面接がなくなるだけじゃない。新神奈川公立入試のヤバい問題点を解説する。

つい昨日、県教委から「神奈川県公立高校入学者選抜制度改善方針」についての発表があった。

SNSで騒がれているように、目玉となる変更点は、平成25年度に現行入試制度になってからずっと続いていてきた悪名高き「面接試験」の一律廃止だ。

面接試験については、受検生全員の面接の得点が全く同じ得点とし、実質面接試験が形骸化してしまっている高校が少なくなく、特にこのコロナ禍において面接試験を実施する意義を疑問視する声が多かった。かくいう私もそのうちの1人だ。

現中2生が受検する令和6年度入試から、この面接試験が一律廃止され、面接をしたい一部の学校だけが「特色検査」として面接試験を実施するということが可能になるという。

これだけ見れば、あの悪名高き面接試験がなくなって、受検生の負担も高校側の負担も少なくなるのだから、なんと素晴らしい改善案なんだと思っていたが、よく見てみればそれだけではないばかりか、一部の受検生にとっては改悪とも言える制度となりそうである。

まずは、この「新しい入試制度改善方針」について、今のところ分かったことをまとめてみる。​

  • クリエイティブスクールを除く学校での面接試験の一律廃止。面接試験を実施したい学校は、「特色検査」として実施可能。

  • 募集人員の90%までを選考する一次選考は、内申点+学力検査(+特色検査)の総合点で選考。

  • 募集人員の残り10%を選考する二次選考は、学力検査+第3学年調査書の観点別評価「主体的に学習に取り組む態度」を、A=3点、B=2点、C=1点に換算し。9科目合計が選考に加わる。

これ、表面上は面接試験の廃止だけだが、実はそれ以外の点が思いっきりヤバい。ヤバすぎる。

今回のnoteでは、新入試制度の問題点を指摘してみる。

問題点1 不登校の生徒や発達障害の生徒が救われない点


神奈川県の公立高校入試には、資料の一部が整わない受検生への配慮するために、二次選考というものがある。現行の入試制度では、学力検査と面接を各高校が決めた割合(多くは学力検査:面接=8:2)で合否を決めている。

二次選考の大きなポイントは、合否を決める際に学校の内申点や調査書を一切考慮しない点である。面接は多くの高校で形骸化していたため、二次選考は実質学力検査の得点だけで合否が決まっていた。

募集人員の10%しか枠がないが、不登校気味で思うような内申点が揃っていない生徒や、発達障害等で学校で問題を起こしがちな生徒など、さまざまな事情で内申点が揃わないが、学力は有する受検生の受け皿や希望となってきたのがこの二次選考なのだ。

ところが、新しい入試では、第3学年調査書の各教科の観点別評価「主体的に学習に取り組む態度」の合計を、選考の材料に入れてしまっている。つまり、二次選考にも調査書の要素を盛り込んできたのだ。

これでは、今まで二次選考で救われてきた受検生が救われなくなってしまう。

問題点2 二次選考における観点別評価の1点分は学力検査の4.6倍以上

問題点の2番目は、二次選考の資料の計算方法だ。

県教委が発表した改善方針の資料によると、二次選考で使用するCの資料=「主体的に学習に取り組む態度」の評価の合計を100点満点に換算し、それに2以上の係数をかけるという。

具体的に計算してみよう。観点別評価はABCの3段階だから1教科の最大ポイントは3点×9教科分で最大27点満点になる。

もし、現入試の二次選考で多くの学校が採用している「学力:面接=8:2」の面接を、そのまま「主体的観点」に置き換えるとすると、「学力:主体的観点=8:2」となる。これは、27点満点の主体的観点を100点満点に直し、さらに最低係数の2をかければ、27点満点が200点満点に膨れ上がってしまうということになる。

学力検査500点満点が800点満点に換算されるのに対し、主体的観点は27点満点が最低でも200点満点に換算される。つまり、学力検査の1点分が二次選考全体の1.6点分に相当するのに対し、主体的観点は1点分が約7.4点分に相当することになる。

1点分の重みから言えば、二次選考における主体的観点は、学力検査の4.6倍以上である。

例えば下記のような持ち点のA君とB君の2人が同じ高校の二次選考にかかるとしよう。

A君の持ち点:学力検査400点/500点、主体的観点20点/27点
B君の持ち点:学力検査380点/500点、主体的観点25点/27点

現行の二次選考であれば、間違いなく学力検査で20点以上差をつけているA君の勝ちだ。さらに、単純に500点+27点満点で考えると、A君の方がB君よりも上回っている。

ところが、これを「学力検査:主体的観点=8:2」で計算すると、

A君の二次選考得点:学力640点+主体的観点148点=788点
B君の二次選考得点:学力608点+主体的観点185点=793点

なんと、B君がA君を上回る。主体的観点のたった5点の差が、二次選考では37点分の差に膨れ上がり、学力検査の20点差をひっくり返すのだ。

新しい入試方針では、一次選考でも二次選考でも、学力はあるけれど調査書が揃わない生徒が救われる場所がない。

問題点3 主体的に学ぶ態度の評価基準の不透明さ

すばる進学セミナーの中本先生もツイートされている通り。

「主体的に学びに取り組む態度」は誰がどのように評価するのか、基準が曖昧で不透明である。

学校の先生によっては、授業中の発言回数やノートの綺麗さ、授業中の姿勢など、「私の授業への主体性」として評価している人もいる。

この観点は、「あなたの授業の主体性」ではなく、例えば数学なら「数学に対しての主体性」であるはずだから、たとえ授業中に発言できないとしても、ノートが雑だったとしても、教えられた解き方以外の解法をずっと考えていたりすると、それは「数学に対して主体的に学んでいる」と言えるのではないか。

しかし、現状そのような生徒は主体的として評価されないどころか、「私の教えた通りに解かない不真面目な生徒」として逆に評価を下げられてしまうケースもある。

二次選考の7.4点分にも相当する「主体的観点」が、実に不透明な先生の主観のみで決定されるとしたら恐ろしすぎる。

まとめ


この記事のソースは神奈川県教育委員会の4月臨時会の議案で配布された「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改善方針」という公式文書だが、このnoteを書いている4月27日現在でまだ教育委員会のwebサイトにはアップされていない。

追記:4月28日(木)に県教委のウェブサイトに掲載された。

http://www.pref.kanagawa.jp/documents/24739/kaizenhousin.pdf

改善方針と銘打っているが、面接試験の廃止こそ評価できるが、そのほかは上記で指摘してきた通り問題だらけだ。

一縷の望みは「方針」とあるのでまだ正式決定ではない可能性もわずかながら残されていることだろうか。

ただ、内容に目を通すとほぼ決定事項に近い感じもする。

とにかく現中2生以下は、「主体的観点」の評価獲得に全意識を集中させながら学校生活を送ることと、教育現場に対しては、主体的観点の評価制度の明確な指針の整備を切に求め、久しぶりのnoteの締めくくりとする。




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