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巣立ち

2022年5月21日午前6時半。
今年就職した長男が研修を終え、我が家から巣立っていった。
赴任先は稚内。


すでに引っ越し荷物は運び終えており、後は着替えなどの手荷物を持っていくだけ。
夜のうちに準備を済ませ、あとは出発を待つばかりという状況だった。

スマホの契約の話をしようと部屋のドアを叩く。
今まではなんとなく成り行きで、俺らのスマホと一緒に支払いをしていたのだ。
それだと逆に気も使うだろうし、自由に電話もできないだろう。

まあ成人してるんだから、そろそろ自分のものは自分で払えってのが本音でもある(笑)

部屋に入ると、いつものようにパソコンの前でyoutubeを見ている。
全く変わらないいつもの日常の風景。
ちょこちょこと契約の話をして戸を締めたが、恐らくこれが「最後の日常の風景」となるのだろう。

明日からはもういないのだ。

そう考えていると、やはり思い出すのは小さな頃の思い出。
数え切れないほどたくさん、一緒に出かけた。

遠出もあったり、近所の公園でもあったり、花火大会であったり。
街へ行ったり、おもちゃ売り場で一緒に遊んだり、空港で飛行機を見たり。
海にも行ったしプールにも行った。キャンプもした。

まだ小さな次男も連れて冒険をして、うっかり道を間違えて山を超えてしまったり、スズメバチに追われながらとんでもなく遠いところまで行ってしまい、住宅街で道に迷って帰ることが出来なくなったこともある。

「もうHPゼロだよ」「俺もだ」

ようやく帰り道がわかったところで安心し、どこかの店の塀のところに座って笑顔を見せる。

ベビーカーをひっくり返してしまって泣かせたり、タバコの火で火傷をさせてしまって泣かせてしまったり、大きな飴を喉に詰まらせて泣いてしまったり。
初めての(お子様用の)ジェットコースターで顔を引き攣らせていたのも、つい昨日のことのように覚えている。


妹が出来た時、一生懸命ベビーカーを押してくれていた。
今では口も聞かなくなってしまったけど。

その妹が歩けるようになって、子供達三人で市電祭りに行った時の写真がずっと、俺のパソコンの壁紙になっている。

だから俺の中ではこの三人は、まだまだずっと子供のままだ。


早朝、ガサガサゴソゴソという音で目が覚めた。
人知れず、長男が出発しようとしていたのだ。誰も起こさずに。

片道6時間半もかかってしまうから、早朝に出ることにしたのだろう。
向こうに着いた後、引越荷物も片付けなければならないのだ。

いつもの出勤のように玄関を出ようとする長男。
だから俺以外の家族は寝たままだ。違和感がなかったから。
きっとみんななんとなく、長男が夕方帰ってくるような気がしてるのかもしれない。

だが、もう長男は帰ってこないのだ。


なんとか起きて、俺だけでも見送ろうとする。
とりあえずトイレに入っていると、ガチャリとドアをあける音が聞こえて慌ててトイレから飛び出した。
長男は手荷物が玄関に引っかかり苦戦していた。なんとか間に合ったようだ。

「がんばれよ」
「うん」
「たまには帰ってこいよ」
「うん」

「いってらっしゃい」

長男はそのまま何も言わず家を出ていった。
この先、俺はまた長男と会うことがあるのだろうか?
なにせこんな身体だし、無茶苦茶な人間でもある。いつ死ぬかもわからない。

もう会えないのかもしれない。


なるほどこれが巣立ちというものなのか。
親になって子を巣立たせて、ようやくぼんやりとその全容がわかった。

バトンタッチを済ませた子供が走り去って、見えなくなっていく。
寂しくもあり、勇ましく、頼もしくもある。

今までは見送られてきたが、ようやく見送れた。

子供のいない方には申し訳ないが、人はやはり『子を見送るため』に生まれ、生きているのだ。他の生物と一緒。
人は何のために生きるのか?の答えが、こんなに簡単だとは思わなかった。


そんな俺も小さく巣立つ。
物書きの場を小説の方へと移行し、ここから巣立つのだ。

もちろん何か書きたいことがあれば、ここに書き留めることもあるだろうけど。
元ギャンブラーのメチャクチャな奴は、違う世界へと旅立つ。そんな話と共に。




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