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【肉好き猟師必見】生肉・生レバーは厳禁! E型肝炎ウイルスから身を守る

本稿は『けもの道 2017秋号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

はじめに

文|前田健 山口大学共同獣医学部教授

2003年に兵庫県でシカ肉を食べた4名がE型肝炎を発症し、シカ肉から検出されたウイルスと、患者から検出されたウイルスが一致したことから、シカ肉が原因であると証明された。

これにより当時はシカが注目されることになったが、調査が進むにつれて、E型肝炎の主な原因は豚やイノシシであることが判明して来た。

これまでの野生動物肉から由来する食品媒介感染症の原因の多くは細菌や寄生虫であったため、「凍らせれば大丈夫」「薄く切れば大丈夫」という考えがあったのは事実であるが、その考えは間違いである。

E型肝炎ウイルスは非常に強いウイルスのため、凍らせてもウイルスが不活化することはない。ただし、不必要に恐れることはない。

E型肝炎ウイルス感染を防ぐためには、肉にしっかり火を通すことである。そして狩猟者はもう一点注意していただきたい。それは、解体の際の手袋の着用である。

以下、本稿ではE型肝炎に関する詳細を紹介する。


E型肝炎とは

E型肝炎は、A型肝炎(海産物などから感染:流行性肝炎)やB型肝炎(性行為や血液によって感染:血清肝炎)などしか知られていなかった時代は、「非A非Bウイルス性肝炎」と呼ばれていた。その後、C型肝炎、D型肝炎と相次ぎ、さらにE型肝炎の発見となった。

1999年には急性ウイルス性肝炎の一部として指定され、当時、E型肝炎は上下水道のインフラが整っていない国々で大規模な流行を起こしており、飲み水などを介した感染および開発途上国での感染として理解されていた。

世界保健機関(WHO)の報告では、世界中で2,000万人が感染し、330万人が急性E型炎を発症、56,600人がE型肝炎に関連して死亡している。その多くが開発途上国で発生している。

E型肝炎は食品を介して感染

2003年以前、E型肝炎は食肉を介して感染するという理解はされていなかった。国内でも発生はあったが、多くが海外で感染したと理解されていた。

しかし冒頭のとおり、2003年に兵庫県で4名のE型肝炎患者が発生し、患者が食べたシカ肉から患者と同じウイルスが検出されたことから、E型肝炎は食品媒介性感染症として認識され、国内では感染症法の4類感染症として指定された。

図1では国内での患者報告数を示しているが、急激に患者報告数が増加している。この急激な増加は、牛レバー、豚肉、豚レバーの生食が禁止されたため、イノシシ肉やイノシシのレバーの生食をする人が増えたため、とも言われている。

E型肝炎の感染源

E型肝炎の国内感染例の主な原因は、豚肉、次いでイノシシ肉、シカ肉である。豚肉は原因が判明したものの約半数、イノシシ肉は約4分の1、シカ肉は7分の1となっている(図2)。

E型肝炎の感染源の特定が難しい理由は、潜伏期間が約6週間であることが大きい。すなわち、E型肝炎ウイルスに汚染した食品を食べてから、症状が出るまで6週間かかるのである。6週間前の食品を特定するのは極めて困難である。

E型肝炎の感染事例

E型肝炎の原因となる食品の特定は難しいが、原因が特定された感染事例を表1にあげた。

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