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2018/6 MSV Duisburg 樫本芹菜選手シーズン総括インタビュー 1/3

―6月3日にリーグ戦最終節、FF USV Jena戦(1-0でMSV Duisburgの勝利)にフル出場し、3月18日のSV Werder Bremen戦以来のフル出場でした。
「出れるとは分かっていました。というのも、 最終戦のひとつ前のSC Sand戦(4-0で敗戦)が終わった時点で一部残留が決まったからです。どのゲームのポストゲームカンファレンスか忘れてしまいましたが、監督が『もちろん最後もチームとして3ポイントを取りに行くけど、今季でチームを離れる選手が多いから、その選手にチャンスを与えたい』と言っていたので、チームメイトたちと『(私も)出るよね』みたいな感じでした。もちろんゲームに出る以上、そしてホーム最終戦とあってファンも多く来られるという話だったので、選手として最低限の責任としてしっかり準備をする気持ちはありましたけど、実力で勝ち取ったフル出場ではなかったので、全く満足していません」
:ホーム最終戦の来場者は1092人。

―久々のフル出場ということで、コンディションには問題なかったのでしょうか?
「難しい部分はありました。ゲームに出れていない期間は自主的に走り込んでいましたが、素走りとゲーム中のフィットネスは違うものです。自分はよく走るタイプで、自分の同サイドのサイドバックを務めたキャプテンは走れない方なので、ゲーム中は自分がアップダウンをすることが多かった。サボろうと思えばいくらでもサボれますし、得点した逆サイドの選手はほとんど戻ることはなかった。ただ、自分は攻撃面で自分を出したいと思う反面、チームとしてのバランスを取るために守備にも手を抜きたくないし、自分がいるサイドからやられたなんて嫌です。それでもゲーム終盤は脚が攣りかけていて、自分のドリブルで得たFKも蹴りたかったんですけど、股関節の攣り具合が『蹴ったらヤバイな』と思うほどだったので、譲りました。難しいといえどもこれから先、出場機会が少なくて、それでもいきなり頭から出なきゃいけない中で結果を出さなければいけないし、途中出場で結果を出さなければいけない状況はあると思うので、そういうところをもっと突き詰めてちゃんとした準備方法や段階を確立しなければと思いました」

―一時期、四部リーグを戦うⅡチームで出場していました。髙橋楓姫選手が出場したゲームを観に行ったとき、相手チームの一人にはアスリートとは思えない脂肪のつき方をする選手もいた。芹菜さんから見て、四部リーグで対戦した相手選手の印象はどういったものなのでしょうか。
「レベルとしては草サッカーじゃないですけど、自分のフィットネスやYouTubeでメッシなどのプレーを見て学んだことや課題について取り組むには良いかなぁというレベルです」

―MSV Duisburg Ⅱチームに所属する選手たちは、どういったモチベーションがあると言えるでしょうか。
「あんまりプロチームのアカデミーという感じではないですね。地方の高校サッカー部みたいな雰囲気があるような。 一緒にいた時間は多くはなかったので何とも言えないですけど、それほどハングリー精神ガツガツ持っているわけではないと思います」

―では、トップリーグを戦う選手たちはどういった面持ちでしょうか。代表を目指すドイツ国内、国外選手もいれば、サッカーを続けている舞台がたまたまトップリーグという選手もいると言えるのでしょうか?
「ドイツ人選手はトップリーグで戦っていることにすごい誇りを持っている選手が多いですが、だからといって選手生活に全てを捧げるかといえばそうでもない。びっくりしたことに、Duisburgではタバコを吸っている選手もいます。 ウチはプロ契約ではない選手が多いので、そういう意味でもそういうスタイルでもいられる、妥協しちゃうのかもしれないです。ただ、外国人選手からすればブンデスリーガというのは良いイメージがあるから、どんなものだろうという感じで来ている人もいれば、お金さえある程度もらえればどこででもやれるという人もいたり、それぞれですね」

