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育休明け、「リモートワーク可・理解あるベンチャー企業の管理職」が「出社前提のレガシー企業」よりも、案外しんどかった話。

週の半分以上はリモートワーク、理解あるメンバー、フレックス制度、ベンチャー企業特有のオープンな雰囲気……一見、「育児と仕事の両立? この環境なら余裕っしょ!」と思える職場で感じたしんどさ、30代前半・育休復帰後半年・1歳児育児中というステータスで転職に踏み切った理由を語ってみます。

「リモートワーク(在宅勤務)できなくて大変」
「職場の理解がなくて、子どもの体調不良で休むのがしんどい」
「若い人が少ない職場で、なかなか相談しづらい」

SNSのワーママアカウントを見ていると、こんな声が散見される。

お迎えや熱のときの呼び出しの際に、タイミングがよければ10分程度で移動できる在宅勤務は、たしかに強い。夕方、なんなら職種によってはようやく自分の業務ができる!という時間帯に、保育園のお迎えで……とフロアから逃げ出すように退勤する心苦しさは、たぶん体験した人にしか分からない。

子どもの体調不良、それは1日2日ではない……ということを、私は子どもを産んで初めて知った。独身時代は、下手すれば10日近く出社できないというかつての同僚に「いいなぁゆっくり休めて」と思ったことも正直ある。
育児ウォーリアーの皆様にとっては周知の事実だろうが、保育園の登園基準は厳しく、また、治りかけで元気にも関わらず、家から出られずに体力を持て余した子どもの世話は想像を絶するハードさだ。そして、そうこうしているうちに子どもから親へとうつされる風邪は、とんでもなく症状が重い。

育児に限った話ではないけれど、確かに若い世代の人の方がお互いのバックボーンに対する理解は柔軟かもしれない。必ずしも、上の世代は理解がない、とは思わないが、「一枚岩となって」のスタンスが当たり前だった昭和・平成初期の価値観と、令和の価値観に大きなギャップがあることは確かだ。

私は、「THE 働きやすい環境」のベンチャー企業で、それなりに裁量を持った管理職として働き、当然のように育休から復帰した。大変だろうけど、これだけ制度が整っていればどうにでもなるのだろうと、育児と仕事の両立への不安はあまり抱いていなかった。ステータスは、下記のとおり。

・週の半分以上はリモートワーク。出社日も、必要があれば当日連絡でリモートに切り替え可能。
・業務さえ完遂できれば、中抜けも自由。
・社内チャットをはじめとするオンラインでのやり取りがコロナ禍前から根付いていたため、出社せずとも仕事に支障は全くない。
・若いメンバーが多く、また自分が管理職のため、休みの際に気兼ねする必要がない。

……が、復帰してみると、これらの条件がかえってしんどかった……リモートワークができる、という理由でベンチャー企業への転職を考えるワーママさんは多いらしいので、言わずもがなのメリット以外に、「人によってはこんなデメリットもあるよ」という話を伝えたい。

※あくまでも、(あまり優秀じゃない)私が私の元職場で感じた話です。属人的な要素が大きいという前提で、一例としてお読みください。

①リモワだと掴みにくい。「初めまして」の仕事と、現場の空気感。

私はほぼ1年程度の産休~育休を取得したが、ベンチャー企業における1年の変化は著しい。幸いチームメンバーの編成には変化がなかったものの、上司が変わってKPIや業務フローに軌道修正が入ったり、新しい部署が増えていたり、社員が10人くらい辞めていたり(そして入ってきたり)、業務そのものは変わらないものの、環境的には転職に近いくらい、変化を感じていた。

ただでさえ「お久しぶり!」なメンバーと、「初めまして!」になる業務、他部署のメンバー、そして上司……
たまにの出社で顔を合わせるとはいえ、日々の業務に追われながら、現場の空気を読み、コミュニケーションを深め、新しい仕事にコミットし、つつがなくマネジメントを行う……リモート中心の働き方で。

無理。無理よ。
誰が何考えてるか、分からない。
去年はあんなにもポワポワしてた新卒のあの子、いつの間にかすんげー強かな顔になってるよ。作画変わった?
上司は、前任とキャラクターが違い過ぎて、1on1でも本音が言えない。

