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02/Mar./2020 ロングフライト・時計・ブルース アトランタ空港

アトランタ。夜の空港、長いコリドー、いつもと少し違った静けさ。ファストフードの匂い。成田からの長いフライトの後、パソコンは受け取った、やれやれなんとか大丈夫だ、と思いながら、ゲインズビルへの乗り換えゲートに向かう途中。あっと思って、ジーンズのポケットを確認したが、時計はあるはずのところにない。入国がスムースに完了してほっとしたのと疲れていたのとで、ポケットの時計を荷物チェックの際に出して、そのまま気付かなかったのだ。

昔、旅の途中スイスのチューリッヒで駅員さんにこれはとても正確な時計なんだと教えてもらってHbfで買った。赤い秒針が気に入って、それ以来、30年くらい使っていた。疲れきった頭で、うーん、たぶん無理だ、諦めよう、ものはいつか壊れるしかたちが無くなるんだ、と思ったけど、いや、もしかしたら、と思い、だめもとで荷物チェックのところに戻った。

検査場は、幸い、さほど混み合っていなかった。南部のブルースミュージシャンのような風貌のおじさんに事情を話した。色の濃い眼鏡の奥。「どんな時計だった?」「銀色のポケット時計、銀色のリーシュがついてるんだ」「OK、調べるからここで待っていてくれ」といった。すぐにいくつかのレーンに行って聞いてくれている。5分くらいして戻ってきた。残念ながら無かったようだ。

「どのレーンでチェックを受けたのかい?」なんとなく場所の雰囲気を覚えていたので、僕は「確かこのレーンだったと思います」と答えた。おじさんは、「OK」といって、高く積み重なったプラスチックのケースを上から一個ずつ見ていってくれている。これはやっぱり見つからないよなあ、誰かがひょいっと持って行ってたらもうないよな、そんなことを考えていた。

積み重なった20個目くらいのベージュのプラスチックのケース。おじさんが僕の銀色の時計をにこやかに持ってきてくれた。「これか?」「おお〜、これです!!」「ラッキーだったな!?」「うん、親切に探してくれて本当にありがとう!」僕は心から礼をいった。

「これから何処にいくんだ?」「ゲインズビルのUFです」「研究だな」「うん、そうです」「良かったな、グッドラック!!」素晴らしく爽やかな笑顔。色の濃いレンズの眼鏡と額の皺。僕は、「本当にありがとう!」ともう一度Johnにお礼をいって、挨拶をして、フレンドリーな検査場を離れた。

空港では大抵、へとへとになることが多いけど、今回、本当に有り難く、こんなこともあるのだなあ。空港のおじさん(心のなかでJohnと呼んでいる:John Lee Hooker )に感謝して、これは、しっかりギターの練習をしろってことだな、なんて思いながら、とても足元が軽くなった感じがして、ゲインズビル行きのゲートに向かった。(05 Mar. 2020 記 / 伊東啓太郎)

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