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美術私手帖

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美術・芸術について
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#ART

化学実験と造形芸術を行き来する/斎藤悠奈個展「うつわの化学式」展@虚屯

規則性のない割れ方。無造作にみえる滲み。 斎藤悠奈の作品は、一見無秩序な要素が多いようにも見える。しかし実はそれが自然の秩序の発見に真正面から取り組んだ結果生まれた作品だということは、よくよく話を聞いてようやくわかる。 2020年7月15日(水)〜21日(火)に虚屯で開催の「うつわの化学式」展は、斎藤にとって人生初の個展。タイトルは、この彼女のオリジナリティを表現するべく付けられたものだ。 出会いは2019年秋。私が愛知県立芸術大学陶磁専攻に非常勤講師として通う中で、当時4

テクノロジーの発展で変わる人間の思考を観た「未来の芸術展」@森美術館

森美術館で開催中の展覧会「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」 を鑑賞。建築に始まり、服飾や医療など人間を取り囲むあらゆるのものがテクノロジーの発達とともにどう作用していくのかな、みたいなことを見通すようなキュレーション。 パッと印象付けられるのはやっぱり人工知能系か。特に面白いと思ったのはゲーム形式のシミュレーション「倫理的自動運転車」(マチュー・ケルビーニ)。あるアクシデントの場面に遭遇する直前に、そこで巻き込まれる人やモノなどあらゆる事

笑った展覧会|「国芳から芳年へ」@福岡市博物館

福岡市博物館の展覧会「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」(2019年11月16日〜12月22日)に行った。久留米市美術館で開催されていた熊谷守一と同じく、これまで印刷物で観る機会はとても多かったけど、作品に直接対峙した経験が少なかったジャンル。ってことで楽しみにしてた。 印刷物で観るのももちろんいいけど、やっぱり生で観るのはいい。ここまで迫力ある印象は持ってなかった。生で観る価値ってすごくある。当たり前かもしれないけど、展覧会に来るたびに改めて感じることの1つだ。 大きなカエル

熊谷守一の展覧会「いのちを見つめて」@久留米市美術館

久留米市美術館で開催している熊谷守一の回顧展「いのちを見つめて」に行ってきました。11月からやってるのに全然知らなくて、慌てて。というのも「1月までやってるし、いつか行こう」と思ってると、結局会期が過ぎているなんてことは少なくない!からです。会期のあるものはすぐ行くことが肝要だし、それができなければすぐスケジュールに組み込む。それができてなくて見逃した展覧会の多いこと。同じ過ちは繰り返したくない。 熊谷守一の作品がすごく好きだった割に生の作品に対峙した経験って少ないよな、印

クリスチャン・ボルタンスキーの展覧会「Life time」@長崎県美術館

クリスチャン・ボルタンスキーの展覧会「Life time」が長崎県美術館で開催されていたので、勇んで行きました。なぜ勇んで行くか。この展覧会は2019年2月から5月まで大阪の国立国際美術館で開催されて、そのあと6月から9月まで東京の国立新美術館で開催されて、そして最後の開催地として10月から2020年1月5日まで長崎市県美術館での開催になってました。それを知った上で、ゴールデンウィークに大阪行った時に行こうとして行けず、東京出張の折に行こうとして行けず「開催中にその近くにいる

愛知県立芸術大学で非常勤講師を務めた話(その5/最終回)

2019年10月から愛知県立芸術大学で務めた講義は、1年生むけに3回、その次に3年生向けに5回行った。大学での講義は初めてで、正直手探りのところも少なくなかったし、反省点ももちろんあるけどそれなりの手応えは掴めたところもある。(やることになった経緯や内容などはそれぞれ、その1、その2、その3、その4で詳しく) 1年生と3年生向けに合計8回行った講義の最後となる8回目は、弊社カラクリワークスの山﨑達樹(=以後、達樹)による、「戦略を考えよう」の授業。ここまでの授業では、社会の

愛知県立芸術大学で非常勤講師を務めた話(その4)

縁あって愛知県立芸術大学で非常勤講師を務めた、その経緯は「その1」で、基本的な内容については「その2」で、作品と社会の接点についての思いは「その3」でそれぞれ詳しく。 今回は1年生と3年生向けに、同じような授業を担当させてもらった。ただ違ったのは1年生が6コマ(2コマ×3週)で、3年生が10コマ(2コマ×5週)だった点だ。「作品と社会の接点」を考えるきっかけとして「マーケットイン/プロダクトアウト」という考え方の授業は、今回担当した1年生向けにも3年生向けにも行った。ただ3