個人的にはリモートワークはコロナ禍がもたらした最高の副産物だと思うし、プライベートや個人の生活を豊かに育むためには欠かせない制度だと確信している。
だけど、ちょっと顔を合わせて「もしかしてあの案件で悩んでいるのかな」「プロジェクト順調だからかな、機嫌よさげ」「相談したいことがあるからランチ誘ってみよ」と思えることや、会話によるコミュニケーションが生み出すものの価値は、計り知れない。「久しぶり」「初めまして」なメンバーにとっては、なおさら。
仕事への直接的な打撃はなくとも、小さなやりとりの齟齬の積み重ねは、生産性を低下させる。

さらに、管理職となるとこれは致命的なダメージにもなりうる。
現場への理解やコミュニケーションがまだ不完全なタイミングでも、評価と決断をしなければならない。
これは、わりと大きなストレスだと思う。

育児との両立の上で、リモートワークは必須の制度であることは間違いない。だけど、その弊害も無視できないし、場合によってはスムーズな職場復帰の妨げにもなるというのが、個人的な体感だった。

転職した今は、なんと!ほぼほぼ毎日出社している。
満員電車にはうんざりするし、朝の支度の大変さったらないんだけれど、すぐに相談できる環境、同僚とのランチタイムや昼休みのお散歩は、意外にも癒される。
そのかわり、極力定時にはあがれるように早めに出勤し、子関連の用事が入ったときにはリモートワークを申請したり、フレックス制度を活用させてもらっている。
そして、終業したら(会社を出たら)なるべく仕事をしない。
公私の切り替えがスムーズになり、家で過ごす時間をよりリラックスして楽しめるようになったのは、意外な発見だった。

②年齢の多様性は、強い。ヘルパンギーナを知らない20代~もはや介護している50代

若いメンバーが多いから、なんとなく言語が共有しやすくて、働きやすい。
老舗企業からベンチャーにうつってきて、まず最初に感じたことでもある。

過干渉でも放置でもなく、ほどよい距離感で、お互いのプライベートを尊重し合いながら働けるのはとても心地よく、育休復帰直後は子どもの体調不良で多大な迷惑をかけたものの、「気にしないで大丈夫ですよー」「●日ライブ行くんで、かわりにこの作業お願いできれば!」そんなフランクなメンバーたちに、ずいぶんと救われた。だから、こんなことを言うのは、ただのわがままだと自覚している。

自分が最年長であるという状態は、一般的に、ライフイベントを先に経験することが多く、ときに苦しい。
何度も体調を崩す子ども、風邪をうつされながらも看病をして、寝かしつけた後に残業して。
ようやくベッドに入れたと思ったら、夜泣き。気が付いたら日が昇っている……
そんな絶望の朝、飲んでもないのに二日酔いのときみたいな頭痛と吐き気に見舞われ、「もう全部やめたい」「仕事なんて知るかよ」「眠りたい」と、自覚なしに涙がだらだらと流れていたとき。

少なくとも私には、弱音を吐ける相手は、職場にいなかった。

成果主義の新しい上司は年下の男性で、話せばきっと寄り添ってはくれるけど、ただでさえ望む成果をあげられていない今、期待を裏切りたくない。
後輩たちに、こんなボロボロでモチベーションの低い姿を見られたくない。もしかしたら訪れるかもしれない似たような未来を、不安に感じてほしくない。
他部署にはワーママの同僚もいたけれど、社内チャットでいきなり話しかけられるほどの関係性ではないし、彼女自身だって忙しいだろう。

周囲と、相談できるような関係性を保つことをさぼっていた自分のせいでもある。多分、育児以外にも、プライベートでの悩みを抱えながら働いている人は多い。自分が先に心を開けば、つながれた人もいるだろう。

だけど、もしすぐ近くに話せる相手がいたら?
今年2度目のヘルパンギーナだよ信じらんないって、おもいっきりため息をつけるような場所があったら、息を吐ききって、それから深呼吸ができたかもしれない。

世代で区切りたいわけではなくて
育児をしたり、介護をしたり、受験の伴走に悩んだり、そういったライフイベントを先に経験して戦っている「人生の先輩」が近くにいる今は、前の職場では感じられなかった心理的な安全性が得られているな、と感じる。

「1歳半? うにゃうにゃ言ってて可愛い頃かな?」
「小学校あがるタイミングは大変だよ~」
「インフルの予防接種は絶対打っておいた方がいいからね」
たわいもない会話のやり取りで、あぁ、育児をしながらここに座っていいんだ、大変って言ってもいいんだ、と心がほぐれていくようだった。

