Regionalligaから3.Liga昇格圏内にあるクラブの現状を調べてみた。

 DFB(ドイツサッカー連盟)が導入したクラブライセンス制度をもとに、Jリーグも2013年から「Jリーグクラブライセンス制度」を実施した。
では、Jリーグが手本としたDFBのクラブライセンス制度とは、どういったものか。2017年にKicke.deに掲載されたウェブページ「Das verlangt die DFL von den Vereinen」、日本語訳で「DFL(ドイツフットボールリーグ機構)の、各クラブへの要求点」には1.Bundesliga、2.Bundesligaに所属する全クラブに、クラブライセンス発行に必要なスタジアムにおいての要求点がスライドショーで簡潔に記されている。
https://www.kicker.de/677925/slideshow/das-verlangt-die-dfl-von-den-vereinen

その内容は、下記のとおり。
・スタジアムの収容人数は少なくとも15,000人。観客席の三分の一に屋根を設置。
・スタジアム照明の光度は、1.Bundesligaの最小照度は1400 lx、2.Bundesligaでは1200 lx。各スタジアムにはバックアップ電源が必要で、これにより、フィールド照明を最小限に抑えながら、停電後少なくとも30分間ゲームを継続できるようになる。
・フェンスは少なくとも2.20メートルの高さが必要。
・スタジアムには、最大20人を収容できる「保護室と拘束室」が必要。
・ロッカールームは、少なくとも6つのシャワーと2つの便座トイレを設置し、室内は40平方メートル以上のサイズが必要。
・レフェリールームは、少なくとも2つの個別のシャワーとトイレを設置し、室内は少なくとも20平方メートルのサイズが必要。
・トイレの設置数は、来場する男性と女性の比率を80:20と仮定し、
女性は125人ごとにひとつの便座トイレを、男性は250人ごとにひとつの便座トイレと125人ごとにひとつの便器を設置。
・座席の幅は少なくとも0.5メートル、背もたれの高さは少なくとも30センチでなければならない。また、座席の列の間には、少なくとも40センチメートルの通路幅が必要。
・交代用ベンチは15人を収容する必要。
・プレスカンファレンスルームは、1.Bundesligaのスタジアムでは少なくとも80人のメディア担当者を収容でき、2.Bundesligaでは40人のメディア担当者を収容できる必要がある。
・記者席は、1.Bundesligaのスタジアムでは50座席が必要で、2.Bundesligaでは少なくとも25座席が必要であり、最も外側の座席は、フィールドの中心線の延長線から35メートルを超えてはならない。

 今季からJ3に昇格したFC今治をはじめ、「Jリーグ百年構想クラブ」に認定されたクラブが、スタジアムの整備や選手・コーチ育成やリクルーティングなど、クラブの地盤強化に手を出したいが、お金がないのが現状ではないだろうか。FC今治においても、新スタジアム建設地は無償貸与されるなど、行政や市民の理解を得なければならないため、何でもかんでも手を出せるわけではない。さらに、少子高齢化や増税に伴う家庭内の収入減など、生活に響く社会問題がサポーターやファンの、スタジアムへ足を運ぶことを鈍化させても不思議ではない。クラブ開発と都市開発、市民の生活は密接に繋がっているというわけだ。
 では、Jリーグがお手本としているドイツサッカー、そのなかの地域リーグ、Regionalligaクラブの昇格にまつわる実態はどういったものだろうか。
 ちなみに、Regionalligaには1.Bundesliga、2.BundesligaのⅡチームが合計18チーム所属しており、3.LigaにはFC Bayern München のⅡチームが所属している。

・Regionalliga West所属、
人口9784人の町にある
SV Rödinghausen。

 紹介するのは、2019/2020シーズンのRegionalliga West前期を首位で折り返した、SV Rödinghausenという小さなクラブだ。
Rödinghausen(上図の赤く囲った地)は人口9784人、面積は 36.27 km2。例として、Dortmundからアクセスする場合、Bieleferdを経由し、約2時間で到着。SV Rödinghausenの本拠地、Häcker-Wiehenstadionには、
Bieren-Rödinghausen駅から徒歩20分のところにある。


 3.Liga昇格条件のひとつに1万1人以上の収容能力のあるスタジアムが必要なのだが、2011年5月にオープンしたSV Rödinghausen本拠地のHäcker-Wiehenstadionの収容人数は2489で、3.Liga基準にまったく届いていない。今季の前期ホームゲーム8試合の平均観客数は1244人となっている。観客席はメインスタンドのみで、ゴール裏はスポンサーの看板で埋め尽くされている。

