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【地図にない未承認国家?】沿ドニエストル共和国(モルドバ🇲🇩)

沿ドニエストル共和国をご存知でしょうか?

国際的には認められていない、いわゆる未承認国家です。
サムネイル画像は同国内にあるレーニン像です。
(By Adam Jones from Kelowna, BC, Canada - Lenin Statue on 25 Oktober Street - Tiraspol - Transnistria, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64108793


沿ドニエストル共和国の中心部
By Донор - Own work, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=21009625

沿ドニエストル共和国はモルドバの東部にあり、東側はウクライナと接しています。
モルドバを南北に流れるドニエストル川の東岸にあり、川に沿った形をしており、縦長の形をしています。

沿ドニエストル共和国の位置
By TUBS - This vector image includes elements that have
been taken or adapted from this file:, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16040317

未承認国家と聞くと、どんなイメージでしょうか?

危険?怖い?無法地帯?何が起こるか分からない…など、ネガティブなイメージが多いかもしれません。

僕もそのようなイメージも無くはないです。
しかし、なぜこのようになっているのか、どのような場所なのか、どんな人たちがいるのか、純粋に知りたいという思いの方が強いです。

政治問題、民族問題、歴史など、複雑な背景があって今に至っているのだと思います。

この記事に政治的な意図などは無いです。
未知なことが多い沿ドニエストル共和国について、ただ純粋に知りたくて調べたことを書きました。

ご興味ある方は読んでいただけると嬉しいです。


沿ドニエストル共和国とは

沿ドニエストル共和国は国際的にはモルドバ共和国内にある未承認の国家です。

沿ドニエストル共和国には、いくつか呼び方があります。

日本:沿ドニエストル共和国
欧米など:Transnistria(トランスニストリア)
現地:Pridnestrovie(プリドネストロヴィエ)
正式:Pridnestrovie Moldavian Republic (PMR)

モルドバ政府はこの地域に対して、特別な法的地位を有する行政区画を設置しています。

その公式名称は
ドニエストル左岸行政区画(The Administrative- Territorial Units of the Left Bank of the Dniester)です。

未承認国家(=国際的には存在しない国)であるため、Googleマップで『沿ドニエストル共和国』や『Transnistria』と検索しても、大体の場所しか表示されません。
上記の特別区画が表示されますが、場所は明確に表示されないです。

場所は概ね、ドニエストル川の左岸(川の東側)です。

赤い部分が沿ドニエストル共和国、黄色はモルドバ
By TUBS - This vector image includes elements that have been taken or adapted from this file:, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16028465

沿ドニエストル共和国の首都はチラスポリ(Tiraspol)です。
Googleマップでチラスポリと検索すると、場所が表示されます。

以下は沿ドニエストル共和国の基本情報です。

国際的には存在しないとされる国ですが、沿ドニエストル共和国には以下が定められています。

・国境(入出国審査もあります)
・国旗、紋章
・憲法
・政府、議会
・大統領
・警察
・通貨(同地域のみで使用可能)
・公用語(ロシア語、モルドバ語、ウクライナ語)
・パスポート

ソ連の国旗にあった『鎌と槌』が国旗に使われている国は、現在沿ドニエストル共和国のみです。

沿ドニエストル共和国の国旗

沿ドニエストル共和国には独自のパスポートがありますが、国民は通常、ロシア、モルドバ、ウクライナなどを含めた2〜3の市民権を持っているそうです。
その理由は外国に行く際、沿ドニエストル共和国のパスポートでは他国に入国できないので、いずれかの国のパスポートを使用するためです。

沿ドニエストル共和国には『トランスニストリアン・ルーブル』という独自通貨があります。
コインは硬貨ではなく複合材料(プラスチック)で出来ているそうです。通貨に複合材料を使用したのは同国が初めてなのだそうです。

