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🔲 不美人といわれる末摘花とは?「末摘花の巻」3



セレブたちが、美しさを競い合う優雅な貴族社会を舞台とする「源氏物語」にはたくさんの美人が登場しています。紫の上・藤壺・桐壺更衣・葵上・夕顔・朧月夜・秋好む中宮・浮舟…

しかし、彼女たちの一人一人について考えると確かなイメージを持つことができないのが不思議です。その容姿など明確に思い出すことができません。これは、私の感想ですが、皆さんはいかがですか。

教養とか優しい思いやりとか従順であるとか趣味が良いとかそういう記述はたくさんありますが、容姿の一つ一つのパーツについての言及はほとんどありません。個性を認めない世の中だったので仕方がないのでしょうか。(現代小説では、書き過ぎと思われるものもありますが)

「源氏物語」には、不美人と思われる女性も何人か登場しています。空蝉・末摘花・明石の上・花散る里などです。中でも代表的な人物は、末摘花です。彼女の不美人さを滑稽に描くために「末摘花の巻」が作られたのではないかと思うほどなんですね。

雪の降る夜、大輔の命婦の手引きで末摘花と一夜を過ごした源氏が、格子をあけて、雪の光の中に末摘花の朝の姿を見た時の様子が次のように語られています。


まづ、居丈の高う、を背長にみえ給ふに、「さればよ」と、胸つぶれぬ。うちつぎて、「あな、かたは」と見ゆる物は、御鼻なりけり。ふと、目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、さきの方すこし垂りて、色づきたる事、ことの外に、うたてあり。色は雪はづかしく白うて、真青に、額つき、こよなうはれたるに、なほ、下がちなる面やうは、大方、おどろおどろしう、長きなるべし。痩せ給へる事、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなど、痛げなるまで、衣のうへまで見ふ。「何に、のこりなう見あらはしつらん」とおもふ物から、珍しきさまのしたれば、さすがに、うち見やられ給ふ。頭つき、髪のかゝりばしも、「美しげにめでたし」とおもひきこゆる人々にも、をさをさ劣るまじゅう、袿の裾にたまりて・・・

古典文学大系一 257頁


源氏が雪の光の中で確認したことを順番に整理すると次のようになります。

1 座高が高く、胴長。

2 鼻が象のように高く長くのびのびとして、その上、先の方が曲がり、赤くなっている。

3 おでこが丸々としている。(俗に言う「おでこ」)

4 顔色が青ざめている。

5 しもぶくれで長い顔

6 痩せていて骨がぎすぎすしている。衣越しに分かる様子。

7 髪はながくふさふさしていて美しい。

8 着物の趣味は古臭くてよくない。

ここまで書くのかと思われるほど微に入り細に入り詳しく書いているんですね。書き過ぎと思ったのかどうか分かりませんが、最後に、髪については最高の賛辞をおくっていいます。

末摘花の姿を絵に書くことはできそうですよね。それほど明確なんです。しかし、美人といわれる方々については、「うつくし」とか「らうたし」などと賛辞の言葉が使われていますが、具体的なものは浮かんできません。

紫式部に道長が言い寄ったとか言う話もありますが、彼女は、どちらかというと不美人の方に属していたのではないかという説があります。明石の上・空蝉が作者の自画像ではなかったかという説です。末摘花の容姿へのこのような描写を読んでいるとわかるような気がします。自分の一つ一つのパーツを吟味したくなる人って、きっと、劣等感に苦しめられていたのではないでしょうか。その苦しみが、末摘花の容貌として表現されたなんて考えたら、考え過ぎなのでしょうか。


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