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新入編集部員の日記 #2 「ゲラと向き合う」

【注】新入社員によるエッセイ的な文章です。出版に関する専門用語等の使い方等が正確でない部分があるかもしれません。ご承知おきください。

皆さん、こんにちは (こんばんは)! 日本評論社・経済編集部のSです。

いまだに紙のゲラに赤字を入れて印刷会社さんとやりとりをするなど、編集・出版業務は「アナログ」な作業が多いです。また、「アナログ」な作業ゆえヒューマンエラーも起こり得ます。

「テキストの間違いを指摘したり統一するだけなら、もう少し上手くやれば正確かつ効率的にできそうなのに」「紙のゲラを物理的に受け渡しせずとも、データの授受で済むのではないか」などと思っていた私ですが、毎日ゲラと向き合っていく中で少しずつ考えを改めています。



■引き合わせ(赤字)

入社後初めての仕事として次世代の実証経済学再校ゲラの素読みに取り組みました(#1参照)。再校ゲラに赤字(修正指示)を入れたものを印刷会社さんに戻し、数日すると赤字が反映されて新しく印刷されたゲラが届きました。そこで今度は「ゲラの引き合わせをしてほしい」と担当のMさんに頼まれました。

引き合わせ(ここでは赤字引き合わせ)とは、新しく出てきたゲラが、赤字の修正指示通りになっているかを確認する作業です。なぜこのような確認作業をするのかというと、①こちらが誤った修正指示をしている、②印刷会社さんが誤った修正をしている・修正漏れがあるなどの可能性があるからです。

というわけで、デスクの左側に新しく出てきたゲラ、右側に再校の赤字入りのゲラを置いて1箇所ずつ赤字を確認し、正しく反映されていたら鉛筆で赤字の部分にチェックを入れていくという作業に取り組みました。ひたすらゲラを突き合わせ、反映されているか確認していきます。こちらは素読みとは異なり、単純に正しく処理が行われたかどうかを淡々と確認していく作業です。今回赤字が反映されていない・誤った反映をされている箇所はゼロでした。印刷会社さんの丁寧なお仕事に感謝です。


■チェックしているのは「文字」だけではない

校正とは、文字情報をチェックするものとばかり思っていた私でしたが、ゲラを読む時は文字情報の正誤以外のポイントも確認する必要があります。印刷されている文字の大きさやフォントがこちらの指定通りか、図の位置は正しいか、表は合計などの計算結果があっているか......、など文字の正誤情報に限らず本の体裁に関するポイントにも気を配らなければいけません。

誤字脱字のチェックだけなら、ツールを使ってテキストデータを機械的・自動的に処理することも可能ですが、本の製作においてはそれだけでは不十分だと(少なくとも今の私は)思います。なぜなら本の中身は「組まれている」からです。

ただのテキスト(データ)の集合ではなく、製作者の意図に基づいて文字やレイアウトが構成された(=組まれた)ものが本である、という認識を得られたのはゲラ読みの大きな収穫でした。換言すれば、文字やレイアウトはなんらかの意図があってその場所に配置されており、中身の情報に文法的・語法的間違いが一切なくとも、組み方次第では印象が大きく変わりうるということです(典型的なのが、節の終わりで1文字だけ次行にはみ出してしまい、中途半端な空行や空ページが生じてしまうような例です。先輩社員のMさん曰くこういうものは「気持ち悪く」感じるとのことでした)。そして、組まれた文章が実際に本としてどのように見えるかは、印刷された紙を手に取ってみないとわかりません。

※紙のゲラと一緒にそのPDFデータも送られてきますが、PDFと紙でも見え方(特に図表の色・濃淡)が異なることがかなりあります。

編集・出版業務に対して、正直なところ「テキストデータの処理になぜそんなに時間がかかるんだろう」と思っていた自分は、相当認識が甘かったと言えます。反省。

※補足:もっと言えば、ゲラは普通のコピー用紙なので実際に本に使われる紙(本紙)に印刷したときにはまた違って見えるという難しさもあります。


■ひらく/ゆれ

漢字で書かれた語句をひらがな表記にすることをこの業界では「ひらく」と呼ぶことを初めて知りました。例えば

明日の夕方迄に御送信頂けると助かります。宜しくお願い致します。

あすの夕方までにご送信いただけると助かります。よろしくお願いいたします。

だと、文の印象がやや異なります。文から感じ取れる著者の人物像や属性、文そのものの読みやすさが微妙に変わってきます。「どの程度単語をひらくか」や「この単語はあえてひらかないでおく」、などの判断を機械的に処理するのはなかなか難しいと思いました。

また、同じ表現でも本の中で表記の仕方が異なること(これを「ゆれ」があるなどと言います)を編集者は嫌うということも知りました。正確には、嫌いという個人的な感情というよりは、むしろ本という売り物の中身に一貫性を持たせ品質を保ちたいということだと私は解釈しています。今回の『次世代の実証経済学』でいえば「査読誌」と「ジャーナル」、「擬似実験」と「疑似実験」、(「観察データ」の英訳としての)「observed data」と「observational data」などの統一に迷いました。

注:「ひらく」かどうかの判断に絶対的なルールはなく、本や著者、編集者、漢字によってケースバイケースであることが多いようです。漢字の表記などのルール化しまとめた用字用語集というものが新聞社ごとに作られており、それを参考にすることもあります。


■おわりに

「アナログ」な作業が存在するのには、それ相応の理由があるということがよくわかりました。紙のゲラと向き合わないとわからないこと・伝わらない情報があるということは、大切な教訓になりました。

いろいろ書きましたが、こういった細かな仕事は好きです。もともと細かいことが気になる性格なのですが、この仕事はそれがいい方向に働くことが多い気がします。今後もたくさんゲラを読み、文章と向き合う経験を積みたいと思います。

※今回登場した『次世代の実証経済学』は こちら



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