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日経学会に参加してきました!②【 新入編集部員の日記 #11 】

皆さん、こんにちは(こんばんは)!経済編集部のSです。
前回の記事からまた時間が空いてしまいました。気まぐれな投稿になっております点、ご容赦ください。
今回は日経学会2日目を振り返ります(もう1か月前になりますが...笑)。

※取材日程やセッション参加の都合上一部の発表・講演のみ取り上げる点ご了承ください。

前回の記事(#10)はこちら!

これまでの記事はこちらのマガジンからご覧いただけます!


■ 2日目も灼熱

日経学会2日目も引き続き酷暑でした...。1日目ですでにライフポイントを0近くまで削られていた私ですが、「強い気持ちで」頑張りました。

学会と言えどフォーマルな服装の先生方は比較的少なく、カジュアルなスタイルで過ごされている先生方が多かったように思います。こういった点に対して形式ばらないところは経済学界(会)の素晴らしいところだと思います。


■ 講演

■ 会長講演(※9/16(土)に行われました)

チャールズ・ユウジ・ホリオカ先生による会長講演は1日目のプログラムの最後に開催されました。

私はミクロ経済学の実証研究に取り組んでいた人間なので、マクロ経済学の理論やマクロの既存研究やコンテクストに全く詳しくありません。そんな私であってもホリオカ先生の講演は大変明快でわかりやすいものでした。

また、司会を務めた青木玲子あおき れいこ先生には、先般弊社から出版した『企業の経済学——産業組織論入門』の監訳をしていただきました。その御礼もかねて、青木先生にもご挨拶をしました。

■ 石川賞受賞記念講演:渡辺安虎わたなべやすとら先生(東京大学)

渡辺安虎先生のご発表は、自動販売機での実験研究をもとにした消費者の意思決定やマーケティングに関するものでした。発表の元になった論文はKawaguchi, Uetake, and Watanabe (2018)です。

こちらの研究では「次世代自動販売機」と呼ばれる自動販売機を通じたオススメ(レコメンデーション)の効果を検証しています。次世代自動販売機は液晶タッチパネルで商品を表示したり、カメラで顧客の属性(年齢・性別等)を判別するなどの機能を備えた高性能の自動販売機です。

渡辺先生たちのグループは駅の混雑状況や次の列車までの時間などの「プレッシャー」などを考慮しつつ、自動販売機でのランダムなレコメンデーション(=ABテスト)を行っています。結果や論文のサマリーはCREPEのウェブサイトを参考にしてください。

素人の感想ですが、渡辺先生たちのご研究ならびに今回の受賞講演の内容は、単に学術的に価値があるだけでなく、経済学をいかにビジネスの現場に応用していくかという「実用」へのまなざしが強く感じられるものでした。

また、「そこまでやるか(、......すごすぎる)」という感想も持ちました。例えば「時刻表の情報から次の電車までの『時間のなさ』によるプレッシャーを考慮する」と聞いたときは、驚きました。仮に私が分析者だったら、おそらくその発想には至らない & そこまでやろうと考えないだろうと思ったからです。

素晴らしい受賞講演をありがとうございました。

(渡辺安虎先生にご挨拶したときのお話は後ほど)

■ 中原賞受賞記念講演:北川透きたがわ とおる先生(ブラウン大学)

北川先生のご講演は、「政策志向の計量経済学」というタイトルの通り、政策決定という重大な意思決定を(社会厚生を最大化するという意味で)よりよく行うための計量経済学の理論研究(経験厚生最大化, Empirical Welfare Maximization)についてのご報告でした。

個人的に印象深かった点は、Waldの統計的決定理論に落とし込むという点です。Waldの理論は古典的ながら、計量経済学の手法が発展してきた現在においてもそのプレゼンスが依然として高く、「さすがWaldだなあ…(語彙力)」という感想を持ったのでした。