5 トランスニストリアン・ルーブル

モルドバは沿ドニエストル共和国を認めていないので、モルドバ側でトランスニストリアン・ルーブルへの両替はできません。


国際法で国家の資格要件を定めたモンテビデオ条約(1933年)によると、国家の資格要件は以下4点です。

①永久的な住民
②明確な領域
③政府
④他国との関係を持つ能力

この要件について、沿ドニエストル共和国は④が不足しているということになるでしょうか。

一応、沿ドニエストル共和国を承認している国が3カ国あります。以下がその3カ国です。

・アブハジア
・南オセチア
・アルツァフ(ナゴルノ=カラバフ;紛争中でしたが、アゼルバイジャンの勝利により2023年に事実上消滅)

ですが、この3カ国も未承認国家です。
沿ドニエストル共和国はロシアの支援を受けていますが、ロシアからも承認はされていません。

未承認国家になった経緯

この地域は中世の頃、支配する国が何度か変わりました。その後、南部が1792年、北部が1793年にロシア帝国の支配下となり、しばらくロシア帝国の支配が続きます。

ソビエト連邦が設立後、この地域はウクライナ・ソビエト社会主義共和国(ウクライナSSR)の一部になりました。
その後1924年、この地域はウクライナSSR内の『モルダヴィア自治ソビエト社会主義共和国(モルダヴィアASSR)となります。

これが沿ドニエストル共和国の地政学的な原形となります。

オレンジ色がモルダヴィアASSR。その右側はウクライナSSR。
黄色はルーマニア王国で、北東部がベッサラビア地域です。

第二次世界大戦中の1940年、ソ連はモルダヴィアASSRを解散し、ルーマニアから取得したベッサラビア(概ね、現モルドバ共和国)を加えて、新たにモルダヴィア・ソビエト社会主義共和国(モルダヴィアSSR)を設立しました。

なので元々、沿ドニエストル共和国と現在のモルドバ共和国は別々の国でした。

上と同じ図です。オレンジのモルダヴィアASSRと、
ベッサラビアのオレンジの点線から右側の部分が合体してモルダヴィアSSRになります。

その後、冷戦中はモルダヴィアSSRとして存在していました。

1980年代後半にソ連内各地で民族意識が高まり、ソ連崩壊へと進みます。

元々はルーマニア領であったベッサラビア地域(現モルドバ)は、ルーマニアとの再統合または独立を望みました。

一方、ドニエストル川東岸のロシア系住民(沿ドニエストル共和国の地域)は、ソ連に留まることを望みました。

ルーマニアとの再統合に反対するドニエストル川東岸のロシア系住民は、1990年9月2日に『沿ドニエストル共和国』としてモルダヴィアSSRからの独立を宣言しました。

沿ドニエストル共和国が未承認国家になったのはこの時からです。
その後、モルドバと沿ドニエストル共和国で独立を巡り、軍事紛争が起こります。

この紛争はロシアの支援を受けた沿ドニエストル共和国側が勝利しました。1992年に停戦合意がなされ、事実上の独立が維持された今の形となりました。


見どころ

沿ドニエストル共和国の見どころは、主に事実上の首都チラスポリにあります。

大統領府とレーニン像

10月25日通りに沿ドニエストル共和国の大統領府があります。
その建物の前にレーニン像があり、チラスポリの必見スポットになっています。

大統領府とレーニン像
By Донор - Own work, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=27580045

建物の屋上にはソ連の赤い星とともに、沿ドニエストル共和国の旗が掲げられているそうです。

大統領府は一般公開されていないので入ることはできません。


T-34型戦車

10月25日通りの近くにT-34型戦車と記念碑があります。大統領府の近くです。
第二次世界大戦で使用された戦車です。

ここでは、第二次世界大戦、アフガニスタン紛争、トランスニストリア戦争で戦った人たちの栄誉を讃えています。

戦車の側には無名戦士の墓もあり、永遠の炎と、「あなたの名前は知られていないが、功績は不滅です」という碑文があります。

こちらもチラスポリ必見スポットと言われています。


市庁舎

By John Pavelka from Austin, TX, USA - House of Soviets, CC BY 2.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74698170