 また、照明器も最大550 lxと充分とはいえない。記者席やVIPラウンジなど、改修箇所は全てに及ぶものとみられる。
・Häcker-Wiehenstadion概要
https://www.svroedinghausen.de/stadion/haecker-wiehenstadion/

 クラブはパートナー企業からの資金支援をもとにスタジアムの拡張を計画しているようだが、
Alexander Müller(SV Rödinghausenマネージングディレクター)は
「3.Ligaが私たちにとって何を意味するのかを知っています。私たちは長年にわたり堅実なビジネスを行ってきた健全なクラブであり、今後もそのようにとどまりたい」とコメントしている。
 しかし、スタジアム改修が決定したとしても、2020/2021シーズン開幕までに工期が間に合うわけもなく、代わりのスタジアムを使用して、新シーズンを戦うほかない。
 Regionalligaから3.Ligaに昇格するも、スタジアムが3.Ligaライセンス発行に見合わず、ほかのスタジアムを使用してリーグ戦を戦っている例はある。今季で3.Liga昇格二年目、Regionalliga Westに所属していた、KFC Uerdingen 05だ。本拠地Grotenburg Stadionは31,514席の収容力は充分あるのだが、3.Ligaを運営するDFBからは最新の安全性、防火性、脱出経路が要求されているようで、改修に870 Mio. €となるようだ。Grotenburg Stadionは1972年9月にオープンし、改修と拡張をそれぞれ二度、実施している。
本拠地Grotenburg Stadionでのホームゲーム開催ができないKFC Uerdingen 05は、2018/2019シーズンはMSV DuisburgのSchauinsland-reisen-arenaを使用し、今季はFortuna Düsseldorfの本拠地、MERKUR SPIEL-ARENAでホームゲームを開催しているが、その使用料は1.6 Mio. €。来季も引き続き、KFC Uerdingen 05がMERKUR SPIEL-ARENAでのホームゲーム開催を望んでいるようだが、Fortuna Düsseldorfはこれを拒否したいようだ。

 また、同じくRegionalliga Westに所属しているSC Rot-Weiß OberhausenのStadion Niederrheinは、2017年1月にゴール裏スタンドを取壊し、2018年5月に屋根付きスタンドとして完成させた。

 シーズン中でも、スタジアムの一部を改修できる案はあるわけだが、SV RödinghausenのHäcker-Wiehenstadionはメインスタンドにホスピタリティや記者席が全く足りないことから、スタジアムの一部改修では3.Liga基準に達せるわけではない。さらに、3.Ligaライセンス発行申請が2020年3月1日と迫っており、早急の決断を余儀なくされている。
 そしてここで、ひとつの懸念が浮上する。もし、SV Rödinghausenが昇格を嫌ったとすれば、わざと優勝争いから脱落するために、いくつか敗戦をすれば、Regionalliga West全体の順位に関わる。
 シーズン後期再開前のRegionalliga Westの順位表は、首位SV Rödinghausenが19試合消化の勝ち点44、2位SC Verlが17試合消化の勝ち点40、3位Rot-Weiß Essenが18試合消化の勝ち点38、4位SC Rot-Weiß Oberhausenが17試合消化の勝ち点35となっている。
 この上位4クラブのなかで Rot-Weiß Essenは2012年に完成した、2万人越収容のStadion Essenを使用し、3.Liga昇格の基準を一番に満たしている。TransferMarktによれば、2020年1月時点での、Essenが保有するトップチームの選手市場価値はBVB Ⅱに次ぐ、2.98 Mio. €のリーグ2位。今季の前期平均観客数は1,0660人と集客も好調だ。

 このようにドイツでも、昇格をめぐって複雑な事情が絡み合っていることをお届けした。日本サッカー界において、昇格に関するトピックでいえば、四国リーグからJFLに昇格した高知ユナイテッドが、遠征費だけで最大20倍もの経費が掛かるということから、活動予算をかき集めることに苦難していると報道があったが、フロントスタッフが少人数であることから、クラブとリーグの規模がミスマッチしていると言える。
 Alexander Müller(SV Rödinghausenマネージングディレクター)が言う、「3.Ligaが私たちにとって何を意味するのかを知っています。私たちは長年にわたり堅実なビジネスを行ってきた健全なクラブであり、今後もそのようにとどまりたい」というコメントが刺さる。

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