―Bayern MünchenやVfL Wolfsburgは国内では強豪で、チャンピオンズリーグも常連。明確な目標を掲げているのであれば、お金も出るし、それに相応しいレベルの選手を揃えるのでしょうね。
「選手の中でも、プロ契約じゃないからそこまで求められてもできるわけない、というのはあります。ただ一番びっくりしたのが、それはアリアンツ・ブンデスリーガってリーグの公式球がないことです。お金のあるVfL Wolfsburgの話で言えば、アウェーゲームでの対戦相手のスポンサーに電話して、対戦相手が普段使用するボールを購入して、ボールに慣れるためにそれで練習するんです。それだけ突き詰めている。Bayern Münchenも、相手がどこであろうと選手一人一人の分析をテクニカルスタッフがやっていて、片やウチは『今週はミーティングはいらないか』があったりする。そういう差を知るとチームの中でも、それなりのお金をもらっているのなら高い要求には応えるけど、自分たちはそこまでもらってないのだから、モチベーションになるわけないじゃんと思う人もいるんです。自分は他人と違って、サッカーが上手くなりたい、サッカーをやるのが楽しいからやっているという目的がある。もちろん生きていくうえでお金は必要なので最低限の部分はありますけど、お金がもらえないからモチベーションが低いということに自分はならないですけど、対してチームの中には自分とは反対の空気がある。やりたくない、やれるわけないのか分からないですけど、そんな空気がなかったかと言えば、それは嘘になりますね」

―待遇について、言える範囲でお話ししていただきたいのですが。
「自分は今季はアマチュア契約でした。というのもトライアウトした時点でプレシーズンが始まっていたからです。もともと資金に乏しいチームですし、トライアウトに参加した時点では各選手に払う金額を予算内で振り分けていたので、チームとしては、お金はほとんどなかったんです。だから自分も含めて、後から加入する選手はほとんどもらっていないです。来季についてはプロ契約のオファーはあって、家賃は全額支給、ビザも出してくれる、サッカーに集中できる環境のために必要な額は出す、それに加えて必要だったらもう少しは出せる、というもので、クラブとしては破格のものでした。ただ、自分も含めて今季メンバーの大半がごっそり抜けるので、来季はかなり厳しい戦いになるのではと思っています。個人的に今季はしんどいこともあった中、それを共有してきたチームメイトには思い入れはありますが、Duisburgに帰りたいというほどの思い入れはないのが正直な気持ちです」

―ドイツにはドイツのサッカーがあって、ではその中で日本人選手は自身の特徴を活かせるのか、あるいはチームの中に当てはめてもらえるのか、ということがあると思います。今季ブンデスリーガのピッチに立って、ボール扱いやドリブルといった部分は通用したと言えるのでしょうか。
「今季はドリブルをやらせてもらえる環境にはありませんでした。練習でのミニゲームでもドリブルで抜きまくってゴールを演出したりと、自分の中では普通にできる自信はありました。ただゲームでそれをやらせてもらえない。それをやると『やりすぎだ』と言われる。今季を指揮した監督二人からはいくら練習で魅せて結果に繋がっても、そこを見てもらうことはなく、オプションを取られることはあっても、与えてもらうことはなかった。ドリブルをすればドリブルをするな、真ん中に入れば入るなとか、『やるな』としか言われなかった。自分はドリブルもパスもゴールもアシストも守備も泥臭いプレーなど万遍なくやりたいので、そこでやるなと言われると自分の中でバランスが崩れてしまう、そんな今季でした。ただ、通用するかしないかといえば全然通用すると思います」

―2010年のU-17ワールドカップやその前の自身初の海外遠征でのフランス代表戦で感じた世界との差が、現在はブンデスリーガで通用すると言えるほど差が縮まった、その根拠とは何でしょうか。
「そのワールドカップではそれほどフィジカルの差に愕然とすることはなく、どちらかといえばボールに対して突っ込んでくることです。日本人の一対一は間合いを取って抜かれないようにする守り方じゃないですか。でも、海外はボールに対してガツンと来ます。 当時はその衝撃はあれど、フィジカルが通用しないから筋トレしなきゃ、とは思わなかった。いま思えば、それは間違いなんですけど。でも、フィジカルに差を感じたのはアメリカ留学時代です。最初のころはドリブルできない以前に、ボールがないところでも吹っ飛ばされて、体格差があるからファールを取ってもらえたけど、だんだんと何度も倒されるとファールを取ってもらえなくなる。あるゲームの最悪な時は、相手のチャンスになってゴールを決められることもあった。ハーフタイムに『芹菜、あそこで簡単にやられたから失点した』みたいな感じで言われて、ただその時はコンタクトされた時点で胸部打撲していて完全にファールなんですけど(笑)。でも結局それは自分が弱かったからであって、筋トレしなければと思った。ただドイツは、アメリカ一年目で感じた絶望的なフィジカルの差はないです。アメリカでのトップリーグのゲームを経験していないので何とも言えないですが」