よりよい政策を決定するという「経済学のゴール」と、精度が高く頑健な推定および検定を行うための手法を開発するという「計量経済学のゴール」をそれぞれ整理し、後者が前者に貢献するよう理論を組み立てる、という講演の趣旨はかなり説得的だったと思います。

こちらも素晴らしい受賞講演でした。大変勉強になりました。


■ 企画セッション:人流データの活用と進展(座長:重岡仁しげおかひとし先生)

午後は、企画セッション:人流データの活用と進展に参加しました。

そもそも私は人流データとは何かを全く知りませんでした。どんなデータなのだろうと知的好奇心の赴くまま(もちろん仕事として)、本セッションに参加しました。

人流データとは、ある時点のある地点における人口やその属性などの情報を、個人が特定できないような処理を行いデータ化したものです。

企画セッションでは、NTTドコモ様が提供するモバイル空間統計の概要ならびにモバイル空間統計を用いた研究事例を登壇者の皆様にご紹介いただきました。

上記の定義から、「人流データ」と聞くと、私たちにとって身近なGPSによるデータが想起されると思います。私もそのイメージをもってセッションに臨みました。

ですが、GPSのデータには限界・弱点があります。たとえば、最近は端末・アプリごとにトラッキングの許可が設定できるため、バックグラウンドでの追跡が必ずしもできないことがあります。ほかにも、端末のOSの違い、ユーザーがそのアプリを使うか(選択)の問題があり、個々の端末・アプリを通じたGPS追跡は難しいのだそうです。

一方でモバイル空間統計は、基地局のインフラを利用するため電源が入ってさえいれば端末を追跡することができます。その点で、GPSデータが直面する課題をクリアし、研究に利用できるような質の高いデータをモバイル空間統計は提供しているとのことでした。

そして、モバイル空間統計を用いた研究事例がいくつか紹介されました。

どのテーマも、「人流データを使うとこんなことまで分析できるんだ!」と感じさせる内容でした。個人的には、残業時間・労働時間の正確な計測という労働経済学上の困難な課題に対して、人流データが風穴を開けてくれるのではないかという期待を抱きました。

(※研究費でデータを購入するため、そもそも予算制約内でデータが買えるのかという点もかなり検討されているようでした。)


■ 編集者同士の交流も

学会で会うのは大学の先生に限りません。

同業者、他社の編集者の方々とも顔を合わせます。「競合他社の編集者なんてバッチバチ🔥の関係性なのでは…」と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、全くそんな雰囲気ではありません。笑

むしろ新入社員の私の眼には、編集者同士のつながり・関係性が互いに良い影響を与えているように映りました。他社の編集者がどのように仕事をしているかはとっても参考になりますし、業界内の情報共有もある程度積極的に行われているように見えます。

また、修士時代に指導教授との連名で短い記事をある経済雑誌に載せていただいたのですが、その時の担当編集者さんとお会いすることもできました!直接お目にかかるのは初めてでしたが、まさか同業者として対面することになるとは思っていませんでした…。これからは業界の先輩として交流させていただき、少しでも学びになるものは吸収しようと思ったのでした。


■ このブログを書いていてよかった

渡辺安虎先生の受賞講演後、セッションの合間に編集長を通じて直接先生にご挨拶させていただきました。なんと、私が書いているこのブログをご覧いただいているとのことでした。新入社員が細々書いている記事がまさか認知されているとは思いもしなかったので、本当にうれしかったのを覚えています。

また、弊社にて『行動経済学』をご執筆いただいた室岡健志むろおか たけし先生にもお会いしました。室岡先生にも「興味深く拝見しています」という大変光栄なお言葉を頂戴しました。(ちなみに、『行動経済学』は重版(第2刷)が決まりましたのでなお感謝です…。)

このブログは、「制作の様子や作っている人たちの人物像が見えるようになることで読者の皆様に親近感を持っていただけたらいいな」という思いから私が勝手に始めたのですが、実際にこうしたFBをいただいて「このブログを書いていてよかった」と心から思った次第です。


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【重版決定】室岡先生の行動経済学のテキストはこちら👇


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