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愛知県立芸術大学非常勤講師を務めた話(その3)

熊本の美術予備校で一緒だった友人が准教授をやっている縁もあって、愛知県立芸術大学デザイン・工芸科陶磁専攻の非常勤講師を務めさせていただいた。その経緯については「その1」講義内容について「自分が学生時代に聞きたかったこと」を土台にして考えた、という話は「その2」で。

講義内容を考える時、もう1つ頭にあることがあった。それは「作品と社会の接点」について。芸大をはじめとする様々な学校では、「いかにいい作品を作るか」のテクニックやコンセプトの作り方について、かなりの時間を割いている。それは絶対的に必要なことだし、そのための学びの時間だと心から思う。一方で卒業後に「作品は作るけど、それをどう社会にアウトプットすればいいのか」で迷い、悩む人をたくさんみてきた。いい作品を作るけど、世に知られていない人など、この社会に山ほどいる。個人的な体験としても、それを目の当たりにする機会はとても多かった。

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そんな経験から、どうしても盛り込みたい話の1つに「マーケットイン/プロダクトアウト」という考え方があった。講義内容のどこかにこの話は入れたい、と思った。私の感じるところでは、学校で教えるのは「何をどうより良く作るか」が中心。私も芸術学科を卒業しているけど、「いかに作るか」を軸に学んだと思う。それは「作ったモノを世に出す」という「プロダクトアウト」的発想。それはそれでいいんだけど、少しでも「マーケットイン」という考え方を自分の中に持っておくことってもしかしたら役に立つのではないか、と思ったのだ。

乱暴に言えば「プロダクトアウト」は作りたいものを社会に出すこと、「マーケットイン」は社会が求めている/必要としているものを社会に出すこと。アーティストは「マーケットイン」的に作品を作るべし、ということではなくてそういう考え方もある、というのは知っておいてもいいのではないか、と。

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1つの作品が生まれるプロセスには様々な要素が複雑に絡まっている。個人的な欲求や持っている技術だけでなく、歴史的社会的背景とか。それが社会に出て、さらに評価される(いい評価も悪い評価も)時、もっと多くの事情が折り重なる。「いい作品が売れるとは限らない」「売れる作品がいい作品とは限らない」という話はずっとあって、ほんとそうだなと思う。それって「マーケットイン/プロダクトアウト」の考え方で説明がつく部分もあるな、とは思う。

この考え方がそのまま「芸術を学んだ学生が社会でどう生き抜けばいいのか」という問いの解決には全然ならないんだけど。でも市場には良い悪いに関わらずそういう構造があって、その中でバランスとっていくことになりそうってことは伝えておきたかった。

実際やってみると、学生は学生なりの視点で社会をみているし、自分との接点をどう作って行こうか、考えたり悩んだりしている。その中には「そんな切り込み方もあるか」と、こちらの気付きになるようなアプローチもあったし、「もう後は資金調達だけなんじゃない?」っていうくらいにある種の事業計画みたいなものができてる学生さえいた。もちろん一方では、社会に出ることに強い不安を抱え、立ち止まっている学生もいる。いずれにしても総じて、1年生も3年生も、自らの社会との接点をリアルに感じているな、と受け取れた。私自身が同じくらいの年齢だった時のことを思い返すと、遥かにレベルが高い。SNSの影響があるようにも思う。

今回は「社会がどうなっているか」をもう一歩リアルに感じられるのではないかと思い、3年生の授業に追加した講義がある。それはバイヤーさんの視点を知る時間。その話は次回。

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