見出し画像

プライシングの真髄は代替性にあり:連載「実証ビジエコ」第3回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎実証・ビジネス・エコノミクス」。

その第3回(2021年8・9月号掲載)となる今回は、「プライシングの真髄は代替性にあり:消費者需要モデルの推定[基礎編2]」と題して、前回のクライマックスで「あなた」が上司であるチーフエコノミストに指摘された、「カニバリゼーション」の影響の定量化に取り組んでいきます。

カニバリゼーション(共食い)とは、自社の製品同士でお互いの需要を食い合ってしまうことです。

ではなぜ、今回のコンサルティング案件である「ベータード」という車種の値下げでカニバリゼーションについても考慮しなければならないのでしょうか。それは、「値下げすればベータードの売上は上がるかもしれないけれど、それが実は自社の他の車種からの乗り換えによるもので、トータルでの売上はかえって下がってしまうかもしれない」からです。

この問題を考慮するには、製品間の代替関係(交差価格弾力性)を適切に捉えるための分析フレームワークが必要です。今回の解説では、前回導入したベーシックなロジットモデルにはこの点で問題があること、それを克服するためにさまざまな手法が提案されていることを解説します。そして、実際にカニバリゼーションを考慮した分析を「入れ子ロジットモデル」「ランダム係数ロジットモデル」という2つの発展的な手法を用いて行います。

前回同様、その分析手法が必要になるモチベーションや、実際の進め方を丁寧に解説していきます。サポートサイトでは、テクニカルな理論面を補足説明した資料や、Rを用いた分析コード等も提供していますので、ぜひトライしてみてください!

このnoteでは、連載第3回の内容を少しだけ紹介したうえで、ウェブ付録の内容をご案内します。掲載されているのは、『経済セミナー』2021年8・9月号です。(特集は「経済論文の書き方[はじめの一歩編]」。こちらもぜひご注目ください!)

本連載のサポートサイトは【こちら】です:

画像1

今回は、「実証ビジネス・エコノミスト株式会社」で経済コンサルタントとして働き始めた「あなた」が最初に取り組んでいる、「日評自動車株式会社」が販売する「ベータード」の価格設定プロジェクトの続きで、カニバリゼーションを考慮してより正確な最適価格を考えていきます。上司にカニバリゼーションの問題を指摘され、指示を受けて考えを深めていくところからスタートします。

では、第3回冒頭の内容からをご紹介します!

■連載第3回の鍵は「代替性」!

画像3

前回、実証ビジネス・エコノミクス株式会社に入社したあなたは、初仕事として日評自動車のプライシング案件に携わることとなった。その検討の第一歩として、自動車市場のデータを収集し、ロジットモデルを利用した消費者需要の推定を行った。そして、この案件でプライシングの検討対象となっている車種「ベータード」の需要曲線、および収入曲線を得ることができた。

さてそんな折、あなたのもとへ上司であるチーフエコノミストがやってきた。ここまでの分析結果を報告すると、チーフエコノミストから「カニバリゼーションが考慮できていないのではないか?」という指摘を受けた。「仮にベータードの価格を下げたとき、ベータードの需要は増加するかもしれないが、その需要の増加は日評自動車が販売する他の車種から需要を奪っているかもしれない。そうすると、ベータードからの収入は増えるかもしれないが、日評自動車全体としての収入は減るだろう」と。この点を検討するために、まず需要の交差価格弾力性、すなわちベータードの価格が変化したときに、他の車種の需要がどのように変化するかを計算するように指示された。

そこであなたは、前回推定したロジットモデルに基づき価格弾力性行列を計算した。表1は、ベータードと他の車種との間の価格弾力性パターンを示す行列である [注])。「ベータード」の行は、ベータードの価格が1%上がったときに、ベータードおよび他の車種の需要が何%変化するかを示している。この表を見ると、ベータードから他の車種への交差価格弾力性がまったく同じ値になっている。一体どういうことだろうか……。

画像4

[注] 前回の表3では、データセット内のすべての車種それぞれについて自己価格弾力性を計算しその記述統計を報告した。一方で今回の表1では、特定の車種に関する自己価格弾力性と交差価格弾力性を報告している。なお、表1で用いた推定結果は、前回のロジットモデルを差別化操作変数で推定した結果に基づいている。

------------- 第2節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■連載第3回のウェブ付録

