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大人にもお子ちゃまな休日を

 マキナさんと私で、たまたま公園を一緒にお散歩していた時のこと。湿った草原のベンチ下にキノコを見つけた私たちは、そのまま毒キノコの話に話題が発展し、私達はキノコ探し大会を行っている真っ最中だった。
 彼は私と同様、もう三十路を過ぎた立派な大人で、友達にやれ結婚だのやれ転勤だので、勝手に置いてけぼりを食らった同盟を結成した貴重な独身友達である。

 キノコ探しをひとしきり堪能した後、マキナさんは急につぶやいた。
「そういえば、寝る前にコーヒーを飲んでも睡眠の邪魔をしないって、知ってましたか?」
そんな事がまかり通ってしまったら、世に出回っている翼を授けるドリンク達の効果を否定しかねないけど、大丈夫かマキナさん!?って思いながら口を挟む私。
「えっ、それは流石に無いんじゃないですか?ソレ言い出したら今までのノンカフェインコーヒーの存在意義よってなっちゃいますよ。」
「ノンカフェインコーヒーはまた用途が別だから、市場で喧嘩する事はないんじゃないかな。」
それもそうか。っていうか毒キノコどこにいった。

 しばらく散策をすると、私達は公園の中央付近にまでたどり着いていた。中央には小さな植物園の棟が完備されている。ここでは季節毎に違った鉢植えの植物達が育てられており、かねてから私達のお気に入りの休憩スポットになっていた。

 いろとりどりの花々を眺めながら、私はふと、本屋の歴史書コーナーで見つけた『思考具現化マシン』の事を思い出した。
 絶妙なオーロラ色のヒラヒラしたお花に夢中なマキナさんに、私は横から語りかけた。
「品種改良されたお花には、2種類あるらしいんです。人の手で交配や土壌整備をして種から育てられた花と、ある道具を利用して生み出されたものと。まぁ片方はもう何十年も昔の話ですし、その道具の利用自体がすでに禁忌とされているらしいんですけどね。」
 私達はオーロラ色のヒラヒラしたお花に、一緒に惚れ込んでいた。とても芸術的で存在感のある花。まるでおとぎ話の世界に登場しそうな風貌で、どこか哀愁漂う雰囲気を醸し出していた。
 「この花みたいに、私も誰かに、一途に惚れ込まれてみたいな。」
ずっと黙っているつもりだった思考が、不意に漏れ出てしまった。どうかマキナさんには届いていませんように。
 気がついたら私の肩には、マキナさんの手がそっと添えられていた。大きくて、温かい手。ずるいな、と思ったけど、少しだけ嬉しかった。

 風が強くなってきた。飛ばされてきたタンポポの綿毛が、楽しそうに、辺り一面を舞って、私達を包み込んでいた。


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