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心肺蘇生時の薬剤投与後に上肢を挙上すべきか?

心肺蘇生の講習会では、心肺停止時に末梢静脈から投与した薬剤は20mLの生理食塩水か5%ブドウ糖でフラッシュ(後押しと呼びます)し、点滴が入った四肢(腕のことが多いですね)を10−20秒挙上するように教わります。
しかし、私は現場でやったことがありません。他の人に聞いても同じでした。

結論を先に書くと、

「薬剤投与後に点滴が入った四肢を挙上しても、しなくても良い」

と言うことになります。

ガイドライン(アメリカ心臓協会、ヨーロッパ蘇生協議会、日本蘇生協議会)を調べたところ、私には記載を見つけられませんでした。しかし、教科書にはやるように記載があります。

例えば、救急蘇生法の指針2020ー医療従事者用ーのP.61には以下のようにあります。文献は探したのですが、ありませんでした。

「末梢静脈路からの薬物投与では、薬物投与後は20mLの輸液で後押し、あるいは輸液を最大速度で滴下(いわゆる全開投与)する。到達を助ける目的で投与側の肢を10〜20秒間持ち上げる。」

ACLSプロパイダーマニュアル(英語版)P.128には以下のようにあります。

Give the drug by bolus injection unless otherwise specified.
Follow with a 20-mL bolus of IV fluid.
Elevate the extremity for about 10 to 20 seconds to help deliver the drug to the central circulation.

日本語に意訳すると以下のようになります。
薬剤はボーラス投与する(ゆっくり投与すべきでなければ)。ボーラス投与とは、ぴゅーっと注射器を押して薬を入れることです。
引き続き20mLの輸液をボーラス投与する。
四肢を10から20秒挙上し、薬剤が中心循環に到達するのを助ける。

これについてグーグル先生に聞いたところ、以下の文献が見つかりました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/16/1/16_1_95/_pdf

この文献の説明によれば、後押し、上肢挙上を行うべきという根拠が不明だと言うことです。よって、後押し上肢挙上をやるべきだとまでは言えず、どちらでも良いと言うことになります。やってはいけないというエビデンスもありませんので。

胸骨圧迫中は、動脈にも静脈にも圧力がかかるため、下半身や四肢には血流がない可能性があります。頚静脈には逆流防止弁がついているため、動脈圧が脳に行くのですが、静脈圧は頚部でブロックされ、動脈と静脈の圧の差が生まれるため、脳への血流はあるとされています。
よって、心肺蘇生中は、点滴が入っている部位の血流が少ないため、後押しは必要だと思います。しかし、腕を挙上してもあまり意味はないのではないかと個人的には思います。閉鎖された回路に薬剤を注入し、たかが20秒程度高くしたからといって薬剤が下の方に早く移動するとは思えません。

私が1年目研修医だった1992年に茅ヶ崎徳洲会病院で受講したACLSコースでは、後押しは50mLだったような。ま、どちらでも良いですが。

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