第3回は、上記のような問題を解決していくために、ロジットモデルのどこにどんな問題があるのかを理解したうえで(「赤バス・青バス問題」)より発展的な手法へと進んでいきます。かなりテクニカルな解説も多くなっていますが、その細部や背景は以下でご紹介するウェブ付録に解説資料を公開して補完しています。また、実務的・応用的な側面に関心のある方々に対しては、そうしたテクニカルなパートはスキップして、実際の推定結果の解説とウェブ付録で解説付きでアップしているRのコードをご覧いただくこともできるように設計しています。

第3回のウェブ付録は、【こちら】からご覧いただけます:

画像5

第3回のサポートサイトは以下のような提供メニューになっています(詳細はぜひサイトをご覧ください!):

補足資料「一般化モーメント法 (GMM) の補足解説」「入れ子型ロジット/ランダム係数ロジットモデルの推定の詳細」

・補足資料1「一般化モーメント法 (GMM) に関するノート
・補足資料2「入れ子型ロジットモデル、ランダム係数ロジットモデルの推定に関する詳細

 補足資料 1 では、「一般化モーメント法 (generalized method of moments: GMM)」について解説します。GMM は連載第3回 (2021 年 8・9 月号) で取り上げるランダム係数ロジットモデルの推定をはじめ、産業組織論の実証分析、および構造推定全般で広く用いられている手法です。また、連載第2 回 (2021 年 6・7 月号) における線形モデルの操作変数法や 2 段階最小 2 乗法も GMM の特殊ケースとして見ることができます。
 GMMの詳細な解説として、本資料内では以下のテキストが推奨されています。
末石直也 (2015)『計量経済学:ミクロデータ分析へのいざない』日本評論社。
Hayashi, F (2000) Econometrics, Princeton University Prress.
Newey, W. K. and McFadden, D. (1994) “Large Sample Estimation and Hypothesis Testing,” Handbook of Econometrics, Vol.4, North Holland: 2111–2245.
 補足資料2では、本誌で取り上げた「入れ子型ロジットモデル」と「ランダム係数ロジットモデル」の詳細を解説しています。また、BLPアルゴリズムの詳細についてもまとめています。

Rによる分析コード

本誌第3回で紹介した分析を再現しつつ、実際に手を動かしながら学ぶことを目的とします。分析コードを解説付きでガイドした資料と、データも含めてまとめてダウンロードできるZIPを公開しています。

分析コードのガイド【リンク(HTML)
ファイル(Rコード、データ)の一括ダウンロード【リンク(ZIP)

「分析コードのガイド」は以下のように、コードを解説付きでアップしています。ぜひ本誌とあわせてご利用ください。

画像6

なお、本連載では、Rの初心者向けのオンラインリソースとして、宋財泫・矢内勇生先生たちによる「私たちのR: ベストプラクティスの探究」を推奨しています。Rのインストールについては、同リソース内の「3. Rのインストール」に、OSに応じたインストール方法が詳細に解説されているのでご参照下さい。

■おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第3回の内容とウェブサポートのご案内をいたしました。本連載では、今後も実践的な側面を重視しつつ、一歩ずつビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析についての学びの場を提供していきたいと思います!

なお、第3回を掲載したのは『経セミ』2021年8・9月号です!

特集は「経済論文の書き方[はじめの一歩編]」。レポートや卒業論文などで、初めて学問的にまとまった文章を書く場合を想定して、以下で紹介する多様な先生方が、実際の指導経験もふまえて基礎からレクチャーします。そもそも、「(学術)論文とはなにか?」という最も基礎的な部分か丁寧に解説していきますので、こちらもぜひご注目ください。

ラインナップはこちら!

【座談会】論文の書き方はどう教えている?/中室牧子×平賀一希×室岡健志×森知晴
 ・リサーチクエスチョンのみつけ方
 ・先行研究の探し方、読み方
 ・アカデミック・ライティングの心構え
 ・論文の内容を伝えるコツ

統計分析で論文を書くための手順とコツ/小原美紀
独自性のある経済論文を書くコツ/萩原里紗
経済論文執筆の「はじめの二歩目」と具体例/本田圭市郎

特集・連載記事ともに少しでも充実した内容をお届けできればと制作に取り組んでいます。ぜひ『経済セミナー』を今後ともよろしくお願いいたします。


サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。