―どちらかと言えば、芹菜さんの方が差を縮めた、ということでしょうか。
「そうですね。チームメイトにも『芹菜の筋肉ヤバイ(笑)』といつも言われるので。比較対象として体重が50kgにギリギリ届かないダニカが挙げられるんですけど、対して自分は56~57kg。開幕前の膝のリハビリをしていたころに、ある動作についてフィジオにも『アメリカ人ってこういうの得意だよね』と言われて、『いや私アメリカ人じゃないですけど』みたいな。チームメイトには典型的な日本人というイメージとは違った印象は残せているのかなと、シーズン前から思っていました」

―ただ日本の一部では、筋トレを嫌う傾向やそもそもコンタクトを避けながら、という意見もあったりする。
「自分も高校時代は『テクニックでかわせばいいじゃん』ていう感じでした。それでアメリカに行ったら、ボーンと吹っ飛ばされて5mくらいコロコロコロと転がっていって『アイツ何してるんだ?!』て笑われて(笑)。『これはかわすどころじゃない、アメフトやってるんじゃないか?』というぐらい衝撃がありました」

―日本で通用することが世界では通用しなくて、ではそれを知らずにいざ海を渡れば手遅れになる部分はあったりすると言えるのでしょうか。
「二年半、日本には帰っていないので現状について何とも言えないですけど、アメリカ時代に一度帰国してインカレ女子サッカーのゲームを観に行きましたが、全然コンタクトがなかった。練習のような、お互い相手を気遣ってプレーしているみたいな印象があった。日本人が海外で成功するための秘訣のひとつとして、怪我をしないことが大事だと思います。ある選手も結局、ドイツでゲーム出場数が少なかったのも怪我が原因だった。筋トレで筋肉増量したとしても、それを使えるようにすることも含めてトレーニングだと思います。筋トレ反対派や苦い思いをした人は結局詰めが甘いだけなんじゃないかなと、個人的に経験した中での印象です」

―女性選手が男性選手より受傷リスクが高いACL(膝前十字靱帯)についてお話ししていただきたいのですが。
「アメリカで学んだことで、ハムストリングはNatural Knee Braceと言われていて、Knee Braceとは膝のサポーターになります。つまりハムストリングは膝の怪我予防に大切な筋肉群であるということです。筋トレ=強くなる、速くなるという要素でもありますけど、それ以上に筋トレは重要な筋肉を鍛えたり、動きのなかで正しいテクニックを学ぶという面で怪我予防にとても有効的な方法だと思います。ACLについてのエピソードで、シーズン開幕前のトレーニングで天然芝から引っかかりやすい人工芝に移った時に、ウォーミングアップメニューでスクワットダウンするモーションがあって、何人かいるうちの飛び出て一人がスクワットしているときに両膝がつま先より前に出てしまう、極端なフォームでやっていた。それを見てチームメイトと『あのフォームを変えなかったら、いつかACLやるかもよ』と言ったその翌日に紅白戦で前十字靭帯と半月板を受傷してしまった。自分はスクワットやランジをする際、膝をつま先から前に出さないことなんて知ってて当たり前くらいの常識だと思っているので、それをブンデスのレベルでそういうことを知らずにいる選手がいることが自分の中で衝撃だったし、そもそもウォーミングアップの段階でフィジオがそこまで注目して見ていないことが謎でもある。正しい知識とテクニックを身につけることで怪我を予防できるのはもちろんのことだと思います」

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keisuke-imachi

Ayrton Senna, Football, Sports Journalism. 2017.8~2018.7 in Germany. ドイツに居た頃の取材活動と、これからのことを記していきます。

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