読書の記録#4 なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか

なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか(宝島社新書) お股ニキ(著)

感想文的色合いが強い

自称、素人野球評論家のお股ニキ氏。ダルビッシュ投手がTwitterで取り上げ、お股ニキ氏の野球論・分析力に目をつけたことで注目度が上がった存在である。野球経験は中学の部活動(途中退部)までという、全く野球関係者ではない一般人の野球好きであるところが面白い。同氏の1作目となる「セイバーメトリクスの落とし穴」はソフトバンク千賀投手も愛読する等プロにもファンがいる状況である。ちなみにセイバーメトリクスとは、野球のデータを統計学的見地から客観的に分析し戦略等を練る手法を意味する。要は、野球は打率や本塁打数はじめとして数字だらけの世界なのでデータを駆使してより効率的に勝ちましょうという話だ。

さて、そんなお股ニキ氏の最新作が本著となるわけだが、感想を一言で率直に言うならば、野球観戦好きで数字にちょっと強い人が書いたブログ記事みたい、という感想になる。

タイトルが興味を引くが、実際の主たる内容は
・最近パリーグが強いことの考察
・メジャーリーグで活躍した(している)人たちは主にこんなタイプの人たちがいるという分類・紹介
の2つである。タイトルへの作者なりの回答は最近パリーグが強いことの考察からの延長線上で、というような構成でサラッと流されている。
後述するがデータの確実性が弱いところがあり、著者が思うこと、感じていること、という内容が主となっている印象を受け、感想文色が強くなっている。言うなれば、私がフィギュアスケートに関する本を書いている、というような感覚だ。

データで訴えるにはサンプルが少なく、根拠として弱い

セイバーメトリクスについての著書があることや、分析力が評価されていること、野球経験が無いこと等から数字による分析に著者が強みを持っていることは明白だが、今作ではそのデータが弱いなと感じさせられるところが多かった。
年間の成績のデータが数年分であったり、サンプルにそもそも恣意的な選択が入っていたり、といった具合である。活躍している選手に絞って分析しているのが大半なので、例えば体重があるほどホームランバッターとして活躍するという結論が出ても、実際には活躍している選手は数名で、体重はかなりあるものの活躍しない選手が山ほどいたとすればデータとしての信憑性は疑問符が付く。そういうデータの脆弱性を感じさせられるシーンが非常に多い作品だった。
当然、意義がある部分もあり、例えば一定以上活躍した選手の中でメジャーでも通用するのは?という見方であればそれなりの納得感の出てくるケースもあるだろう。

活躍しているメジャーリーガーの分類もかなりざっくりと著者の個人的見解で分けているような形であるため、あまりロジカルでは無い。
同じような特徴でも活躍してない選手いるのではないかと思わされる部分もあり、成功事例だけで分析してしまっている部分が多いように見えたのも、データに訴えてると見せかけて感想文になっているという印象を抱いた大きな要因である。
ちなみに、サラッと書いてある本のタイトルへの回答も納得感は薄く、「自分を見出してくれたダルビッシュ投手のことが好きなんだろうなあ…」というような結論に留まってしまっている。

また、平均値等は取っているものの、誤差の範囲に見えるものを差と言っているケースもあり、帰無仮説の検証をしてほしいと思うところも散見された。特に平均球速のくだりは、「その考察だと結局セリーグとパリーグで特に差が無いという話になるのでは…?」となるような話になってしまっており、データと印象の区別が曖昧になっているように見られた。

面白かった監督の采配力の評価

ここまでやや否定的な意見を多く記載してしまったが、面白い分析もあった。監督の采配力を数字で評価してみよう、という試みだ。
その数字の出し方で良いのか?という話や、著作内で本人も言っているように中継ぎが良いチームほど良い数字が出がちな指標の設定の仕方であるという問題点はたしかにあるのだが、采配という極めて感覚的で評価しづらいものを数字で表現してみようと試みているのが非常に面白かった。分析自体はデータを出した割に感覚的、というのは他の分析に似たもので個人的には納得感に欠けたが、データ集として興味深いものだった。
惜しむらくは、数年分しかデータの取れない指標を使った分析だったため、こちらもサンプル数には欠けるというところ。V9時代の巨人(=川上監督。巨人が9連覇した時代の意)等も分析出来ればかなり面白い(というかそちらを前面に押し出した本にしてほしいくらい)と思うのだが、現実的にそこまで遡ることが出来ない指標を使っているためサンプル数が極めて限定的になってしまっているところが本当に惜しまれる。非常に面白い目線で取り掛かった章だったと思う。

野球をよく見る人向けの本

この本をオススメするとすれば、
①野球をよく見る
②一通りの変化球を知っていて、テレビで観た時の軌道もイメージできる
③セイバーメトリクスでよく用いられる指標もざっくりと知っている
という①~③を全て満たす人である。

序盤から野球を知らないとついていけない用語が当たり前のように使われるので、野球を知らない人が読むと序盤で挫ける可能性が高いように思う。
幸い、私は①~③を満たしている生粋の西武ライオンズファンなのですんなりと入っていけたが、野球に興味持ち始めたからTwitterでも人気なフランクな感じの人の文章を読んでみよう!というノリで読み始めるには少しハードルが高いかもしれない。

生憎自分に統計学の知識があったため分析手法等には自分なりにこうすべきというものがあるため穿った見方をしてしまったかもしれないが、そうでない人には分析も違和感無く写るのかもしれない。
帯に書いてある「データで本格検証!」を期待すると物足りない作品であったが、一野球ファンの一意見として読む分には相応に面白い内容であった。

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