けんけん

自称作家。日々の呟き、ボヤき。たまに物語り。

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  • 『エッセイのまち』の仲間で作る共同運営マガジン

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くつおと

小さい頃、歩くことが好きだった。 散歩が好きなわけではなく、「歩く」という行為が好きだった。もっと言えば、歩くときの靴音が好きだった。 空の青さや、小鳥のさえずりや、道端に咲く野花や、木々のざわめきや、頬をなでる風の暖かさや、景色のシークエンスや、そんなもの、年端も行かないガキんちょにとっては面白味もないただの風景だった。 僕が好きだったのは、歩くときの靴音だ。スニーカーのゴムの部分と地面との接着音が好きだった。とくにアスファルトを歩くときの音が好きだった。あの湿り気のある

    • ある男の遺書(3)

      前回↓ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー- どうやら、橋爪の友人が遺書を残して亡くなったらしい。橋爪と同い年だというからまだ若かっただろうに。そして僕を驚かせたのは、この遺書を僕に読んでほしいと橋爪は言ってきたのだ。遺書を読んだことなど一度もないし、ましてや赤の他人の遺書なんてなおさらだ。別に読む気にもなれないのだが、橋爪もなかなか引かない。 橋爪が言うには、これは遺書というより手記に近いという。これを手記として読んでみた僕の感想を聞きたいというのが橋爪の願いら

      • おかしな形

        自分の行動が他者に及ぼす影響を真剣に考えると何もできなくなる。小波すら立てたくなくて、「凪」を作るために、何もしない。 でも「凪」は恐ろしい。嵐の前の静けさかもしれないし、カームベルトの下には海王類がうようよいるかもしれない。静謐な時間のなかに潜む「死」への入口。 酔ってないのに酔ったフリをする。できないのにできるフリをする。その逆もまた然り。他者によって少しずつ歪められていく自分の印象を心地良いと思うと同時に怖いとも思う。だからあらかじめ少しだけ歪ませておく。そうして他者

        • ある男の遺書(2)

          前回↓ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あれから3年が経って、季節は真冬。クリスマス・イヴ。三鷹の同じBarで橋爪とばったり会った。僕らはすぐにはお互いに気づかず、話しているうちに記憶が蘇った。「こんな偶然もあるんだな、俺は君に会いたかったよ」と橋爪は再会を喜んでくれた。 その時も橋爪はひとりで飲んでいて、他に客はいなかった。店が繁盛してるのか少し気になったが、続いているところを見るとまぁ大丈夫なのだろう。マスターは相変わらず凛々しい出立ちだった。 僕は、

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          ある男の遺書(1)

          もう3年ほど前になる。 その日は友人と吉祥寺で酒を飲んでいた。次の日が仕事で早いという友人のため、その日は21時前に解散した。盆前の暑い夜だった。 僕はどうしてもまだ帰る気になれず、ぶらぶらだか、ふらふらだか、とにかく散歩をした。気づけば三鷹駅まで歩いていた。 どこか飲める場所はないだろうかと店を探しながら歩いていると、地下に続くBarを発見した。木製の扉を開け、鈴の音がカランコロンと僕を迎えた。 店内はカウンター席のみ。照明は暗すぎず明るすぎず、なんとか本が読めるほどの明る

          ある男の遺書(1)

          ほんのちょっと

          少しだけ、雪が降った。 ほんの10分くらい、日付の変わる頃だった。その日は深夜残業終わりで、会社を出てすぐに降り始めた。 真っ黒な夜空を背景に、街灯が照らしたのは粉雪だった。地面に降りた一粒が、ころころと小さく動いて可愛らしい。 熱くなった目の奥が、極小の白い天使で冷やされる。鼻から大きく空気を吸い込んで吐き出す。それを何度か繰り返す。体の中の老廃した空気を新鮮な空気に入れ替えるこの作業が心地よい。 熱された頭が少しずつ冷えていく。近頃、頭痛がひどい。過労か、酒の飲み過

          ほんのちょっと

          初雪とクリームシチュー

          ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 今日、東京では初雪が降ったんです。 ちょっと感動しちゃった。 東京で見る雪は久々で、珍しいからさ。 めちゃくちゃ寒かったよね。 うん、寒かった。 2時間くらい降ったのかな。 そう、2時間くらい。短いあいだ降ったの。 積もらないし、舗道が濡れただけ。 ねぇ、初雪見れたあなたはラッキーよ。 ちょっぴり幸福な。 そう、ちょっとした幸福。 幸福だと思えることが幸福。 じゃあ私たちみんなラッキーね! 幸せなんてそんなもんよ。 ーーーーーー

          初雪とクリームシチュー

          新年の音は聞こえず

          「淑気」とは新年の季語である。新春のめでたくなごやかな雰囲気が天地に満ちていることを表す。 主に漢詩で使われていた言葉が季語として俳句に取り入れられたらしい。「しゅくき」の音からも、新春の静謐な空気が感じられる。 今年はそんな「淑気」とは縁遠い新年を迎えた。元日、2日ともに新聞の号外が発行された。 元日に震度7の地震が能登半島を襲う。古い木造家屋が並ぶ「木密(木造住宅密集地域)」では火災が発生し、燃え上がる炎がテレビ画面に映し出された。倒壊した建物、ひび割れた地面、濁流、土

