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新年の音は聞こえず


淑気しゅくき」とは新年の季語である。新春のめでたくなごやかな雰囲気が天地に満ちていることを表す。
主に漢詩で使われていた言葉が季語として俳句に取り入れられたらしい。「しゅくき」の音からも、新春の静謐せいひつな空気が感じられる。

今年はそんな「淑気」とは縁遠い新年を迎えた。元日、2日ともに新聞の号外が発行された。
元日に震度7の地震が能登半島を襲う。古い木造家屋が並ぶ「木密(木造住宅密集地域)」では火災が発生し、燃え上がる炎がテレビ画面に映し出された。倒壊した建物、ひび割れた地面、濁流、土砂……。
私は、会社の先輩が年末に新潟に帰省していたことを思い出した。

SNSでは、被災地の人への連絡は控えた方がいいという意見が多かった。心配メールや電話で大事な携帯の充電を奪わないため、という理論だった。

それでも私は連絡してしまった。
「いま安全なとこいますか? 誰かと一緒にいます?」
LINEで送ったらすぐに返信が届いた。実家で家族といてとりあえず問題はないとのことだった。余震が怖い、とも言っていた。家中の懐中電灯を集めて逃げる準備は整ってる、心配してくれてありがとう、だいぶ救われたよ、大丈夫、と言われ心配は収まらなかったが、ひとまず無事でよかったと硬く握っていたスマホを放した。


1月2日、羽田空港で飛行機の衝突事故が起きた。新千歳空港からの日本航空機が着陸後、海上保安庁の航空機と衝突した。日本航空機に乗っていた乗客、乗員の全員が脱出した。日頃の避難訓練が全員脱出を実現したのだろう。海外メディアからは「奇跡」「信じられない」と称賛の声があがった。
しかし、この事故で海上保安庁の機体に乗っていた6人のうち、機長を除く5人が亡くなった。海上保安庁の機体には能登半島に向けた救援物資が積まれていた。被災地のために飛び発とうとしていた。炎上する機体の映像は悲惨なものだった。今は殉職した職員たちに思いを致す。


「明けましておめでとう」の言葉も喉に突っかかりながら発する新年である。いつまでも暗い気持ちではいられない。2024年が「淑気」に満ちるのも我々次第である。


さっき、先輩から無事帰京したとの連絡をもらった。ひとまず無事なのは何よりだ。安堵で胸を撫で下ろす。早く会って顔を見たい。



ではまた。



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