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オリパラがあってもなくても、誇れるレガシーを ~Blade for All~

イントロ

 2014年、株式会社Xiborgを創業し、トップパラアスリートのブレード開発とサポートを本格的に始めました。ブレードとは、義足のアスリートが競技で使用するカーボン製のバネのことです。パラアスリートがテクノロジーを駆使して速く走れる姿はシンプルにワクワクするし、健常者との壁を打ち砕いてくれる期待もしていました。これまでに、日本人選手3名、アメリカ1名、オランダ1名、レバノン1名、インド1名のサポートをしてきました。その中で、トップアスリートが競技の中で走ることと、一般の義足ユーザが普通に日常の中で走ることへのギャップを感じるようになりました。もしかしたら、トップアスリートが使っているブレードをみんなが使えるように民主化し、ビジネス的にも回るようなモデルを作ることができれば、それがレガシーといえるものになるのではと感じるようになりました。それがBlade for All プロジェクトです。

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はじめの1歩のためのギソクの図書館とその新たな課題

日本のトップアスリートたちと活動している中で、一般義足ユーザがブレードで走り出すことの敷居があまりにも高いことを知り、仲間たちとギソクの図書館をクラウドファンディングを通じて作りました。敷居が高い理由の1つはブレードやパーツ類が高価であり、それが保険対象外であるということでした。例えば、カーボン製のブレードは約25~60万円、膝継手は約30万円します。アスリートであれば、いくら払ってでも速く走れるのであれば払うのかもしれませんが、公園でちょっと走ってみたいだけでこれだけのお金を払う人はそういません。ギソクの図書館は、その名の通りブレードやパーツをたくさん揃え、ここに来れば試しに走ることができるという場所です。ここで毎月義肢装具製作所OSPOと協力してランニングクリニックを開催し、たくさんの義足ユーザが楽しく走り、その中からアスリートも生まれました。

ギソクの図書館は当初は全く世間で話題にもならないものでしたが、クラウドファンディングが成功し、海外からの取材が増えてから日本でも話題になりました。開館してから最初の見学者はなんとオーストラリアからたまたま日本にきていた家族で母国メディアでギソクの図書館のことを知りきてくださいました。そして、この出会いがのちの活動に大きな影響を与えたのでした。

日本でもその知名度をじわじわが広がる中、

  1. 東京以外の人はなかなかいけない
  2. ここに来なければ走れない
  3. 自分で日常用義足とブレードを付け替えることが難しい

などといった新たな課題も浮き彫りになりました。移動図書館や付け替えワークショップといった試みもやってみましたが、なかなか広がることはありませんでした。

非日常から日常へ

ブレードを使用したランニングクリニック自体はそんなに珍しいものではなく、日本で他にも素晴らしい活動が複数存在しています。我々もランニングクリニックを毎月開催していますが、これらの試みはユーザにとっては非日常体験であり、これを日常的な体験にするためにはどうすべきかと考えるようになりました。つまり月1回1箇所に集まってブレードで走れるようになったら、次は学校や地域のコミュニティといったユーザの生活環境の中で障害者健常者関係なく一緒に日常的に楽しく走れるようにならないかというチャレンジに思い至りました。

スポーツ庁の調べでは成人の週1日以上のスポーツ実施率は53.6% であるのに対し、障害者は24.9%でした(令和2年3月 スポーツ庁調査)。つまり障害自体がスポーツができない大きな理由の1つになっているのです。またコロナ禍であっても健常成人のスポーツ実施率が前年よりも上がったのに対し、障害者は下がったのは、行動の制限が障害者の方がクリティカルであることの表れかもしれません。ブレードが手に入りづらいという課題に対してギソクの図書館は手軽にブレードを使って走ることができる場所であったのですが、運動実施率を上げることには直接貢献できるものではなかったのです。そんなことを考えていたとき、ギソクの図書館に最初に来てくれたオーストラリア人の家族のことを思い出しました。

彼らには当時4歳の女の子がいて、右足下腿が義足でした。ランニングスタジアムにくると、自分のスポーツ用の義足を取り出し見せてくれました。そして、クイーンズランド州では子供の発育にスポーツが大事であるという考えから、スポーツ用義足も無償で支給しているという話をしてくれました。その後、オーストラリアはNIDSという国の機関が、国全体の子供を含む義足ユーザにスポーツ用の義足の支給をしているということも教えてくれました。

