10「パイオニアの勇者と、タダ飯食いの愚者」

 文芸書の世界では、時間の流れ方がゆったりしている。好きな作家により半年くらいに前に出版された小説も、新刊本という感じがする。ついこの前ハードカバーで刊行されていたと思っていた本の文庫版が店頭に並べられていたりすると、「もう文庫が出たのか」と驚いたりもするが、ハードカバー版刊行時から二、三年は経(た)っていたりする。本について語られるとき、数百年前に書かれたものから、つい最近書かれたものまで、並列に挙げられたりする。一〇年前に出された小説ですら「つい最近の本」感を覚えてしまったりするし、書いた本人が忘れかけていた作品が、新しい読者によって突然日の目をあびたりする。

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