愛知県立芸術大学非常勤講師を務めた話(その3)

熊本の美術予備校で一緒だった友人が准教授をやっている縁もあって、愛知県立芸術大学デザイン・工芸科陶磁専攻の非常勤講師を務めさせていただいた。その経緯については「その1」で、講義内容について「自分が学生時代に聞きたかったこと」を土台にして考えた、という話は「その2」で。 講義内容を考える時、もう1つ頭にあることがあった。それは「作品と社会の接点」について。芸大をはじめとする様々な学校では、「いかにいい作品を作るか」のテクニックやコンセプトの作り方について、かなりの時間を割いて

愛知県立芸術大学非常勤講師を務めた話(その2)

2019年10月から12月まで、愛知県立芸術大学デザイン・工芸科陶磁専攻の非常勤講師を仰せつかった。以前から学校の先生やってみたくて…の経緯は前回に詳しく。テーマは「自分をプロデュースする」。その内容をどうするか、試行錯誤してみた。 「自分が学生時代に聞きたかったこと」で講義を構成したいと思った。つまり「今はそれなりにわかったことだけど、その当時は知らなくて、今となってはできれば早めに知っておきたかったこと」を伝えたい、というコンセプトだ。それは例えば「世に言う仕事ってどう

愛知県立芸術大学非常勤講師を務めた話(その1)

いつの頃からだったか「いつか学校の先生みたいなことをやってみたい」という願望が芽生えていた。まさに漠然と「いつかできればいいな」と思っていたけど、本当に幸運なことに2019年10月から12月にかけて、その機会に恵まれた。大学の非常勤講師を務めさせていただいたのだ。 舞台は、愛知県立芸術大学。「福岡にいるのになぜ愛知で?」と聞かれることは少なくない。誘ってくれたのは、愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科陶磁専攻の、田上准教授。田上先生とは、熊本の美術予備校で浪人している時

1999ベルリン→2019東京

「魂がふるえる」。 このタイトルは、決して大げさではない。森美術館で開催されている「塩田千春展:魂がふるえる」を鑑賞した感想だ。最初の部屋に入った瞬間思わず「あっ」っと声を出した。 塩田さんは1972年生まれ、私は1974年生まれ。ほぼ同世代と言っていい彼女の作品を、1999年のベルリンで観た。その時、私はぼんやりとベルリンで過ごしていて、彼女の作品は美術館に展示されてた(…はず、そう記憶している)。当時、その落差に愕然としながら、また同時に作品のクオリティの高さに驚愕して

京都で新しい視座を得た話

二泊三日の京都大阪旅行は、二泊とも大阪の同じホテルに泊まりながらも、うち二日間はほぼ京都。決して効率的ではないけど、全然乗ったことのない電車で移動する、それだけでも旅の楽しみはあるってもの。ということで、1日目の夜に先斗町を散策した12時間の朝には、再び京都へ。その目的は「KYOTO ART HOSTEL Kumagusuku」での朝食。実はYMT郎くんにお願いして代表の矢津さんをご紹介いただいていたのだった。 大阪・梅田から阪急電車で、阪急大宮駅へ。初めて乗る電車、車内の

『なんていうか、SFっぽい展』の空間でイメチェンにチャレンジした話

展覧会を観た。舞鶴(福岡市中央区)の美容室「今山(イマサン)」で行われている展覧会『なんていうか、SFっぽい展』だ。まめこ・F・まめおさんの個展。以前このお店でまめこ・F・まめおさんが描いた「今山」が登場する漫画を拝見したことがあるけど、今回の展覧会ではその新作や原画などが展示されている。 展示インスタレーションは、奇を衒う感じも既視感もなくて、だけど惹きつけられて心地いい。壁に展示されている作品も、ひとりよがりな印象がなくてすーっと感覚に入ってくる感じ。決して大きな空間で

"カプーア"という文字を見たら、すぐ行動を。

もう去年(2018年)のことだし、もはや気軽に観ることはできないので、「おすすめです」という話ができないのが申し訳ない。遅れてごめん。ただ、振り返って紹介したくなるほど人生にインパクトが与えられた展覧会ではあった。 アニッシュ・カプーアの作品を展示する展覧会「アニッシュ・カプーアin別府」<2018年10月6日(土)〜11月25日(日)>だ。文字通り、カプーアの作品を別府で展示しているんだけど、場所は美術館ではなく別府公園だった。 アニッシュ・カプーアのことを知ったのは19