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NIDSのサイトを見てみると、スポーツ義足支給の対象者に「今スポーツ義足を支給することにより将来的な医療費が減る可能性がある」という設問があります。つまり、スポーツを日常的に行うことがより健康的な生活を期待でき、かつ国の医療負担を減らすことにもつながると考えられているのです。

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様々な課題が普及プロセスの中に点在する

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義足ユーザがブレードを使用して日常的に走るための課題は1つだけでなく複数あります。ソケットの適合のような義肢装具士のスキルや患者の身体の状況など我々に解決が難しいものを別にして、

 1. ブレードやパーツ類が非常に高価
 2. 経験のある医療従事者がまだまだ少ない
 3. 自分で日常用義足とブレードを付け替えることにリスクが生じる
 4. 走る場所が少ない
 5. 周りの理解が進まない

などのような課題があるかと思います。この取り組みはすでにXiborgの枠を超え、企業、アスリート、地方自治体、スポーツ団体など多くの方々とチームを組み、これらの課題解決するためのグランドデザインを目指しています。

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プロダクトのコストと普及コスト

 カーボンのブレードが高価であることが一番のボトルネックとして挙げられるかと思います。我々はこれまでアスリート向けにカーボン性のブレードを作ってきたので、パートナーの東レカーボンマジック社とのカーボン成形のノウハウはかなり蓄積されました。これを生かし、より多くの方々が使用できるような安価なブレードができないかと思い、現在開発中です。これ以外にも関連パーツも徐々に開発を始めています。

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ただし、これらが安価になったからといって次の日から義足ユーザがすぐに走り始めらえるかと言われると答えは No です。義足ユーザの身長、体重、年齢はもちろん、断端の状態、形状、切断の経緯や残存機能は人それぞれ違うので、個別ことなる対応が求められるケースが多いので、義肢装具士をはじめとする医療従事者の柔軟性や対応能力が求められます。さらに、義足ユーザは世界中に点在しており、1箇所に集めてサービスを提供することもできないので、サービスのデリバリーにもコストがかかります。これらのロジスティックス含むビジネスがまわる仕組みづくりも必要となります。

グランドデザインとしてのBlade for Allプロジェクト

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グランドデザインの具体的な活動内容は多岐にわたりますが、まずは静岡県ブレードランニングクリニックから活動が始まりました。静岡県障害者スポーツ協会、静岡県、松本義肢製作所の協力を得て、静岡県内外から10名の初心者経験者含む義足ユーザが集まり、スポーツ用義足に関する座学、日常用義足からスポーツ用義足への付け替え方、走り方を学んでもらいました。一緒に活動している春田純、佐藤圭太、池田樹生、山本篤、為末大らも勢揃いしました。その1週間後、参加者の1人高木くんが運動会でブレードで走ることに挑戦し、そのことが新聞にも取り上げられました。その後も他の参加者数名にもブレードをレンタルし、日常的に走り始めるところまでのサポートを行ってきました。彼らの身体的、精神的変化は定期的にデータとして収集しており、走ることのメリットの科学的エビデンス構築にも取り組んでいます。

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今後の展開

 静岡県でのトライアルで、このような活動は行政、医療機関、当事者(義足ユーザ)そしてパラアスリートのステークホルダーが揃わないとできないということがよくわかりました。今後も静岡県の他の義足ランナーの誕生のサポートをしつつ、他の地域でも同じような活動ができないかと画策しています。さらには、国外でもブレードで走ることを広げるために、アメリカのJarryd Wallace選手との連携やラオスやインドでも活動をすでに初めています。まだまだ、始まったばかりのプロジェクトですが、是非ともブレードで走ってみたい18歳未満義足ユーザがいたら、ぜひこちらに連絡をいただければと思います。条件が揃えばすぐにでも伺って走るところまでをサポートしたいと考えています。

  また一緒に活動してくださる地方自治体、医療機関、スポーツ団体、学生などの連絡もお待ちしております。まずは活動をどんどん広げていきたいので、ちょっとでも興味あればぜひこちらに連絡をください。お待ちしています。




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