若い人=共感してもらえない、わけではない。みんな理解を示してくれて、助けてくれた。育児を経験し終えたゆえに「なんでできないの」と言う人だっている。だから、一概に言うのは危険だけれど、あらゆる意味で「経験者」の存在は、心強いものだ。
チーム内に年齢のバリエーションがあることは、悪いことじゃない。仕事以外では関わることの少ない世代の人と出会える職場は、とても貴重な場所なんだとしみじみ感じた。

③怠け者と思われる怖さ。ベンチャーの正しさに、少し疲れた。

以前の職場は、とにかくスピード重視・裁量多めの現場。
自ら仕事をつくっていく、という考えのメンバーが多く、逆に言えば、主体的に動こう、周囲を巻き込もうという明確な意志がなければ、置いてけぼりになりやすい環境でもあった。

これは、育休復帰間もないメンバーにとっては、なかなか相性の分かれる文化かな、と思っている。
自ら仕事をつくって自走できる優秀なメンバーは、組織(というか社会)にとって非常にありがたい存在だし、イノベーションを起こすのはそういうマインドをもつ人なんだな……と、世の中で活躍する人を見ていて思う。
でも、人生にはさまざまなタイミングがある。

家庭の事情、いや、別に趣味だっていい。
なんらかの理由で、少し業務量や、スピード感を調整したいときは絶対にあると思う。

ベンチャー企業の多く(一社しか経験していないので、妄想ですみません!)は、仕事の量・幅ともに大きく、スピード感のある対応が求められ、個人の働きに業務の成果が大きく左右されやすい。たぶん。
そういった前提を共有している仲間たちが一丸となってゴールに向かって走り出す中、「育児」という理由で、横をチラチラと見ながらずるずると走る私は、ついていくだけで必死だった。以前よりも仕事にかける時間が減ったことも、モチベーションが落ちた怠け者だと思われないかが怖かった。
※なんだかベンチャーの間違ったイメージにつながりそうだけど、私自身が被害妄想でそう感じてしまったというだけで、会社の考え方としては多様性に理解があるところが多いと思います。

一方で、転職先の企業は、ベンチャーほどのスピード感はなく、それなりに社内政治も必要だし、縦のレポートラインがしっかりしている。
意思決定に時間がかかるのは、ビジネス上はいいことではないのかもしれないけど、速さ以外の要素が必要とされる世界観では、必ずしも猛烈に働くことだけが有意ではない。
レポートラインがしっかりしていることは、過干渉にもつながりかねない半面、急な休みや中抜けが発生しやすい子持ちにとっては、安心にもつながる。

自分で決めて忙しく動いていた過去の自分と比べると、今はだいぶ違う働き方で、これでいいのかな……という気持ちもある。
だけど、「今」の自分にとっては、レガシーな環境下におかれたほうが働きやすいし、仕事以外にも時間を奪われる機会が多い「ワーママ」として転職したのだから、せめて短い時間で最大のパフォーマンスを出せるように工夫しよう、何ができるだろう……と、別の方向に意識をむけられる。(それを前の会社でやれよ、という人もいるだろうが、私がいた組織ではそんな余裕はなかった)

前の会社で働かせてもらったことは、自分の人生にとってかけがえのない経験で、今の仕事の礎になっていると実感している。
人生にはいろいろなイベントがあるように、働き方にもいろいろなバリエーションがあって、それらに優劣はない。ばらばらな個人が組織を構成するから生まれるものもあるんだと、甘えかもしれないけど信じられるようになったことが、転職して見えた「希望」のひとつだ。



……というように、出産前には予想だにしなかった、労働環境への評価。
自分の感想をまとめると、制度は整っている方がいいけれど、それと同じくらい「孤独を感じない」環境であることが必要だったのかなと思う。

たまたま、ベンチャー→レガシーと、かなりタイプの異なる組織に転職したから、それに紐づいた内容にしてしまったけれど
本質的には、相互理解・共感・顔のみえるコミュニケーションがあれば、一時離脱していた人も戻りやすい土壌ができるのかな?と実感したワーママ転職でした。
(ちなみに、年収も100万ほどアップ(やったね)して、今は会社に早く還元せねばと焦っている)

働いて、幼児を育てながらの転職活動はなかなかハードだけれど
「逃げ」だとか、罪悪感を感じずに、
全ての人が、自分に合った環境で、能力を発揮できる社会になればいいなと、ありきたりなコモンセンスで締めさせていただきます。

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