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🔲 源氏の女性観(夕顔について)「夕顔の巻」3

夕顔が怪死して、49日も過ぎ、秋も深まります。源氏は、精神的にもダメージを受けて家に籠りがちです。夕顔の乳母子で女房だった右近を二条院に匿い、彼女から様々な情報を手に入れることができました。

不可思議な女、夕顔の素性が少しづつはっきりとしてきます。はっきりすればするほど、彼女を失った悲しみが明確になってくるのです。右近の話を聞きながら、ふと源氏は、心の中を語り始めたのです。


「はかなびたるこそ、女はらうたけれ。かしこく、人に靡かぬ、いと、心づきなきわざなり。みづから、はかばかしく、すくよかならぬ心ならひに、女は、たゞ、やはらかに、取りはづして、人にあざむかれぬべきが、さすがに、ものづゝみし、見ん人の心には、従はむなん、あはれにて、我が心のまゝに、とり直して見むに、なつかしくおぼゆべき」 

古典文学大系一 168・169頁


夕顔の頼りなさそうで愛らしい姿、源氏を疑いもなく信頼してゆったりしている様子。源氏は、失ったものの大きさを改めて認識したのです。

今までかかわった女性は、身分も高く、美しく、教養もある、非の打ちどころのない女性ばかりでした。でも、源氏の心は、決して満たされることはありません。

正妻の葵上は、政略結婚を意識しているのか、源氏に打ち解けることはしません。いつも緊張しているので息が詰まるような関係でした。

六条の御息所は、年上の女で、様々な点で源氏はリードされ、教えられているようで気が休まりません。整い過ぎた女に、我が身の至らなさをいつも思わされるような気持ちです。

空蝉は、対等に愛を語るにふさわしい女と思って必死に追いかけるのですが、いつも逃げられてしまいます。頭の回転が速くて源氏にとっては気が抜けない女だったのです。

源氏の生涯の思い人。理想の女性である藤壺は、愛を語り合う最高の方ではあります。しかし、彼女は、父帝の妃ですから心安らかに愛を語るなんていうことはできません。

源氏が、初めて手にして抱きしめた愛おしい女。それが夕顔だったのです。「どこか頼りなく、頭脳明晰ではないが、体全体から気持ちが伝わってくるような女。自己表現はしなくて男に騙されそうだが慎み深く、男の心に従うような親しみやすい女」理想的な女が夕顔だったのです。

令和の人間にとっては違和感を感じざるを得ないような源氏の女性観ですよね。でも、平安時代の高貴な貴族、皇子であった源氏の心の中がとっても良く伺える女性観です。理想の女性像を見つけた時。その女性は、姿を消しているというそのパラドックスが夕顔の巻の底辺を流れていることに留意したいものです。

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