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コンピュテーショナルデザインは「かた」を明快に作るデザイン手法

察しのいい方はお気付きかと思いますが、タイトルの「かた」は、建築家 菊竹清訓の「か・かた・かたち」の「かた」です。

コンピュテーショナルデザインはデザインの検討をコンピュテーショナルに行う手法で、コンピュテーショナルとは、プログラムと言い換えることもできます。コンピュータプログラムによってデザインを検討するのです。
コンピュータプログラムを用いることで何が都合良いかというと、まずは圧倒的な計算力です。
その圧倒的な計算力によって、検討したい条件に対してパラメータ値を何度でも変えてその結果を確かめることが簡単に、そして圧倒的に速くできるという点です。

設計条件をパラメータ化し、それを元にプログラムとして記述した決まった手順で答えを導く方法が「コンピュテーショナルデザイン」ということになります。
これを逆に言えば、コンピュテーショナルデザインではデザインするための検討手順が明快に定まって「かた」になっていると言えます。
このことから最終的なアウトプットである「かたち」を産み出す「かた」をデザインすることがコンピュテーショナルデザインの肝になります。
ちなみに、コンピュテーショナルデザインではこのデザイン検討の手順を明快にするプログラム作成のツールとして、その流れが可視化されてわかりやすいGrasshopperなどのビジュアルプログラミングが好んで用いられますが、それも納得です。
どういったロジックでデザインを組み立てるのか、その肝となる部分が視覚的にわかりやすく扱えるので、「かた」を意識してプログラムを書くことが可能になります。

そして、「かた」をいかに明快に組み立てるかは「かたち」の良し悪しにも直結します。
どのような条件をパラメータ化するか、それらをどのような手順で考え、答えを導くか、ここがポイント
条件を変えて検討していく際に、良い「かたち」は、やはり良い「かた」から産み出されるのも経験的にそうですし、産み出された「かたち」を説明するのにも明快な「かた」が役に立ちます。明快な「かた」は明快に「かたち」を説明することに繋がり、説得力が増します
そういう意味でも明快な「かた」=デザイン手順を見える化して整理するためにGrasshopperなどのビジュアルプログラミングを用いたコンピュテーショナルデザインは有効な方法になり得ます。

1つ例を挙げてみます。
BIGの『Kaktus Towers』を読み解いたGHのPJです。
(具体的なGH解説はこちらの記事で書いてます→BIGの『Kaktus Towers』を題材にGH書いてみた

まず、通常の集合住宅ではタワー形状の場合、垂直ラインが特徴となるようなデザインとなり勝ちです。住戸も上下に同じタイプが積み上がるのが通常で、そのため住戸間の仕切りも垂直ラインを構成する1つの要素に自然となります。併せてバルコニーも上下階で同じ形状となり、画一的な住戸がどうしても多くなり、外観デザインが特徴付けられることになります。
こういった条件の元に、画一的な外観デザインを脱する操作をシンプルなロジックで行いつつ、複雑な外観デザインを作り出しています。

形態操作のダイアグラム

ここで採用されたシンプルな形態操作のロジックは、「バルコニーを階層ごとにランダムに回転させる」です。
各階ごとのバルコニーを平面的にランダムに回転させることで、タワー形状であり勝ちな垂直ラインが特徴となるデザインから脱し、建築計画的にも上下の住戸でも階ごとに異なる形状のバルコニーを持つことで住戸のバリエーションが増えプラン上の面白さが産み出されています。
これによって生み出される複雑なバリエーションが、「各層ごとにバルコニーをランダムに回転させる」という1つのシンプルな操作だけで作り出されていることがこの「かたち」を生み出すための「かた」です。

シンプルな「かた」から作り出される新しい「かたち」

もう少しこの建築を読み解いていくと、実は回転角は2、3パターンに絞られていることがわかります。
全層をすべてバラバラにランダムに回転させることはもちろん可能ですが、現実的な施工やコストを考えても回転角は数パターンに絞られている方がやはり良いです。この辺りはアートでなく建築である故の事情だったりしますが、このような制約も条件としてプログラムに組み込むことが可能です。

回転角の分析
回転角パターンを検証するためのGHのプログラム

GHのプログラムでも全層ランダムだけでなく回転角を絞ったパターンの検証が行えるロジックを含めて作成しました。
回転角を絞ることで外観デザインに与える印象が簡単にシミュレーションしてみれます。

回転角のパターン検証

こうした「かた」を作るロジックが順を追って視覚的に確認しやすい形で作ることができるツールとして、Grasshopperがよく活用されていますが、以下がそのイメージです。基本的に左から右にデータが流れて順に検討ロジックを通っていきます。

GHによるプログラム全体像

1つ「かた」ができれば、インプットとなる条件設定が変わることでパラメータを当てはめ直すだけで、条件に沿ったアウトプットを「かたち」として出すことができます。
実際に、BIGでも同じ「かた」を使ってデザインされたPJが複数あります。
この「かた」を意識的にデザインされているからこそ、そういうことになっているのだと思います。

「かた」に条件を変えてアウトプットした「かたち」

Grasshopperでデザイン生成してみることで「かた」を意識的に書き出したものを「GHコンセプトシリーズ」として公開してますので、是非そういった視点で見てもらえればと思います。

Grasshopper解説については、以下のマガジン・記事でたくさん発信しています。興味を持った方はぜひ参考にしてみてもらえればと思います。

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