T-34戦車から少し東、10月25日通りにあります。

The House of Soviets とも呼ばれているようです。
その名の通りソ連時代の建物で、ソ連時代を感じることができます。

建物の前には、レーニンの胸像があります。


スヴォーロフ像

ロシア帝国の将軍、アレクサンドル・スヴォーロフ(Alexander Suvorov)の像です。不敗の指揮官として知られているそうです。

By AwOiSoAk KaOsIoWa, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=58483285

像はスヴォーロフ・スクエアにあります。
T-34型戦車の近くです。

スヴォーロフはチラスポリの創設者と言われています。


Green Market

ソ連らしさの残る市場です。
チラスポリの人々を見るのにとても良い場所とのことです。

モダンな緑色の建物ですが、中は伝統的な市場です。
地元の新鮮な果物、野菜、チーズ、パンのほか、ソビエトの工芸品も売っているそうです。


Victory Park (Pobeda Park)

街の東にある公園です。
ソ連の第二次世界大戦の勝利を祝って1956年に作られました。

By Clay Gilliland - TIraspol Transnistria, CC BY-SA 2.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31661188

緑が多く、歩いたりリラックスするのに良い場所です。
観覧車などの遊具もあるようです。


Kvint

モルドバはワインで有名で、沿ドニエストル共和国はブランデーで知られています。
最も有名なのは1897年に設立されたKvintで、多くの賞を受賞しています。

ワイナリーは約2,000haのブドウ園を持ち、30種類のブドウを育てています。

見学ツアー(英語対応可)があり、ぶどう、発酵、蒸留などを見学したり、試飲することができるそうです。
Kvintのブランデーは地元のパブで飲んだりスーパーで購入することもできます。

サッカー

チラスポリを拠点とする、FCシェリフ・チラスポリというサッカーチームがあります。
実はモルドバを代表するクラブです。

FCシェリフ・チラスポリの本拠地
By Julian Nyča - Own work, CC BY-SA 4.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40980543

モルドバ国内リーグを10連覇したことがある他、2021-2022シーズンはモルドバのチームとしては初めてUEFAチャンピオンズリーグ本戦に出場しました。
決勝トーナメントには進出できませんでしたが、UEFAヨーロッパリーグ決勝トーナメント進出を果たしたモルドバの強豪クラブです。
(モルドバとして出場してるようですね)


ベンデル(Bender)

事実上の首都チラスポリから西に約10kmのところにあります。
沿ドニエストル共和国では2番目、モルドバ全体では4番目に人口が多い街です。

ティギナという異称もよく使われます。
古くはそう呼ばれていたようですが、オスマン帝国に支配されてベンデルと改称されたそうです。

沿ドニエストル共和国は主にドニエストル川の左岸(東側)を支配していますが、ベンデルは川の右岸(西側)にあります。

公園のレーニン像や、バスステーションのモザイクアートなど、ソ連時代のものが多く残っています。

また、ベンデルには要塞があることでも知られています。オスマン帝国支配下の1538年に、スルタンの命令により建てられました。

By Ivo Kruusamägi - Own work, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30326693

現在、一部はロシア軍が使用しているそうですが、城や博物館は公開されています。

沿ドニエストル共和国への行き方

外務省のホームページによると2024年3月現在、この地域はレベル3の渡航中止勧告(上から2番目)が出ています。
たしか何年も前からレベル3だったと思います。
ちなみにモルドバはレベル1(十分注意)です。

沿ドニエストル共和国にはロシア軍が駐留して演習を行うことがあったり、国際的に承認されてない地域なので何かあった時の日本政府の介入が難しいことが、レベル3の理由だと思います。

しかしこのような状況でも、数は少ないですが日本の旅行会社のツアーがあるみたいです。

また、日本人でも意外と旅行で訪れている人もいるみたいですね。(検索すると出てきます)

一応お断りですが、渡航をお勧めしているわけではないです。自分が行く予定もありません。笑
どういうところなのか?という個人的な興味です。
(実際に行ってみて、自分の目で見てみたいとは思いますが…)


