字に見せかければ、本来の納税額を過少申告できます。

日本国内での粉飾決算事例

ここからは日本国内で行われた有名な粉飾事例を2つ紹介します。

ひとつは「飛ばし」と呼ばれる手法で有価証券等の含み損を隠蔽した手法です。

もう一つは「連結外し」と言われる手法です。
損失を出した子会社を出資比率を変え、連結決算から外す手法です。

オリンパスの粉飾…子会社への「飛ばし」

精密機器大手メーカーの「オリンパス」はバブル以前から「財テク」と呼ばれる不動産や株式投資等を積極的に実施していました。

バブル崩壊後、価値が下落した株式などの有価証券に多額の「含み損」が出ました。

「含み損」とは購入したときの簿価と時価の差額による損失です。

簡単にいえば100万円で買った株式が1万円の価値になっていれば含み損は▲99万円です。

オリンパスはこの損失を「飛ばし」で隠蔽しました。

「飛ばし」とは帳簿上の損失を処理せず、簿外に飛ばすという意味です。

筆者作成

「飛ばし」の手口

オリンパスは多額の損失を隠蔽するために、含み損のある保有株式を子会社に譲渡しました。

本来であれば時価で売却し減額処理によって損失計上すべきですが、そのままの金額(簿価)で譲渡しました。

簿価で売り飛ばせば、損失は全く出ません。

子会社は「タックスヘイブン」と呼ばれる租税回避地の会社だったため秘密は明かされることはありませんでした。
その後、子会社を消滅させます。

これで帳簿上は、損失を計上しなければいけない株の隠蔽が完了します。

これが「飛ばし」です。

オリンパスの粉飾事件について詳しく知りたい方はザ・粉飾 暗闘オリンパス事件 (講談社+α文庫)」というノンフィクション小説に詳細に描かれています。


「飛ばし」の結末

結局、オリンパスによる巨額の粉飾決算は告発によって暴かれます。

旧経営陣は2020年に約590億円の損害賠償請求を命じられるなど、有罪が確定しています。

旧カネボウの粉飾…「連結外し」

かつて繊維製品や化粧品メーカーとして大手だった「旧カネボウ」は粉飾決算によって会社を解散しました。

旧カネボウは100年以上も続く、日本を代表する大手企業でした。

旧カネボウは元々は繊維メーカーでしたが多角化経営により規模を徐々に拡大。
特に化粧品は名前を覚えている人も多いのではないでしょうか。

しかし、繊維事業などは海外メーカーとの価格競争に破れ厳しい環境でした。

繊維事業など不振事業の赤字を、化粧品事業の黒字で補完する収益構造が続いていました。

そしてバブル崩壊後、債務超過を隠すために粉飾決算を繰り返します。

その手法が「連結外し」と呼ばれる手法でした。

筆者作成

「連結外し」とは
▶本来、連結会計に入れるべきグループ子会社などを出資比率を抑え連結決算から外すこと

「連結会計」とは
▶支配関係にある企業集団を単一の組織体とみなし、その経営成績や財務状態を親会社が把握するために作成する会計制度

「連結外し」の手口

2000年3月期から日本国内に新会計基準(実質支配力基準)という会計基準が適用されました。

新会計基準については「EY新日本有限責任監査法人」の企業会計ナビが分かりやすいので参照ください。

子会社を新会計基準に基づきグループに入れてしまうと、カネボウグループ全体の最終利益が赤字になってしまいます。
また債務超過に陥っていることが判明すれば、銀行からの融資も受けられず、上場廃止も確実でした。

そのためカネボウは子会社に対する出資比率を抑え、形式上グループから外します。

また子会社の株式は「いつか買い戻す」という約束のもと、裏金を外部企業に譲渡しました。

これにより赤字を黒字に、債務超過を資産超過に粉飾した有価証券報告書を提出し、翌年も同様の手法で粉飾を繰り返しました。

旧カネボウの結末

結果的に、カネボウの経営は行き詰まり、産業再生機構の支援を受けます。

2005年に東京証券取引所および大阪証券取引所は旧カネボウの上場廃止を決定。

2007年に旧カネボウは解散し120年にわたる歴史に終止符が打たれます。

また旧経営陣が証券取引法違反で逮捕されます。粉飾決算を指南していた中央青山監査法人の公認会計士も証券取引法違反で逮捕されます。

これにより中央青山監査法人は2006年に金融庁から業務停止命令を受け、後に解散に追い込まれました。

粉飾決算はなぜ起こるのか

なぜ、オリンパスも旧カネボウも粉飾決算をしたのでしょうか。

いずれの事例も共通していることがあります。
以下の2点です。

■信用不安を払拭するため
■帳簿から消えれば分からないと考えたため

信用不安の払拭

1つは経営陣が信用不安を払拭するためです。

なぜ信用不安を払拭したいかといえば、資金調達できなくなるからです。
また上場廃止という結末を迎えるかもしれません。

しかし、今回の事例でも分かるようにいつかはバレます。
いってみれば、粉飾決算はただの時間稼ぎであり、結果的に損失が拡大するだけです。

帳簿から消えれば分からない

もう一つは有価証券報告書などの帳簿上から消えてしまえば、第三者には分からないと判断したからです。

これは経営者や監査法人のモラルの話です。

簿外(オフバランス)に資産や負債が移されると、たしかに第三者には簡単に分かりません。

粉飾は麻薬と一緒で止められない

重要なのは決算書に出ている数字だけではありません。
経営者の資質やモラルがたいへん重要です。

決算書は意外と簡単に粉飾可能です。
そのため、安易に手を出しやすく、最終的には止められなくなります。

麻薬や覚せい剤に似ています。


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