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ショートショート「七時時計」_107


私の住む町には橋の上に大きな時計がある。

人はそれを「七時時計」と呼ぶ。

毎朝七時のときだけ、1分間音楽が鳴る。夕方5時にチャイムや音楽で子どもたちに家に帰るようお知らせをする町もあるだろう。それの朝バージョンで、毎朝七時に「今日も一日頑張りましょう」の意味を込めて時計が音楽を奏でているらしい。

ちなみに私の町には「七時おばあさん」もいる。毎朝その時計の真下で七時を迎えるのだ。きっとおばあさんにとってはウォーキングを同じ時間におこなって、時計の音楽を聴いて、街行く人とあいさつをしながら家に帰るのが大事なことなんだろうと思う。

そういえば昔、哲学者のカントが散歩をする時間は正確で、街の人はカントを見て時計を合わせたと聞いたことがある。おばあさんはカントの子孫なのだろうか。

そんなおばあさんに通勤途中に会う私も、実は7時前後に橋の上を通り駅に向かうため、自称「ほぼ7時カントおじさん」である(情報過多)。

そんな町のあたりまえが一気に崩れ去った。

まずおばあさんが7時に現れなかった。
そして7時に音楽を奏でる時計がなぜか音楽を奏でなかった。
さらに「そんなはずはない!」と焦る町民、そして焦る町民の私。

後から聞いたのだが、おばあさんは「なにわ男子」に熱中して寝坊をしただけらしい。(これは内緒)

時計が7時を告げていたのか、おばあさんが7時を告げていたのか。
7時になったら音楽を奏でる時計のところにおばあさんがいたのか、おばあさんいるから時計は7時だとわかって音楽を奏でていたのか。

それは誰にもわからない。

今自分たちがとっているバランスは絶妙なものなのかもしれないし、明日になれば今日の当たり前はさようならをしないといけないのかもしれない。

明日も一日頑張りましょう。



読んでくださりありがとうございました。今日は「時計」をキーワードにしました。もう一つのキーワード「時雨」を調べていくと「七時時雨」なるものが世の中にはあるらしく、その「七時」と「時計」を組み合わせてショートショートを作りました。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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