飛行機

沿ドニエストル共和国に民間の空港はありません。最寄りの空港は以下2つです。

・キシナウ(モルドバの首都):60km
・オデッサ(ウクライナ):100km

ウクライナはロシアによる侵攻を受けており、現在は民間機の運航がありません。

また、もしそうではなかったとしても、ウクライナ側から入るよりモルドバからの方が良さそうです。

その理由は、ウクライナから沿ドニエストル共和国へ入った際に、モルドバの入国スタンプが貰えないからです。

モルドバ政府としては、沿ドニエストル共和国はモルドバ領という立場です。
なので、ウクライナ→沿ドニエストル共和国→モルドバと移動した場合は、不法入国になってしまう可能性があります。(モルドバの入国履歴が無い)

ということで、もし沿ドニエストル共和国へ行くなら、モルドバ側から行った方が良さそうです。
(もしも、です。念の為。笑)

日本からキシナウ国際空港に行くには、ターキッシュエアラインズ(トルコ航空)か、LOT(ポーランド航空)が良さそうです。

東京、大阪からのフライトの参考情報です。(5月下旬、約2か月前のフライト検索結果)

参考フライト情報

バス

キシナウ国際空港→キシナウ中心部
空港からチラスポリまで直接行けると良いのですが、直行バスの情報を十分に得られなかったので、モルドバの首都キシナウからの行き方を書きます。

空港からキシナウまではタクシーで25分、バスで40分ほどです。

バスは2種類あります。1つはトロリーバス(30番)、もう1つは乗合のミニバス(165番)です。
どちらもキシナウの中心部まで行きます。

両者の料金は同じで6.0 MLD(約50円)、所要時間も同じで約40分です。ミニバスの方が本数が多いです。

・30番
運行時間:6:00-23:00
本数:約40分に1本
到着地:31 August 1989ストリート

・165番
運行時間:5:45-22:00
本数:約10分に1本
到着地:Ismailストリート

(どちらのバスも到着地は終点ではありません)

キシナウ中心部→チラスポリ
キシナウからチラスポリまでは、タクシー、レンタカー、バス、現地ツアーなど様々な手段があります。

一番安いのは乗合バス(Marshrutka)です。
もし自分が行くなら、地元の人が使いそうなバスにします。

運賃:50 MLD(約430円)
所要時間:約2時間(入国審査時間含む)
運行時間:7:00〜18:00
本数:20〜30分に1本
出発地:Gara Centrala (Chisinau Bus Terminal)

途中、国境で入国審査があります。
バスを降りて、フォームに記入するだけとのことです。この時、入国カード(紙)を渡されます。
このカードは沿ドニエストル共和国を出る時まで大事に持っておく必要があります。

到着地はチラスポリ駅です。
ここから南へ15分ほど歩くと街の中心部です。
帰りもここからバスに乗れます。


おわりに

未承認国家、沿ドニエストル共和国はいかがでしたでしょうか。

以前見た現地のYoutubeで、
『存在しない国と言われていますが…』
『でも土地はここにあるし、私はここにいる』
というような会話が印象的でした。(ネガティブな印象ではなかったです)

自分はたまたま日本という土地に生まれ、日本人と認識して生きています。

同じように彼らもたまたまその土地に生まれて生きていて、あるいはソ連の構成国(モルダヴィアSSR)で生活していたら、ソ連が崩壊して国として認められなくなりました。

こういうことを考えていると、国って何だろう?と思ってしまいます。

少し意味合いは違うかもしれないですが、身近なところで言えば、公式には日本と台湾には国交が無いですよね。
なので台湾には大使館がありません(交流協会が実務を処理する窓口をしています)。

ですが国交は無くても日本と台湾は頻繁に交流をしています。
自分も何回か台湾に行ったことがありますし、台湾が好きです(しばらく住んでみたいくらいです)。

今は中台関係は良くないですが、中国の人と台湾の人が仲良く話しているのを何度か見たこともあります。
人と人の関係になると、国はあまり関係ないですよね。

実際に行ったわけではないのですが、沿ドニエストル共和国も安全で人は親切だと書かれている資料を複数見ました。

まだまだ未知なことが多いですが、いつか自分の目で見てみたいなと思います。
とりあえず、Kvintのブランデーを探して飲んでみようと思います。笑

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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