          新年の音は聞こえず

          2023振り返り

          もうすぐ年を越すので、今年もちょこっと振り返っちゃいます。 今年もいろんなことがありましたね。 大きな話題でいうと、やっぱりコロナが5類に引き下げられたことでしょうか。長い間苦しめられた「コロナ禍」が終わりましたね。(ちなみに僕は5類になってから初感染して、その直後インフルにもかかりました…あれはしんどかった…。) そのこともあって、うちの会社では5年ぶりに大忘年会をやりました。社内でやるんですが、若手が中心になって出し物を企画してですね、大変だったけど、盛り上がって良か

          2023振り返り

          サラサーテが何か話してる

          今年は夏が長すぎたせいか、私の家の前では12月も2週目だというのにやっと黄葉が道を覆っている。 また落葉の黄色もよく見ると発色が良く艶のある葉っぱで、枯れて落ちたというより、熟れて落ちた感じである。 裸になった木から青空を覗くと、金色に照った葉が可愛くふるえていて、生命力というのを感じる。 毎日、深夜残業を繰り返し、目の奥とこめかみあたりに熱を感じつつ、冬の夜道で冷やそうと帰路につく。しかし家に帰ったら熱は痛みに変わっただけで、翌朝目覚めてもそれは消えていない。 朝、目が

          サラサーテが何か話してる

          小人閑居して不善をなす

          雨の日の午後、たばこの煙がいつもより濃い。肺に一旦入って吐き出された煙は、吐き出された瞬間は目に見えて煙だとわかるが、すぐに空中で霧消してしまう。見えなくなった煙はどこへ行くのだろう。宇宙まで飛んでいってよくわからない煙の層なんかを作っていたりしないだろうか。 この頃、ベランダでの喫煙が増えている。寒すぎるベランダで煙草を吸っていると、吐いた煙なのか、白い息なのかよくわからない。今日から年末年始の休暇で、明日から帰省する予定だった。あいにく明日も雨の予報で、気分も晴れない。

          小人閑居して不善をなす

          読書好きな人に100の質問

          https://100mon.jp/q/3138 1. 年齢は? 30まであと2年 2. 性別は? めんず 3. 読書歴は? ちまちま 4. 初めて読んだ本を覚えてる? かいけつゾロリかな 5. これまでに何冊くらい読んだ? わからない。さすがに1000は超えてると思う 6. 月の読書量は? 最近は3〜5冊 7. 1日に何時間くらい読書する? 30分〜2時間 8. どんなときに読書する? 移動中か、心が渇いたら 9. 小学校ではどんな読書感想文を書いた? 覚

          読書好きな人に100の質問

          0のプライド

          錦糸町駅北口すぐにある錦糸公園の夜は若いカップルや騒がしい大学生がやんややってる足元で数えきれないほどのラットが餌を求めチューチュー駆け巡っている。 普段から足元に視線を落としながら歩く僕には、うごめく奴らの鳴き声と若者の騒がしい声が、つまり足下の世界とアイレベルの世界が、図と地の関係で反転していると言える。いや、言えないか。 そんなこんなで、公園のベンチに置いてあった日経新聞に視線を落とすと、「地球12万年ぶりの暑さ」と見出しがあり、発行の日付は先週だった。12万年ぶり?

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          実はただの影

          音楽の対義語は建築だなんて言ったらそこそこウケた。で、建築の対義語を訊かれて答えに詰まって情けなくなった。 詩人だか建築家だかが、たびたび建築を「凍れる音楽」などと形容するが、そんなことが僕の頭の隅っこにあって、ただちょっと独り言を呟いただけだった。 「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」とは、イギリスの元首相チャーチルの名言だが、「政治」が先天的に備えている悲劇性を嘆いているように僕には思えた。「政治」は神の遊戯で、人間は「政治」

          実はただの影

          無題 -ム・ダイ-

          何もかもぶっ壊したい。全部ぶっ壊して、全てやり直したい。時々そんなことを思う。破壊衝動でもなんでもなくて、ただ冷たく、そう思う。 昼が長い。夏至っていつだっけ。いちばん昼が長いんだよね。ってことはいちばん夜が短いんだよね。夜が短いっていいね、昼が長いよりも。 夏はまだこれからなのに、昼はどんどん短くなって、夜はどんどん長くなっていく。変な感じ。 気づけば季節が巡っていて、歳を重ねて、良いことも悪いことも同じくらい経験して、いろんなものを背負っている。 そうして体の中に堆積

          無題 -ム・ダイ-

          6月19日

          1948年6月13日未明、津島修治と山崎富栄は玉川上水の土手で入水。6月19日の早朝、入水した地点から2kmほど下流の場所で男女の遺体が見つかる。2人は腰に巻かれた赤い紐で結ばれていた。男は齢38、女は28だった。 『走れメロス』、『斜陽』、『人間失格』など数々の名作を生み出した作家、太宰治。本名を津島修治。入水自殺をした男はあの太宰治だった。山崎富栄は太宰の愛人である。 太宰の墓は東京都三鷹市下連雀の禅林寺にある。斜向かいに森鴎外の墓があり、生前、太宰は短編『花吹雪』で